8 / 81
1人が好きな仲間3
しおりを挟む「――ミルティーが昨日、レーヴ殿下の婚約者に決定されたとぼくに言いに来たのです」
嫌な予感程確実に当たる。シェリはヴェルデの顔を直視出来ず、逸らしてしまった。
「……ラグーン様の想い人は、ミルティー様だったのですね」
「はい。彼女がラビラント伯爵家に保護され、養女となった時から。ただのぼくの一目惚れですがね。オーンジュ嬢はレーヴ殿下との婚約解消をどう受け止めたのですか?」
決して自分がレーヴの為に両想いのミルティーと婚約を結んでほしい、とは言えない。
本を膝に置いたシェリは視線を合わさず、ぽつりぽつりと紡いだ。
「私はずっとレーヴ様に嫌われていました。レーヴ様を好きな気持ちは誰にも負けません。……でも【聖女】であるミルティー様を王家が保護する正当な理由がレーヴ様なのです。幸い、レーヴ様は婚約者が嫌いなので陛下もわたし達の婚約を解消しても問題はないと判断したのでしょう」
「あなたはそれで良いのですか? 受け入れるだけで」
「王命ならば、従うしかありません。嫌われていてもレーヴ様の婚約者でいられたのです。……それだけでわたしは幸せでしたわ」
今でも心は悲鳴を上げている。嫌だと。優しい瞳を向けて、声を掛けて、側にいて、と。
最初から間違えてしまっていたシェリでは、どれだけ努力しても叶わない夢なのだ。
悲し気に整った顔を歪ませたヴェルデが「強いですね」と言う。逆だ、とても弱い。弱いから、心は痛みを抱えたまま。
「……殿下の異常な意地っ張りが原因で起きてしまいましたが、もう仕方ありませんよね」
「?」
距離があるのでヴェルデの呟きを拾えず、訝しく思っているとヴェルデは此方に向いた。
「【聖女】を保護するのは王家の役目です。ぼくもオーンジュ嬢のように2人を祝福しないといけませんよね……」
「……ええ」
「オーンジュ嬢。失恋した者同士ですが、こうやって時々話相手になってくれませんか?」
「わたしなどで良ければ」
「ありがとう」
最初に来た時よりは幾分か元気を取り戻したヴェルデは、そろそろ授業が始まる時間だと去って行った。シェリも戻らないといけない。
「レーヴ様のことばかり考えていたせいで、他の人のことを考えていなかったわ……」
ずっと平民として暮らしていたミルティーは天真爛漫で淑女としてはしたない部分はあるが誰に対してもハッキリと意見を言う。物怖じしない彼女に好意を抱く男子は意外に多いと記憶している。
シェリは首を振った。
「いいえ、レーヴ様の為。レーヴ様の為と思わなきゃ」
ヴェルデには申し訳ない気持ちもある。しかし、レーヴが相思相愛の相手と一緒になるにはこれしか手段が無かったのだ。
シェリは立ち上がると下に敷いていたハンカチを綺麗に畳み、ポケットに仕舞って自身の教室へ歩き出した。
122
あなたにおすすめの小説
【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目の人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
チョイス伯爵家のお嬢さま
cyaru
恋愛
チョイス伯爵家のご令嬢には迂闊に人に言えない加護があります。
ポンタ王国はその昔、精霊に愛されし加護の国と呼ばれておりましたがそれももう昔の話。
今では普通の王国ですが、伯爵家に生まれたご令嬢は数百年ぶりに加護持ちでした。
産まれた時は誰にも気が付かなかった【営んだ相手がタグとなって確認できる】トンデモナイ加護でした。
4歳で決まった侯爵令息との婚約は苦痛ばかり。
そんな時、令嬢の言葉が引き金になって令嬢の両親である伯爵夫妻は離婚。
婚約も解消となってしまいます。
元伯爵夫人は娘を連れて実家のある領地に引きこもりました。
5年後、王太子殿下の側近となった元婚約者の侯爵令息は視察に来た伯爵領でご令嬢とと再会します。
さて・・・どうなる?
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?
きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。
しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……
【完結】さよならのかわりに
たろ
恋愛
大好きな婚約者に最後のプレゼントを用意した。それは婚約解消すること。
だからわたしは悪女になります。
彼を自由にさせてあげたかった。
彼には愛する人と幸せになって欲しかった。
わたくしのことなど忘れて欲しかった。
だってわたくしはもうすぐ死ぬのだから。
さよならのかわりに……
初恋が綺麗に終わらない
わらびもち
恋愛
婚約者のエーミールにいつも放置され、蔑ろにされるベロニカ。
そんな彼の態度にウンザリし、婚約を破棄しようと行動をおこす。
今後、一度でもエーミールがベロニカ以外の女を優先することがあれば即座に婚約は破棄。
そういった契約を両家で交わすも、馬鹿なエーミールはよりにもよって夜会でやらかす。
もう呆れるしかないベロニカ。そしてそんな彼女に手を差し伸べた意外な人物。
ベロニカはこの人物に、人生で初の恋に落ちる…………。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる