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豹変の王子1
しおりを挟む今朝出会ったヴェルデ曰く、レーヴが待っていたのシェリ本人。前から度々目撃していたレーヴの謎行動は全部シェリに会うためだったらしく、自分が探されているとおもいもしないシェリはただただ驚いた。タイミングがタイミングだけにずっとミルティーを探しているとばかり思っていた。
心を寄せるミルティーとの婚約を拒み、シェリとの婚約継続を望むレーヴの真意を知る。
どんな答えになろうと受け入れるしかない。
覚悟を決めたのに、いざ目前まで迫ると気持ちは揺らぐ。
レーヴが嫌いな自分を探してまで話をしようとしたのだ、ならシェリも応えないとならない。
心の中でよし……と気合を十分に入れ、昼休憩を迎えたクロレンス王立学院は思い思いの時間を過ごそうと動き出した生徒達が大勢。シェリも変な道を使ったりせず、真っ直ぐ食堂へ向かった。
……が、今回は運がなかった。レーヴとは鉢合わせしなかった。
「所詮こんなものよ……」
Aランチを頼み、料理が乗ったトレイを持って席探しをする。今日は比較的早く訪れたお陰で余裕を持って探せる。
日当たりの良い、後ろ側の席にトレイを置いた。
まだ時間はある。自分からレーヴに会いに行って話をするべきか? でも、もしヴェルデの言っていたことと実際のレーヴが違ったら? そうなったら、数日は学院に来れない自分がいる。
ナイフとフォークを綺麗な動作で動かし、食事を終えたシェリがトレイを持つとある人が向かい側に立った。
「ヴェルデ様……?」
昼休憩が始まってそれなりの時間が経っているのに今頃来たのかと首を傾げるが、水晶玉のように美しい緑色の瞳はかなりの焦りを滲ませていた。
「オーンジュ嬢っ、レーヴ殿下とお会いしましたか?」
「いいえ、あの朝以外見掛けてはいませんが……」
「そうですか……良かった……」
「?」
今朝は会ってあげてほしかった感満載だったのに、今は会わなくて良かったと安堵された。何が起きたのか訊ねようとすると、急に食堂内にどよめきが走った。元々静かではなかったが様子が可笑しい。皆の目が集中する方へシェリも注目した。ヴェルデも。
――見なければ良かったと心底後悔した。
体が震える。
動悸が激しく、息がし辛い。
誰かがオーンジュ嬢、と焦った声で呼んでくるが誰か思い出せない。
どうして、何故?
あなたが【聖女】との婚約を嫌がったのも、嫌い続けている婚約者と関係を継続させたいと願ったのも――
「ふふ、嬉しいですわ殿下! 殿下と一緒に昼食を食べられるなんて」
「僕も嬉しいよ。君とこうして食事が出来るなんて」
「まあ! ……あら?」
シェリが嫌われているので有名なら、アデリッサは存在自体認識されているかのレベルでレーヴに全く相手をされていないので有名だった。
恋人同士のように腕を組み、カウンターでメニューを選ぶ光景は本物の恋人同士だ。
互いに微笑み合うレーヴとアデリッサ。
注文を終えたアデリッサとシェリの瞳がかち合った。ニンマリと勝ち誇った笑みを見せたアデリッサがレーヴの腕を引っ張ってシェリとヴェルデの元へ来た。
「あらあ、ご機嫌ようシェリ様。ヴェルデ様もいらしたのですね」
「っ……殿下、何故ナイジェル令嬢といるのですか? それもっ」
学院で初めてレーヴに話し掛けるのが詰るもので嫌になる。
今まで散々冷たい目を向けられてきた。
今、シェリが見るレーヴの青の宝石眼は一切の感情を消し去っていた。冷たさすら、あれば温かいと錯覚してしまう虚無。
あからさまに無視をされたアデリッサが顔を歪めるも、猫撫で声でレーヴを呼んで甘える仕草をした。
「殿下っ、シェリ様が酷いです! わたくしが話しかけたのに無視をするのです……!」
悲しみの中に甘さが含んだ声。瞳にたっぷりの涙を浮かべ、泣き出す寸前のアデリッサ。彼女の演技だと普段のレーヴならすぐに見抜く。アデリッサの涙を見た途端、瞳に強い怒気を宿した青の宝石眼に嫌な予感しか抱けない。
「可哀想にアデリッサ。……お前という女は熟愛想が尽きるな」
「……」
「学院に入学してからも鬱陶しいくらい僕にまとわりつくお前にはうんざりしていたんだ。2度と僕に近付くな。勿論アデリッサにもだ。彼女に何かしてみろ、僕は」
「っ殿下!」
目の前の彼は一体誰なんだろう。
入学してから目撃していたのはミルティーと親しげに会話をし、一緒にいるレーヴ。
自分が会いに行っても嫌そうな顔をし、決して口を開かなかったレーヴ。
婚約解消を決意してから目撃した謎行動。理由を知って、彼の真意を知りたくなった。今度会ったら、逃げず堂々と会おうとした。
頬が擽ったい。何かが流れ落ちた。視界が霞む。瞬きをすると鮮明になり、頬からはまた何かが流れ落ちた。
冷酷と表せる青い宝石眼がシェリからアデリッサに向けられると一瞬にして、多分の愛が籠った人間味のあるものへ変貌。
ああ……ああ……なんだ……そういうことか……。彼が婚約解消を嫌がった真意は――
「……見損ないましたよ、殿下」
遠くなっていく意識。
最後に聞こえたのは、嫌悪と失望の混じったヴェルデの声だけだった。
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