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決心1

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 シェリ・オーンジュは窓の下にいる2人の男女の姿を見て気持ちを固めた。


「もう嫌……」


 美しく波打つシルバーブロンドの長髪を耳に掛け、長い睫毛に縁取られた紫水晶は悲壮感満載で男の方を見つめた。

 木を陰にして寄り添い合う2人の男女の内、男性はシェリの婚約者レーヴ・クロイス。青みがかった銀髪は晴れた冬空のような美しさを放ち、王族にしか受け継がれない宝石眼と呼ばれる特殊な青い瞳の持ち主。


「レーヴ様……」


 レーヴは王国の第2王子。
 幼い頃、レーヴを一目見て心奪われたシェリが父であるオーンジュ公爵に我儘を言って婚約が成立した。国王夫妻の子は王太子である兄とレーヴだけ。
 オーンジュ公爵家の子はシェリだけ。レーヴが婿養子として公爵位を継ぐ予定となっている。

 ……が。


「とっても、嫌われているものね……わたし」


 シェリの一目惚れを叶えたいオーンジュ公爵と第2王子の婚姻を考えていた王の利害が一致して結ばれた。

 ――故に、レーヴの意思はない。

 婚約者として顔合わせをした日から、シェリは嫌われていると自覚していた。


「わたしには、あの平民の子に見せるお顔は見せてくれないものね」


 何を話しかけても不機嫌そうな顔をしてシェリを無視し、王宮へ会いに行っても無視。話し掛ける時も名前を呼んでくれない。

 めげずにレーヴに思いを寄せ続けたシェリだが、もう限界だった。

 此処、15歳になった貴族の子なら必ず通うクロレンス王立学院に入学してからは、更に関係は悪化した。


「……いいえ、悪いも何もないわね」


 最初から零だったのだから。

 同じ学年に長く平民として暮らしていた少女が、伯爵家の養子として迎えられた。

 それが今、レーヴの隣にいる少女。

 名をミルティー・ラビラント伯爵令嬢。ブルーベリー色の髪に金色の瞳の、可憐で庇護欲をそそられる美少女。

 彼女が伯爵家に迎えられた大きな理由は、クロレンス王国に代々伝わる【聖女】の生まれ代わりだからだ。


「っ……」


 シェリの紫水晶の瞳から雫が零れた。袖で無理矢理拭った。

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