16 / 81
レーヴの謎行動2
しおりを挟む目の前にいる相手の本物偽物説は置いておき。今になってシェリに会いに来たレーヴの思惑を推理してみた。
結果――完敗である。そもそも、推理をする材料が無さすぎた。
交流はシェリが一方的に会いに行って、常に嫌そうな顔をされても返事をされなくてもめげずに話し続けただけ。役割として誕生日プレゼントや定期的なプレゼントは贈られても、彼本人の心の籠ったプレゼントは予想するまでもなく1度もない。
嫌われてると自覚しながらも、恋はいつか実ると信じた。恋愛小説に夢を抱き過ぎていた。現実は物語の世界と違う。物語は読者が満足するよう、主人公とヒロインは必ず結ばれハッピーエンドとなる。自分のようなお邪魔虫は馬に蹴られて死ねと罵られるだけ。
好きで悪役に生まれた訳じゃないのに。幸運なのは、我儘だった娘を見捨てず溢れんばかりの愛情を注いでくれた父がいてくれたこと、優しい使用人達に囲まれていたこと。たった1つでも欠けていたら、人としてもシェリは終わっていた。
今やるべきはこの場をどう乗り切るべきか、である。
他人行儀に接せられてショックを受けて呆然としているレーヴ。
あれ? とシェリは内心首を傾げた。
(これ、チャンスでは……)
レーヴの謎の衝撃は解釈のしようがないが逃げるなら今が絶好の機会。試しに顔の前で手を振ってもレーヴはピクリともしない。
考えるよりも最優先事項は体を動かし、裏庭からの逃亡――否、レーヴの前から消えること。
「……これ以上お話がないようであれば、わたしは失礼致しますわ」
完璧な淑女の礼を見せると彼が我に返る前に素早く逃げ出した。
走らず、だが急いで、次は図書室へ向かう。追い掛けて来る気配がない。彼は一体何をしに裏庭へ来たのか。
……何故、今更になってシェリの名前を紡いだのか。
「……っ」
正直に明かそう。
心が破裂せんばかりに嬉しかった。初めて名前を呼んでもらえて。身嗜みには気を遣う彼が髪を乱してまで探す相手はミルティー以外いない。
隅っこへ移動したシェリは読みもしない本を取ってページを開いた。読んでいる振りをしながら、ゆっくりと思考していく。
シェリの前にレーヴがそうまでして現れたのは、ミルティー絡み。シェリが大きく関係しているから、今回嫌々ながら探しに来たと推理出来た。我ながら完璧な推理だと鼻が高くなった。
……激しく落ち込んだのは言うまでもない。
机に顔を突っ伏したシェリ。周囲に誰もいなくて良かった。
「……仮にミルティー様絡みだとしても、どんな用件だったのかしら。
昼食でのやり取りを見ていた? なら、食事中に注意をしてくるわね。それとも、わたしが食堂を出るのを狙って待っていた? ああ……これが1番しっくり来るわ」
婚約解消の話しは当然シェリの耳にも入っていると知るレーヴが想い人であり、新たな婚約者となったミルティーの心配をしない筈がなく、彼女を害する可能性が最も高い相手に危険を抱くのも道理。
「はあ……」
分かっている。分かっていても辛い。
どんな悪意からも守りたくなる庇護欲のそそられる、純粋で可憐な少女になりたかった。生まれたかったは決して言わない。産んでくれた母に失礼である。
母譲りの波打つシルバーブロンドはシェリの誇りだ。幼い頃から毎日手入れは欠かさない。侍女達のお陰で傷みも癖もない美しい髪。
容姿が良いのは自分自身知っていた。中身が駄目なら、せめて見た目だけでも好印象を持たれようと思い付いたのが始まり。
結果はお察しだ。
お昼を食べた後、ぽかぽかな陽気、丁度良い高さの本が枕代わり――。
昼寝をするには持ってこいの条件が重なったてしまい、押し寄せた眠気に逆らえずシェリは重たい瞼を抵抗なく閉じた。
規則正しい寝息を立てて眠ったシェリの元に近付く人。
「おやおや……風邪を引いてしまいますよ」
日光に当てられ自然の色を彷彿とさせる緑の瞳に若干の呆れを宿しつつ、制服の上着を脱いだヴェルデは華奢な体にそっとそれを掛けた。
凄艶な寝顔を欲の制御出来ない男が見たら、無防備なせいであっという間に美味しく頂かれてしまう。
詳しい経緯は全く聞かされてないが、恐らくだがシェリとレーヴの婚約解消は後者に原因がある。
向かい側の席に座ったヴェルデは、頬杖をついて無防備な寝顔を眺めた。
「殿下の異常な意地っ張りの原因は何だったのでしょうか」
それを知っていたら、彼の友人であるヴェルデでも少しは手伝えたかもしれないのに。
50
お気に入りに追加
991
あなたにおすすめの小説
君のためだと言われても、少しも嬉しくありません
みみぢあん
恋愛
子爵家の令嬢マリオンの婚約者、アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は…… 暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
あなたのためなら
天海月
恋愛
エルランド国の王であるセルヴィスは、禁忌魔術を使って偽の番を騙った女レクシアと婚約したが、嘘は露見し婚約破棄後に彼女は処刑となった。
その後、セルヴィスの真の番だという侯爵令嬢アメリアが現れ、二人は婚姻を結んだ。
アメリアは心からセルヴィスを愛し、彼からの愛を求めた。
しかし、今のセルヴィスは彼女に愛を返すことが出来なくなっていた。
理由も分からないアメリアは、セルヴィスが愛してくれないのは自分の行いが悪いからに違いないと自らを責めはじめ、次第に歯車が狂っていく。
全ては偽の番に過度のショックを受けたセルヴィスが、衝動的に行ってしまった或ることが原因だった・・・。

王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
愛を語れない関係【完結】
迷い人
恋愛
婚約者の魔導師ウィル・グランビルは愛すべき義妹メアリーのために、私ソフィラの全てを奪おうとした。 家族が私のために作ってくれた魔道具まで……。
そして、時が戻った。
だから、もう、何も渡すものか……そう決意した。
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

やり直し令嬢は本当にやり直す
お好み焼き
恋愛
やり直しにも色々あるものです。婚約者に若い令嬢に乗り換えられ婚約解消されてしまったので、本来なら婚約する前に時を巻き戻すことが出来ればそれが一番よかったのですけれど、そんな事は神ではないわたくしには不可能です。けれどわたくしの場合は、寿命は変えられないけど見た目年齢は変えられる不老のエルフの血を引いていたお陰で、本当にやり直すことができました。一方わたくしから若いご令嬢に乗り換えた元婚約者は……。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる