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「――ミルティーが昨日、レーヴ殿下の婚約者に決定されたとぼくに言いに来たのです」


 嫌な予感程確実に当たる。シェリはヴェルデの顔を直視出来ず、逸らしてしまった。


「……ラグーン様の想い人は、ミルティー様だったのですね」
「はい。彼女がラビラント伯爵家に保護され、養女となった時から。ただのぼくの一目惚れですがね。オーンジュ嬢はレーヴ殿下との婚約解消をどう受け止めたのですか?」


 決して自分がレーヴの為に両想いのミルティーと婚約を結んでほしい、とは言えない。

 本を膝に置いたシェリは視線を合わさず、ぽつりぽつりと紡いだ。


「私はずっとレーヴ様に嫌われていました。レーヴ様を好きな気持ちは誰にも負けません。……でも【聖女】であるミルティー様を王家が保護する正当な理由がレーヴ様なのです。幸い、レーヴ様は婚約者が嫌いなので陛下もわたし達の婚約を解消しても問題はないと判断したのでしょう」
「あなたはそれで良いのですか? 受け入れるだけで」
「王命ならば、従うしかありません。嫌われていてもレーヴ様の婚約者でいられたのです。……それだけでわたしは幸せでしたわ」


 今でも心は悲鳴を上げている。嫌だと。優しい瞳を向けて、声を掛けて、側にいて、と。

 最初から間違えてしまっていたシェリでは、どれだけ努力しても叶わない夢なのだ。

 悲し気に整ったかんばせを歪ませたヴェルデが「強いですね」と言う。逆だ、とても弱い。弱いから、心は痛みを抱えたまま。


「……殿下の異常な意地っ張りが原因で起きてしまいましたが、もう仕方ありませんよね」
「?」


 距離があるのでヴェルデの呟きを拾えず、訝しく思っているとヴェルデは此方に向いた。


「【聖女】を保護するのは王家の役目です。ぼくもオーンジュ嬢のように2人を祝福しないといけませんよね……」
「……ええ」
「オーンジュ嬢。失恋した者同士ですが、こうやって時々話相手になってくれませんか?」
「わたしなどで良ければ」
「ありがとう」


 最初に来た時よりは幾分か元気を取り戻したヴェルデは、そろそろ授業が始まる時間だと去って行った。シェリも戻らないといけない。


「レーヴ様のことばかり考えていたせいで、他の人のことを考えていなかったわ……」


 ずっと平民として暮らしていたミルティーは天真爛漫で淑女としてはしたない部分はあるが誰に対してもハッキリと意見を言う。物怖じしない彼女に好意を抱く男子は意外に多いと記憶している。

 シェリは首を振った。


「いいえ、レーヴ様の為。レーヴ様の為と思わなきゃ」


 ヴェルデには申し訳ない気持ちもある。しかし、レーヴが相思相愛の相手と一緒になるにはこれしか手段が無かったのだ。

 シェリは立ち上がると下に敷いていたハンカチを綺麗に畳み、ポケットに仕舞って自身の教室へ歩き出した。


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