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決心3
しおりを挟むフィエルテも国王夫妻も王太子夫妻も知っている。
何度かレーヴに苦言がいくも、その場は渋々謝罪するが結局は同じだった。国王夫妻や王太子夫妻が頭を抱えていた。
「わたしとの婚約が解消されても【聖女】の生まれ変わりであるミルティー様と婚約を結び直すことで、逆に王家が【聖女】を保護する理由としては正当化できます」
「例えそうだとしても、シェリ、お前の気持ちはどうなる?」
本当は声を大にして叫びたい。
嫌だと、レーヴを誰よりも好きなのは自分だと。
レーヴの気持ちと幸せを考えたら、シェリが出来るのはもうこれだけなのだ。
涙が出るのをグッと堪え、紫水晶の瞳を真っ直ぐ父へ向けた。
「優先度を考えれば、王族との婚姻が一番理想かと。わたしの気持ちなど、国と天秤に掛ければどちらに傾くかなど決まっています。……それに、レーヴ様は大層喜んでくれることかと。相思相愛と言われるお相手と婚約出来るのですから」
「……分かった。但し条件がある」
「条件?」
レーヴとの婚約が解消されれば、また、新たな婿養子を探さないとならない。相手の選定にシェリは口出しするなということなのだろうか。ならシェリは頷くだけ。反論するつもりはない。
「婚約解消と言い出したのは、決してシェリからだとレーヴ殿下に言わないこと。この一点のみ、守れるか?」
「?」
よく分からない条件だが、取り敢えずシェリは頷いた。
言うも言わないもレーヴとは、学院に入学して半年経つが1度も会話をしたことがない。
簡単に守れる条件で良かったと安堵した。
父とはそれから他愛ない話をして部屋を出た。足取りは決して軽くない。気持ちは幾らかすっきりとしている。
「レーヴ様に今まで迷惑をかけてきた償いと思えばいいのよ」
嫌っている婚約者よりも、王国に平和と繁栄をもたらす【聖女】であり、更に相思相愛と名高いミルティーなら恨まない自信がある。
これがもし、他の誰かだったらシェリは心の底から嫉妬し、オーンジュ公爵家に相応しくない令嬢となってしまっていただろう。
婚約破棄については、後日フィエルテと国王が話し合って決める。
気掛かりの、婚約破棄の話をシェリが提案したとレーヴに言わないこと。
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「早くならないかしら」
そうしたら、シェリはレーヴを遠くから見守り続けられる。
私室に戻ったシェリは侍女を下がらせ、ベッドに寝転がった。
――約10日後、レーヴとシェリの婚約は破棄され、新たにミルティーとレーヴの婚約が結ばれたとフィエルテに告げられた。
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