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アデリッサの天国2
しおりを挟むレーヴと恋人のように愛し合う光景を是非シェリに見せてやりたい。あの高飛車で傲慢な彼女の絶望した顔は一昨日の食堂で見て以来。何度見たって飽きない。レーヴにシェリのいる教室へ行こうと誘うと首を傾げられた。
「昨日もそうだったが何故?」
馬鹿正直にシェリに見せびらかす為、だなんて言えない。高潔で真っ白なレーヴに汚い感情を見られたくなくて、アデリッサは「実は……」と瞳を潤ませた。
アデリッサが発言しかけた直後、前方から気怠げな声が飛んできた。
「おはよう殿下」
「ミエーレか。おはよう。今日も酷い隈だな。眠れているか?」
「ほっといて」
ミエーレ・ヴァンシュタイン。ヴァンシュタイン公爵家の3男で魔法の才能に関しては学園一を誇る。従者の魔法の腕もかなりの物だから、絶対にレーヴに掛けた“魅了の魔法”には気付かれない。ちゃんと予防策も施したとも言っていた。
「ミエーレ様、おはようございます」
あまり接点がない上、彼はシェリと昔馴染みで関わりたくない部類の相手。レーヴと恋仲になったので愛想だけは振り撒いておかないと。
アデリッサが人受けする笑顔で朝の挨拶を述べると、どうしてかレーヴが怪訝な声色で「? ミエーレに敬称なんて付けてどうしたんだ」と紡いだ。
心底不思議だと言わんばかりの表情。アデリッサも訳が分からず固まる。敬称を付けて? 今まで1度もミエーレを敬称無しで読んでない。親しくない相手に敬称無しでは呼ばないのは基本中の基本。
「……殿下こそどうしたの。ナイジェル嬢がおれをそう呼んでも変じゃないよ」
「変だ。ミエーレとアデリッサは昔馴染みじゃないか」
……どうなっているの?
ミエーレと昔馴染みなのはシェリ。アデリッサじゃない。レーヴが偽りを申している風もない。本心から言っている。
アデリッサは途方もない不安に駆られる。まさか、従者の“魅了の魔法“に不具合が生じたんじゃ……と。
このまま長居しては危険。ミエーレに不審を抱かれたら終わりだ。
「そうだ、いけない。殿下、今日はわたくし日直だったの忘れていましたわ。早く行って日誌を取ってこないと」
「そうだったのか。僕も同行しよう」
「ありがとうございます!」
日直なのは事実。この場から逃げるようにレーヴの腕を引っ張って立ち去った。深くミエーレが追求してこなかったのが幸いだ。とても眠そうにしているから、頭が回ってないのだろう。
屋敷に戻ったら従者を叱ってやらねばいけない。魔法が不完全なせいでレーヴの認識が可笑しくなっている。危険を犯してまで手に入れて場所を逃す訳にはいかない。天国にいて有頂天になっていた気持ちは、ミエーレの登場によって台無しになった。沸々と沸く苛立ちが心を蝕む。
「アデリッサ」
不意にレーヴに呼ばれると腕を離され、手を……指を絡めるように繋がれた。
「こうやって一緒に行こう」
「レーヴ殿下……」
ああ……幸せ。とっても。シェリでは決して手に入れられないアデリッサだけが手にした幸福。
「ずっとこうしたかったんだ。僕がもっと早く素直になっていれば、こうやってお互い一緒にいられたんだね」
「い、いえ。わたくしは今でも十分幸せです」
「アデリッサが僕に好きだと言ってくれた時、僕は今までの自分が恥ずかしくなった。どうしてあんな意地を張ってしまったのかって」
「レーヴ殿下……」
ぎゅうっと繋ぐ手に力が込められる。
魔法をかけたと同時にレーヴに思いの丈をぶつけた。しっかりと“魅了の魔法”は効果を発揮し、今までの態度が嘘のようにレーヴはアデリッサを愛しい人と抱き締めてくれた。
レーヴが真に愛するのはアデリッサだと浸透してから、レーヴに頼んでシェリとの婚約を破棄してもらい、自分と婚約を結んでもらう。
「好きだよ、アデリッサ」
「わたくしもです」
――廊下の真ん中で抱き合い、愛の言葉を交わす2人を挑発的な笑みで眺めるのが1人いた。
「ああ……へえ……そうなんだ……」
碧眼に複雑な術式を刻んでアデリッサを観察したミエーレは成る程と何度か呟く。
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