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王家主催のパーティー3
しおりを挟むクロレンス王国には、代々神に選ばれし乙女【聖女】が生まれ落ちる時がある。体内の魔力が安定する一定の年齢に達すると【聖女】の証である黄金の瞳が現れるのだ。今代の【聖女】も例外ではなかった。
生まれに王族、貴族、平民もない。または貧民である場合もある。だからこそ、王国では貧富の差を埋めるべく貧民街の改善に力を入れている。親の手元では育てられない子供、訳あって捨てられた子供を孤児院で預かり手に職がつくよう生きていく術を身に着けさせる。
近年は大きな戦争もなく、割と平和な時代が続いているクロレンス王国の第2王子として生を受けたのがレーヴ=クロイスだった。
青みがかった銀糸は父や先代国王と同じ、直系の王族にしか受け継がれない宝石眼と呼ばれる特殊な青の瞳を持って生まれた。
兄である王太子とは5つ歳が離れており、レーヴの将来は臣籍に下り爵位を授かるか、高位貴族の令嬢と結婚するかのどちらかだった。
特に秀でた才能もなければ、特別魔力が多くもなく魔法に長けていることもない。強いて言うなら、絶世の美姫と名高い王妃譲りの顔の良さが取り柄の王子だ。
尊敬する兄の補佐をしたいと幼い頃から夢見ていたレーヴは成人を迎えたら、父王から爵位を授かるつもりだった。
ーーあの日、黄金の花畑で妖精と出会うまでは……
シェリ=オーンジュ公爵令嬢。亡き公爵夫人、ディアナ譲りの波打つシルバーブロンドの髪に美しい紫水晶の瞳の少女。
彼女を見たきっかけはなんだったか覚えていない。ただ、黄金に輝く花畑で1人遊ぶシェリの姿を見た瞬間、今まで1番大きな衝撃を受けたのだ。どういった類いのものか尋ねられてもレーヴには回答を持ち合わせていなかった。一目見ただけで心を鷲掴みにしたシェリを気にしない日がなかった。
オーンジュ公爵家の子供はシェリ1人。なら自然と婿養子を取る形となる。彼の家はクロレンス王国でも屈指の名家。跡を継ぐ予定のない令息がシェリの婚約者にと申し込みが殺到しそうなものだが、そういった話は聞かない。1人娘を大事にするオーンジュ公爵が許しはしないのだろうが。
妖精の如く華やかで美しいシェリに一目惚れをしたレーヴは何度も父王に婚約の打診を頼もうとしたが、その度に自身の能力を見つめ直し諦めた。特出した才能も能力も持っていない、王子という肩書きと母譲りの顔の良さしかない自分では彼女の夫になるには不相応ではないかと。
悩みに悩んでいたある日、父に呼び出されたレーヴは信じられない話を聞かされた。
『オーンジュ公爵がご息女とお前の婚約を打診してきている。会ってみる気はあるか?』
兄の婚約者は南の国の末姫で既に此方の国に移住してきている。大きな争いは起きていないので無理に他国の王族・貴族と婚姻を結ぶ必要もなく、臣籍に下るか、位の高い令嬢の婿となるかのどちらかだったレーヴにとっては舞い込んだ吉報。
……が、ここで大きな失敗その1をやらかしてしまうとは、後に本人が大きく後悔することとなる。
一目惚れした時から、密かにシェリについての情報収集を行っていたレーヴには気になることがあった。それは彼女が典型的な我儘娘であるということ。高位貴族の1人娘というのと亡き妻の忘れ形見とあって公爵を筆頭に周囲から大変溺愛されて育っている。自分の思い通りに事が運ばないと酷く癇癪を起こすらしい。
他にも、身内で招待されたお茶会で同席していた他家の令嬢に思い切り怒鳴りつけ、さも自分は正しいと上から目線で説教をしたり。数人の令息を魔法で吹き飛ばしたりしたり、とやりたい放題であるらしい。
ひょっとして、見た目だけが良くて中身が最悪なんじゃ……という一抹の不安を抱いていた。
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『……承知しました、父上』
ここでしまった、と思っても時遅し。
誰にも発したことのない、低く無感情な声に父だけじゃなく側近も驚いていた。最も驚いたのはレーヴ本人。
なるべく冷静にと心掛けたのが裏目に出てしまった。この瞬間から、既にレーヴがオーンジュ公爵令嬢との婚約を嫌がっていると誰もが抱いた。
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