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ミルティーの宣言3

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 昼になると生きているだけでお腹は減る。
 授業に参加せず、昼食だけ摂るのも厭らしいが空腹を耐える根性がない。丁度ミルティーも持ってきた本を全て読み終えたらしく、表紙を閉じていた。

 
「お腹が減りました~」
「そうね。食堂で食事をするのもあれだから、パンと飲み物を買って裏庭で食べましょう」
「はい!」

 
 ずっと同じ体勢でいたせいですっかりと体が固くなっていた。思い切り伸びをして肩、腕、手首の骨が鳴った。行きましょう、とミルティーを促し図書室を去った。

 昼休憩はどこも人が多い。食堂はその最たる場所。購買に行く前シェリは食堂内を見渡した。
 見つけた。

 
「オーンジュ様? あ……」

 
 ミルティーも気になってシェリの視線の先を辿った。気まずげに金色の瞳を向けられても昨日程の痛みは起きなかった。
 2人席に座って、談笑し合うレーヴとアデリッサがいた。

 
「……すごいわねミルティーさん」
「へ」
「あなたの【聖女】としての力はすごいわ」
「わ、私何もしていませんが……?」

 
 側にいただけで何もしていない。
 側にいただけでミルティーはしっかりとシェリを助けていた。【聖女】云々は関係ない、彼女が黙って側にいてくれた、いてくれるだけで救われている。
 そうね、と可笑しく笑うとミルティーも釣られるように笑う。
 嫉妬さえ起こさなければ、もっと早くに彼女とこうして穏やかな時間を過ごせていた。そう思うとレーヴの裏切りは少しは自分自身を見つめ直す切っ掛けを与えてくれた。
 眺め続けていると気付かれる恐れがあり、購買に並んで今日のオススメの看板を見やる。

 焼きたてイチゴジャムパン、チーズスティックパンがデカデカと書かれている。
 一緒に看板を見ていたミルティーが「あ!」と嬉しげに声を上げた。

 
「イチゴジャムパンがありますね! 焼きたてだとジャムが熱すぎて気をつけないといけないですがとっても美味しいんです!」
「そう。なら、それにしようかしら」
「私も!」

 
 順調に列が進み、3番目まで迫った辺りでシェリは紫水晶の瞳に険しさと冷たさを多量に含ませ、ある方向を向いた。4人で食事をしている令嬢グループがいた。彼女達は突然シェリからそのような瞳を向けられ震え上がった。

 
「あら、ごめんあそばせ。不味そうな蜜《デザート》を味わっていらっしゃるからつい気になってしまって」

 
 列が進むにつれて、婚約破棄間近なオーンジュ公爵令嬢が平民といると陰口を叩く声は大きくなっていた。向こうも聞こえるように言っていたのだろうが。平等を謳っていると言えど貴族社会は階級が物を言う。公爵令嬢であるシェリに意見を言えるのは、同じ公爵家か王家だけ。グループに公爵家の者はいない。よく見るとアデリッサの取り巻き達だった。成る程、と嘆息すると同時に馬鹿らしいと鼻で笑った。

 
「あなた達の顔と名前はよく存じています。飼い主と同じで下品な振る舞いが好きとは……ふふ……お似合いですこと」


 飼い主とはアデリッサ。
 ナイジェル公爵家の末っ子で娘が彼女だけという理由からシェリとは違った意味で溺愛され育てられた。見た目の愛らしさとは反対の性格の悪さはシェリも引くくらい。彼女達もアデリッサの性格の悪さをよく知っている、故にシェリに同列に立たされ顔を赤くしている。
 順番が回ってきた。おろおろとするミルティーを連れイチゴジャムパン3個とクリームたっぷりのカフェモカを注文した。ミルティーはイチゴジャムパン5個とミルクティーを注文。
 パンとカップを受け取ると食堂を後にした。

 
「……」

 
 シェリとミルティーが出て行くのを見届けた後、黙々と食事をしていた青年は蕩けそうな眼をアデリッサに注ぐレーヴに近付いた。

 
「殿下。陛下から至急城に戻るようにと報せが入りました」
「父上が? 分かった。済まないアデリッサ」
「いえ、とんでもございませんわ」

 
 食事を半分残った状態で席を立ったレーヴから少し遅れて青年も歩き出した。
 1人残されたアデリッサがひっそりと口元を歪ませた。

 チラリと、青年の碧眼がレーヴを捉える。

 
(ああ……そういうこと)

 
 青年--ミエーレの碧眼に素早く魔法陣が走る。魔法をかけた瞳から流れる情報が脳に到達し、昨日からの謎の正体を教えてくれた。
 目にかかった金髪を煩わしげに後ろにやった。年中寝不足のせいで目元に濃い隈があり、恐ろしく整った美貌に加え隈のせいで迫力が増すからと前髪を伸ばした結果である。

 
(“転換の魔法”か……)

 

 
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