行動あるのみです!

文字の大きさ
上 下
20 / 81

王家主催のパーティー3

しおりを挟む
 

 クロレンス王国には、代々神に選ばれし乙女【聖女】が生まれ落ちる時がある。体内の魔力が安定する一定の年齢に達すると【聖女】の証である黄金の瞳が現れるのだ。今代の【聖女】も例外ではなかった。

 生まれに王族、貴族、平民もない。または貧民である場合もある。だからこそ、王国では貧富の差を埋めるべく貧民街の改善に力を入れている。親の手元では育てられない子供、訳あって捨てられた子供を孤児院で預かり手に職がつくよう生きていく術を身に着けさせる。
 近年は大きな戦争もなく、割と平和な時代が続いているクロレンス王国の第2王子として生を受けたのがレーヴ=クロイスだった。
 青みがかった銀糸は父や先代国王と同じ、直系の王族にしか受け継がれない宝石眼と呼ばれる特殊な青の瞳を持って生まれた。
 兄である王太子とは5つ歳が離れており、レーヴの将来は臣籍に下り爵位を授かるか、高位貴族の令嬢と結婚するかのどちらかだった。
 特に秀でた才能もなければ、特別魔力が多くもなく魔法に長けていることもない。強いて言うなら、絶世の美姫と名高い王妃譲りの顔の良さが取り柄の王子だ。
 尊敬する兄の補佐をしたいと幼い頃から夢見ていたレーヴは成人を迎えたら、父王から爵位を授かるつもりだった。

 ーーあの日、黄金の花畑で妖精と出会うまでは……

 
 シェリ=オーンジュ公爵令嬢。亡き公爵夫人、ディアナ譲りの波打つシルバーブロンドの髪に美しい紫水晶の瞳の少女。
 彼女を見たきっかけはなんだったか覚えていない。ただ、黄金に輝く花畑で1人遊ぶシェリの姿を見た瞬間、今まで1番大きな衝撃を受けたのだ。どういった類いのものか尋ねられてもレーヴには回答を持ち合わせていなかった。一目見ただけで心を鷲掴みにしたシェリを気にしない日がなかった。
 オーンジュ公爵家の子供はシェリ1人。なら自然と婿養子を取る形となる。彼の家はクロレンス王国でも屈指の名家。跡を継ぐ予定のない令息がシェリの婚約者にと申し込みが殺到しそうなものだが、そういった話は聞かない。1人娘を大事にするオーンジュ公爵が許しはしないのだろうが。

 妖精の如く華やかで美しいシェリに一目惚れをしたレーヴは何度も父王に婚約の打診を頼もうとしたが、その度に自身の能力を見つめ直し諦めた。特出した才能も能力も持っていない、王子という肩書きと母譲りの顔の良さしかない自分では彼女の夫になるには不相応ではないかと。
 悩みに悩んでいたある日、父に呼び出されたレーヴは信じられない話を聞かされた。

 
 『オーンジュ公爵がご息女とお前の婚約を打診してきている。会ってみる気はあるか?』

 
 兄の婚約者は南の国の末姫で既に此方の国に移住してきている。大きな争いは起きていないので無理に他国の王族・貴族と婚姻を結ぶ必要もなく、臣籍に下るか、位の高い令嬢の婿となるかのどちらかだったレーヴにとっては舞い込んだ吉報。
 ……が、ここで大きな失敗その1をやらかしてしまうとは、後に本人が大きく後悔することとなる。

 一目惚れした時から、密かにシェリについての情報収集を行っていたレーヴには気になることがあった。それは彼女が典型的な我儘娘であるということ。高位貴族の1人娘というのと亡き妻の忘れ形見とあって公爵を筆頭に周囲から大変溺愛されて育っている。自分の思い通りに事が運ばないと酷く癇癪を起こすらしい。
 他にも、身内で招待されたお茶会で同席していた他家の令嬢に思い切り怒鳴りつけ、さも自分は正しいと上から目線で説教をしたり。数人の令息を魔法で吹き飛ばしたりしたり、とやりたい放題であるらしい。
 ひょっとして、見た目だけが良くて中身が最悪なんじゃ……という一抹の不安を抱いていた。
 実際に会うと違うかもしれない。自分の願いを信じ、返事を待つ父に了承の旨を伝えた。

 
『……承知しました、父上』

 
 ここでしまった、と思っても時遅し。
 誰にも発したことのない、低く無感情な声に父だけじゃなく側近も驚いていた。最も驚いたのはレーヴ本人。
 なるべく冷静にと心掛けたのが裏目に出てしまった。この瞬間から、既にレーヴがオーンジュ公爵令嬢との婚約を嫌がっていると誰もが抱いた。 


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛を語れない関係【完結】

迷い人
恋愛
 婚約者の魔導師ウィル・グランビルは愛すべき義妹メアリーのために、私ソフィラの全てを奪おうとした。 家族が私のために作ってくれた魔道具まで……。  そして、時が戻った。  だから、もう、何も渡すものか……そう決意した。

私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください

迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。 アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。 断るに断れない状況での婚姻の申し込み。 仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。 優しい人。 貞節と名高い人。 一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。 細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。 私も愛しております。 そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。 「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」 そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。 優しかったアナタは幻ですか? どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。

貴方に私は相応しくない【完結】

迷い人
恋愛
私との将来を求める公爵令息エドウィン・フォスター。 彼は初恋の人で学園入学をきっかけに再会を果たした。 天使のような無邪気な笑みで愛を語り。 彼は私の心を踏みにじる。 私は貴方の都合の良い子にはなれません。 私は貴方に相応しい女にはなれません。

死んで巻き戻りましたが、婚約者の王太子が追いかけて来ます。

拓海のり
恋愛
侯爵令嬢のアリゼは夜会の時に血を吐いて死んだ。しかし、朝起きると時間が巻き戻っていた。二度目は自分に冷たかった婚約者の王太子フランソワや、王太子にべったりだった侯爵令嬢ジャニーヌのいない隣国に留学したが──。 一万字ちょいの短編です。他サイトにも投稿しています。 残酷表現がありますのでR15にいたしました。タイトル変更しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

処理中です...