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嫌いよ2

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 あ……と漏らしたのは誰か。
 前方から仲睦まじい姿で歩いて来るのは話題の2人。レーヴとアデリッサ。腕を組んで微笑み合う2人は理想の恋人同士。シェリは強く手を握り締めた。気まずげにミルティーに呼ばれるが逆に堂々としようと背筋を伸ばした。
 
 
「疚しいことはわたしはしていないもの。……逃げる必要はないわ」
「オーンジュ様……」
 
 
 昨日で正式に婚約解消された。今のシェリとレーヴは他人。
 レーヴの青の宝石眼がシェリ達を捉えた。シェリを見るなり嫌そうに顔を歪めるのは毎回のことだが、そこに明らかな嫌悪が加わるのは今までなかった。
 わたしがあなたに何をした、と詰りたり衝動を抑えシェリは勝ち誇った顔をするアデリッサを無視し、一令嬢としてレーヴに朝の挨拶を述べた。
 
 
「おはようございます、2殿
「殿下、おはようございます」
 
 
 ミルティーもシェリに倣う。後ろのヴェルデとミエーレは様子を伺うことにした。
 完全にいない者扱いをされ、悔しげに唇を噛み締めるアデリッサの隣。……レーヴの様子が変だ。傷ついた表情をするのは何故?
 シェリは疑心を持つものの、これ以上レーヴに関わって傷つくのは止めたい。冷静を貫こう。
 
 
「っ……ああ」
「それでは、わたし達はこれで。行きましょう、ミルティー様」
「は、はいっ!」

「待ちなさいっ!」
 
 
 面倒なのが絡んできた。アデリッサが瞳に涙をたっぷりと溜めた瞳でシェリを睨みつける。
 
 
「殿下! シェリ様がわたくしを無視します! 酷いですっ!」
「……あ……ああ……シェリ、君は」
「――呼ばないでいただけますか?」
 
 
 嫌われて名前を呼ばれる程哀れで皮肉なことはない。ああでも、1度だけ呆然とした様子だったが名前を呼ばれた。あれもあれで悲しい思い出である。
 
 
「第2王子殿下。いくらあなたでも、婚約者でもない令嬢を名前で呼ばないでいただけますか?」
「……え?」と驚いたのはアデリッサ。
「……っ」
 
 
 レーヴの様子がさっきから変だ。第2王子と呼ぶだけで傷ついた顔をし、拒絶すれば更に途方に暮れた顔をする。
 ただ、レーヴ自身も自分の感情に追いついていないらしく戸惑っている。
 シェリはチラリとミエーレを見る。碧眼に複雑な術式が刻まれ、吹き出しそうなのを堪えて此方のやり取りを観察している。理由があるとミエーレは言っていた。だが、聞かなかったのはシェリ。
 もう1度、話を聞いていいだろうか……。心の声はミエーレに届き、笑いそうになりながらもコクコクと頷かれた。隣にいるヴェルデは交互に視線を動かしつつ、表情は呆れていた。
 
 
「アデリッサ」
「っ、な、なによ」
「あなたを無視するから、何? わたしがあなたを無視するのは悪いのかしら?」
「っわ、わたくしは殿下の恋人よ!?」
「だから何? 正式に第2王子妃になったわけでも(そうなるでしょうけど)婚約者になったわけでもないあなたを第2王子殿下と同じ扱いをしろと言うの?」
「なっ、なっ」
「大体、あなたもわたしもお互いを嫌い合っているのだから関わるだけ無駄な労力というものよ。
 第2王子殿下。今度こそ失礼しますわ」
「……」
 
 
 顔を真っ赤に染め怒りで身を震わせるアデリッサと違い、レーヴは放心していた。本当にどうなっているのだ、彼は。
 まさか、シェリへの嫌がらせの為にアデリッサと態と仲睦まじくしているのではと勘繰るも。ミエーレからの話を聞く方が先決。
 シェリはレーヴにだけ頭を下げて横を通った。ミルティーも慌てて後を追った。
 
 残ったミエーレ達も先を行くが。
 ミエーレはレーヴの横に来ると……
 
 
「どうしたの? 殿下。大好きなナイジェル嬢が君の大嫌いなシェリに傷付けられて泣いているよ?」
「あ……ああ……そう……だな……」
 
 
 聞こえてはいても、心が追いついてない。
 殿下ぁ、とたおやかな声で泣き始めたアデリッサに抱き付かれ、背中を撫で始めた。
 
 2人から離れ、シェリとミルティーを歩いて追う。ミエーレは呆れた瞳で自分を見るヴェルデに「最高っ」と遂に吹き出した。
 
 
「こうなってくるとアデリッサは兎も角、殿下が哀れになってきました……」
「“転換の魔法”に他の性質が付加されてるね。ただまあ、元々あったシェリへの好意がアデリッサに向けられたんだ。当然、好意を向けていたシェリにあれだけ拒絶されれば、殿下の心情に大きな影響を与えてしまう」
「魔法をかけられる前なら、多分ですが殿下は外に出て来なくなるでしょうね……」
「はは。シェリと殿下のやり直しは……やっぱり無理かも」
 
 
 だって……
 
 
「おれがシェリを欲しいから」
 
 
 
 
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