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豹変の王子2

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 シェリが目を覚ますと生まれてからずっと見上げてきた天井が最初に目に入った。ふかふかなベッド、嗅ぎ慣れた花の香り、何より視線を動かすといつも目にしている壁の模様や家具がある。確か学院の食堂にいて、仲睦まじい様子で腕を組んでいたレーヴとアデリッサが目の前に来て。
 それから……それから、何があった?

 
「あ……」

 
 思い出した……そうだ、ずっと婚約者として片想いし続けていたレーヴに堂々と……

 
「ああっ……あああ……」

 
 声を出すな。
 声を上げて泣いたら、屋敷の者達に心配をかける。シーツに顔を埋めて泣き声を必死に抑えた。みっともなく泣いて、誰かに心配されるよりかはこうして1人で泣いた方が惨めにならずに済む。
 レーヴはミルティーを好きだと思っていた。だが、食堂で会った彼は存在自体ちゃんと認識していたのか危ういアデリッサを選んだ。
 そうか、そうだ、そうだったのだ。彼はずっと水面下でアデリッサと仲を深めていたのだ。ミルティーとのあの光景は、大事なアデリッサへシェリの目が向かない様にするためのカモフラージュ。
 彼が真に想っている相手はミルティーではなく、アデリッサだった。それならば、あの時のレーヴの姿に納得がいく。

 
「……殿下……レーヴ様……わたしは……、そうまでして、あなたに嫌われていたのですか? 憎まれるまでに、あなたに……」

 
 心の底から愛していた。
 青みがかった銀糸、王族だけに受け継がれる青い宝石眼。どちらも一見すると冷たさが強い色。シェリは知っている。その青い眼は、いつも国の為、民の為に尽くそうと難しい参考書や書類と見つめ合い時に目の下に濃い隈を作ったり、何事にも努力を怠らないレーヴは剣術の稽古も欠かさなかった。汗に濡れて額に張りつく髪を無造作に掻き上げ、そのまままた剣を振るう。
 何が好きか、何をしているかちゃんと知りたくて、見ていたくてずっと見ていた。

 涙が止まらない。声を抑えて泣いているのが奇跡だった。
 お願いだから暫く誰も来ないで。
 そう願ってシェリはシーツを濡らす。

 ――どのくらいの時間が経ったのか、やっと涙が止まった頃にはシェリは目元がヒリヒリと痛みを感じていた。鼻もなんだか痛い。
 誰も訪ねて来なくて良かった。
 ぼんやりと窓を見た。空は燃えるような黄昏色に染まっていた。
 改めて周辺を見渡したが此処はやっぱり自分の部屋。オーンジュ公爵家だ。推測するに倒れてしまったのだろう。倒れたシェリを誰が……? と考えた時、あの時一緒にいたのはレーヴやアデリッサだけじゃない、ヴェルデもいたと思い出した。

 
「ヴェルデ様には、とても酷いことをしてしまったわ」


 彼の片想いを潰した。
 レーヴならミルティーを幸せに出来ると信じていたのに、肝心の彼が真に好きな相手が予想もしていなかったアデリッサだった。
 シェリは袖で目元を拭った。
 ベッドサイドに置いてある呼び鈴を鳴らした。すぐにルルが入って来た。

 
「良かったお嬢様! 目を覚まされたのですね!」
「わたしを屋敷に運んでくれたのは何方?」
「学院の馬車でしたが、手配をしたのはラグーン様と聞いております」

 
 やはりヴェルデだった。

 
「ルル。顔を洗いたいの、お水を持ってきて」
「はい。……あれ? お嬢様、目元が赤いですよ? ひょっとして……」
「怖い夢を見ていたの。気分を変えたいからお願い。それとお父様は今どちらに?」
「畏まりました。旦那様は書斎の方にいらっしゃいます」
「お水を持ってきたら、会いに行っていいか確認して頂戴」
「はい」 

 
 もう構わない。
 シェリは決めた。
 第一、最初にレーヴを諦めミルティーとの婚約を望んだ。
 実際に行動に移せた。なら、今回だってきっと大丈夫。
 ルルが部屋を出た後、シェリは1人呟いた。

 
「お父様に、殿下との婚約を解消を今度こそしてもらいましょう。そして、新しい婚約者はアデリッサになるとも言わないと」

 
 恋した王子様は、もういなくなってしまったのだ……。

 
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