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王家主催のパーティー5
しおりを挟む男爵家、子爵家、伯爵家の入場は既に終わっており、残るは侯爵家、公爵家、王家だけとなった。
未だフィエルテは戻らない。最悪の場合はシェリも覚悟していたので今更気にしても仕方ない。ラグーン家は侯爵の中でも最後となるがいつまでもシェリの側にはいられない。
心配するヴェルデを早く戻らせようとシェリは作り笑いを浮かべた。
「ヴェルデ様。話相手になってくださりありがとうございます。そろそろ時間ですわ」
「本当に1人で大丈夫なのですか?」
「ええ。お父様が離れたのは予想外ですが、これからを考えるとこの程度乗り越えられなくてどうします」
「……分かりました。じゃあ、1ついいですか?」
「はい?」
「会場でぼくとも踊って頂けますか?」
ファーストダンスは父と踊る予定だ。その次の相手は考えもしなかった。自分のせいで彼の片思いを潰してしまったお詫びとしては安い。喜んで、と了承した。ホッと息を吐いたヴェルデは最後までシェリを気にしつつ、ラグーン家の所へ戻って行った。その時、タイミング良くラグーン家の入場となった。
残るは公爵家。オーンジュ家は最後。
深く息を吸い、胸を張って堂々としていようと決心した時だ。シェリ、と騎士に連れられ姿を消した父が戻って来た。
「良かった。間に合ったようだな」
「お父様! 用事はもうよろしいのですか?」
「うん? うむ……まあ……解決はしていないが……私の出る幕はもう終わった」
「?」
一体何が起きたのか?
随分と歯切れの悪い言い方と騎士に事情を耳打ちされて見せたあの呆れ顔。緊急でありながらしょうもない事態なのか。試しに訊ねるが気にしなくていいと、予想通りの返答を貰った。
しかし、父が戻って心の奥底にあった微かな不安は消えた。
決心しながらもいざ順番が回ってきたら、不安は生まれた。
差し出された腕に手を添えてパーティーに入場した。
アナウンスと共に会場に足を踏み入れたオーンジュ家の父娘を周囲の貴族達はざわざわと声を響かせた。
これも予想通り、遂に第2王子に見捨てられた、今回の王家主催のパーティーは実はレーヴ王子の新たな婚約者の発表があるからではと、下衆な話をする。声量を抑えているとは言え、しっかりとシェリ達の耳に届いている。態と聞こえる声量で話しているから。
シェリは悪意を囁く周囲に凄艶で、且つ、見る者の心臓を凍てつかせる非情な紫水晶の瞳で微笑んでやった。彼女は何も発していない。人々は分かっていても、胸を襲った息苦しさと痛みに思わず手を当てた。当然だが何もない。
「言わせたい連中には言わせてやりなさい。面と向かって言えない臆病者など、我が公爵家が相手をする価値もない」
「はい。お父様」
暗に放っておけと言われてもやらないのとやるのでは心の持ち様が違う。幾分かスッとした。
王家入場のアナウンスが響いた。
先頭を歩くのは国王夫妻。優しげな相貌が印象的な国王、絶世の美姫と名高い王妃、王太子夫妻、そして……。
「……あら?」
最後にレーヴが続くと思いきや、何故か彼の姿がない。
(何故? 今日は殿下とミルティー様の婚約が発表される重要な日なのに……肝心の主役がいないのでは……)
レーヴに何かあったのかと不安になるが、昨日見掛けた時は普通に見えた。2日前以来、レーヴとは直接会っていない。あの時は偶々運が悪かっただけだった。
シェリはさっと会場内を見渡した。
(いた……!)
探していたブルーベリー色の髪の少女は見える範囲にいた。ラビラント伯爵家と一緒にいる姿はかなりそわそわとしており、目が誰かを探しているのか忙しなく動いている。彼女もレーヴがいないことに疑問を抱き、会場の何処かにいないか探しているのだろう。
第2王子の姿がないことにまた違う意味でざわつくも王家の面々が上座に着くと王が静かにさせた。
「今宵の宴、存分に楽しんでいってくれ」
短い開始の合図を皮切りに貴族達は王家に挨拶をしに行く。これも決まった順序がある。
順番通りに進み、シェリとフィエルテは前に立つと深く礼を見せた。王の言葉で顔を上げると申し訳なさそうに笑う顔があった。
「シェリ嬢……先の言葉通り、楽しんでいってくれ」
「はい。陛下の寛大なお言葉に感謝致します」
「うむ。……公爵、先程はすまなかった」
「いえ……なるべくしてなった結果、と申しましょうか」
「ふむ……あれはどうして……」
「?」
レーヴ欠席の理由を訊ねたかったがもう自分は婚約者じゃない。憚られると自制し、敢えて聞かなかったが王と父の会話を聞いているとどうもレーヴの話をしていそうだ。
上座から離れると早速ダンスが始まった。
中央のホールまで行き、父とダンスを踊る。
初めてながらも、父がシェリのペースに合わせて踊るのでとても踊りやす勝った。
終わると壁側へ移動した。
「シェリはこの後どうする?」
「そうですわね……。あ、ヴェルデ様と踊る約束をしております」
「ヴェルデ? というと、ラグーン侯爵家の……」
「はい。殿下のご友人の方です。最近、話すようになりまして」
「……そうか」
口が裂けても彼の片思いを潰してしまったのがきっかけとは言えなかった。
フィエルテと何言か話すとヴェルデを探そうとカシスジュースを片手に会場内を歩き始めた。
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