行動あるのみです!

文字の大きさ
上 下
36 / 81

アデリッサの天国2

しおりを挟む
 

 レーヴと恋人のように愛し合う光景を是非シェリに見せてやりたい。あの高飛車で傲慢な彼女の絶望した顔は一昨日の食堂で見て以来。何度見たって飽きない。レーヴにシェリのいる教室へ行こうと誘うと首を傾げられた。


「昨日もそうだったが何故?」


 馬鹿正直にシェリに見せびらかす為、だなんて言えない。高潔で真っ白なレーヴに汚い感情を見られたくなくて、アデリッサは「実は……」と瞳を潤ませた。
 アデリッサが発言しかけた直後、前方から気怠げな声が飛んできた。


「おはよう殿下」
「ミエーレか。おはよう。今日も酷い隈だな。眠れているか?」
「ほっといて」


 ミエーレ・ヴァンシュタイン。ヴァンシュタイン公爵家の3男で魔法の才能に関しては学園一を誇る。従者の魔法の腕もかなりの物だから、絶対にレーヴに掛けた“魅了の魔法”には気付かれない。ちゃんと予防策も施したとも言っていた。


「ミエーレ様、おはようございます」


 あまり接点がない上、彼はシェリと昔馴染みで関わりたくない部類の相手。レーヴと恋仲になったので愛想だけは振り撒いておかないと。
 アデリッサが人受けする笑顔で朝の挨拶を述べると、どうしてかレーヴが怪訝な声色で「? ミエーレに敬称なんて付けてどうしたんだ」と紡いだ。
 心底不思議だと言わんばかりの表情。アデリッサも訳が分からず固まる。敬称を付けて? 今まで1度もミエーレを敬称無しで読んでない。親しくない相手に敬称無しでは呼ばないのは基本中の基本。


「……殿下こそどうしたの。ナイジェル嬢がおれをそう呼んでも変じゃないよ」
「変だ。ミエーレとアデリッサは昔馴染みじゃないか」


 ……どうなっているの?
 ミエーレと昔馴染みなのはシェリ。アデリッサじゃない。レーヴが偽りを申している風もない。本心から言っている。
 アデリッサは途方もない不安に駆られる。まさか、従者の“魅了の魔法“に不具合が生じたんじゃ……と。
 このまま長居しては危険。ミエーレに不審を抱かれたら終わりだ。


「そうだ、いけない。殿下、今日はわたくし日直だったの忘れていましたわ。早く行って日誌を取ってこないと」
「そうだったのか。僕も同行しよう」
「ありがとうございます!」


 日直なのは事実。この場から逃げるようにレーヴの腕を引っ張って立ち去った。深くミエーレが追求してこなかったのが幸いだ。とても眠そうにしているから、頭が回ってないのだろう。
 屋敷に戻ったら従者を叱ってやらねばいけない。魔法が不完全なせいでレーヴの認識が可笑しくなっている。危険を犯してまで手に入れて場所を逃す訳にはいかない。天国にいて有頂天になっていた気持ちは、ミエーレの登場によって台無しになった。沸々と沸く苛立ちが心を蝕む。


「アデリッサ」


 不意にレーヴに呼ばれると腕を離され、手を……指を絡めるように繋がれた。


「こうやって一緒に行こう」
「レーヴ殿下……」


 ああ……幸せ。とっても。シェリでは決して手に入れられないアデリッサだけが手にした幸福。


「ずっとこうしたかったんだ。僕がもっと早く素直になっていれば、こうやってお互い一緒にいられたんだね」
「い、いえ。わたくしは今でも十分幸せです」
「アデリッサが僕に好きだと言ってくれた時、僕は今までの自分が恥ずかしくなった。どうしてあんな意地を張ってしまったのかって」
「レーヴ殿下……」


 ぎゅうっと繋ぐ手に力が込められる。
 魔法をかけたと同時にレーヴに思いの丈をぶつけた。しっかりと“魅了の魔法”は効果を発揮し、今までの態度が嘘のようにレーヴはアデリッサを愛しい人と抱き締めてくれた。
 レーヴが真に愛するのはアデリッサだと浸透してから、レーヴに頼んでシェリとの婚約を破棄してもらい、自分と婚約を結んでもらう。


「好きだよ、アデリッサ」
「わたくしもです」


 ――廊下の真ん中で抱き合い、愛の言葉を交わす2人を挑発的な笑みで眺めるのが1人いた。


「ああ……へえ……そうなんだ……」


 碧眼に複雑な術式を刻んでアデリッサを観察したミエーレは成る程と何度か呟く。


しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。

スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」 伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。 そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。 ──あの、王子様……何故睨むんですか? 人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ! ◇◆◇ 無断転載・転用禁止。 Do not repost.

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

わたしを捨てた騎士様の末路

夜桜
恋愛
 令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。  ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。 ※連載

【完結】夫が私に魅了魔法をかけていたらしい

綺咲 潔
恋愛
公爵令嬢のエリーゼと公爵のラディリアスは2年前に結婚して以降、まるで絵に描いたように幸せな結婚生活を送っている。 そのはずなのだが……最近、何だかラディリアスの様子がおかしい。 気になったエリーゼがその原因を探ってみると、そこには女の影が――? そんな折、エリーゼはラディリアスに呼び出され、思いもよらぬ告白をされる。 「君が僕を好いてくれているのは、魅了魔法の効果だ。つまり……本当の君は僕のことを好きじゃない」   私が夫を愛するこの気持ちは偽り? それとも……。 *全17話で完結予定。

7回目の婚約破棄を成し遂げたい悪女殿下は、天才公爵令息に溺愛されるとは思わない

結田龍
恋愛
「君との婚約を破棄する!」と六人目の婚約者に言われた瞬間、クリスティーナは婚約破棄の成就に思わず笑みが零れそうになった。 ヴィクトール帝国の皇女クリスティーナは、皇太子派の大きな秘密である自身の記憶喪失を隠すために、これまで国外の王族と婚約してきたが、六回婚約して六回婚約破棄をしてきた。 悪女の評判が立っていたが、戦空艇団の第三師団師団長の肩書のある彼女は生涯結婚する気はない。 それなのに兄であり皇太子のレオンハルトによって、七回目の婚約を帝国の公爵令息と結ばされてしまう。 公爵令息は世界で初めて戦空艇を開発した天才機械士シキ・ザートツェントル。けれど彼は腹黒で厄介で、さらには第三師団の副官に着任してきた。 結婚する気がないクリスティーナは七回目の婚約破棄を目指すのだが、なぜか甘い態度で接してくる上、どうやら過去の記憶にも関わっているようで……。 毎日更新、ハッピーエンドです。完結まで執筆済み。 恋愛小説大賞にエントリーしました。

王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…

ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。 王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。 それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。 貧しかった少女は番に愛されそして……え?

処理中です...