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連載
ジューリオの訪問(大教会)
しおりを挟む助けたビアンカを魔王が借りた新しい部屋に入れ、ジューリアとヴィルは不貞腐れるヨハネスを連れて大教会に戻った。出迎えた神官からジューリオが来ていると教えられ、げんなりとしつつも会うとなった。
ヨハネスには部屋で待っていてもらうようお願いするも色んな人間を見てみたいという希望で同行することに。
「大人しくしてね」
不貞腐れてはいるが素直に頷かれ、少々意外に感じた。ジューリオは応接室にいて、案内されて入室するとかなり不機嫌な顔をしていた。入って早々げんなりとするジューリアだが、礼儀だけは通そうと挨拶だけはしっかりとした。
「今日はどんな御用で」
「お前がここで生活してるって聞いて来たんだ」
「そうですか。じゃあ、お帰りください」
顔を合わせたのだから、会った理由にはなる。どうせ皇太子辺りから言われて婚約者として来たのだろうが仲良くなる気が更々ないジューリアは素っ気なく対応した。
隣にいるヴィルに向き、戻ろうと促し掛けた時ジューリオが声を上げた。
「待て! なんでお前はそうなんだ!」
「帰らないのですか?」
「なんの為に来てると思っている!」
「どうせ、皇太子殿下に言われて来たのでしょう? 顔を合わせた事ですし、適当に何処かで時間を潰してお城へ戻れば良いではありませんか」
初対面の時にジューリアが魔力しか取り柄のない令嬢というだけで歩み寄る気もなければ、婚約者として認めないと拒んだジューリオだ。ジューリア自身にもうジューリオと仲良くなる気が微塵もない。顔は良くても関わるのならある程度の内面だって見る。
「っ!」
何故か傷付いた面持ちをするジューリオに首を傾げた。側に控える側近から睨まれようが最初に拒んだのはジューリオ。無かった事にはならない。
「ねえ」
ヨハネスの声に釣られ上を向いた。
「この子供は君の友達?」
「婚約者ですよ。一応」
「ふーん?」
「一応じゃない。正式に決められている」
ジューリアの言葉に反論するかのようにジューリオがすかさず入るも、ジューリアとしては意味不明だった。
「私は殿下の婚約者で居続ける気も仲良くなりたい気もありません。だから一応です」
「な、お、お前はそんなに僕が嫌いか!?」
「最初に散々文句を言って拒んだのは殿下ですよ。今更仲良くなりたい気はありませんのでご安心を」
「っ~~~」
ジューリアが素っ気なく、拒絶の言葉を発する度にジューリオは傷つき悔し気に顔を歪ませる。余程不仲なのを皇太子に知られたくないと見える。もしも皇太子のいるところで会う事があるのなら、仲の良い振りぐらいはすると言ってもジューリオは納得しなかった。
「ふわあ……」
この場を収めようか悩みながらジューリオの相手をしていれば、退屈になったのかヴィルが欠伸を漏らした。
「諦めなよ皇子様。ジューリアは君なんて眼中にないんだ。そもそも、最初の対応を間違え過ぎてやり直しが出来ないんだよ」
「ジューリア、お前ずっとそこの天使様といるつもりなのか? 人間が天使様といられるわけないだろう!」
現状ヴィルは訳あって子供の姿になった天使という設定になっている。ヨハネスはヴィルの甥っ子の天使という設定にしてと神官達に説明している。大教会に属する神官達以外に神族と知られるのは面倒なのだとか。ジューリオの視線が時折ヨハネスに向けられていたので、紹介をした。
「この人はヴィルの甥の天使様です」
「なんで僕がてん……いった!?」
天使扱いされて文句を言いそうなヨハネスの足をヴィルが思い切り踏みつけた。涙目でヴィルを睨みながら足を擦るヨハネスに呆れつつも、ジューリオはヨハネスを天使様だと納得してくれた。
内心ホッとしつつ、帰る気配のないジューリオをどう帰すかが課題となる。
「ずっといられなくても私が誰といようと殿下には関係ないではありませんか。皇太子殿下に叱られたかなにか知りませんけど、私は殿下と仲良くなる気は一切ありませんのであしからず」
「ジューリア様、それではジューリオ様が可哀想だとは思わないのですか! ジューリオ様はとても反省しておられるのですよ!」
側近が声を上げるがジューリアには関係がない。
「だったら、最初からそれらしい態度を取れば良かったのですよ。初っ端からあんな嫌々な態度を取られた後で仲良くなんてしたくないです」
なのでお帰りください。と扉を勧めたら今度は怒気で顔を赤く染め上げたジューリオ。しかし帰る気配はない。
「僕とお前の婚約は皇帝たる父上とフローラリア家の決定なんだ。僕達の意思ではどうしようもない」
「前に言いましたが陛下を納得させられる相手を殿下が見つければいいのです」
「っ、僕だって本心ではお前みたいな奴御免だ! で、でも、父上や兄上が望むのは僕とお前の良好な関係だ」
ジューリアがお帰りくださいと催促しようがジューリオには帰る気は更々なく、盛大に溜め息を吐いて改めて用を訊ねた。ただ皇太子や皇帝に言われただけで来たとは思えない。
「母上が僕と近い歳の子を集めて茶会を開く。お前にも出席してもらう」
それはつまり、ジューリオの婚約者として出席しないとならない。あからさまに嫌な顔をするとジューリオは苛立ちを浮かべる。向こうが嫌っているのに相手に嫌われないと何故思える。前のしおらしい態度を信じなくて正解だった。
「茶会って?」
足の痛みが引いたらしいヨハネスに訊ねられ、美味しいお茶やお菓子を食べながら集まってお話する場だと簡潔に述べると興味があるらしく、純銀の瞳を輝かせた。
「参加しなよ! 僕も行きたい!」
「え、天使様もですか?」
「この子が行くならヴィル叔父さんだって行くでしょう? 僕も行く!」
勝手に決めるなと言いたげなヴィルだが、こればかりは出席するというジューリアからの同意を得ない限りジューリオは帰らない気がする。
ヴィルにどうする? と視線で問われ、うーんと考えるジューリア。
「私は良いけど……主催者の皇后様の許可を貰わないと」
チラリとジューリオをみやった。ジューリオは考え込んでいたが、ジューリアが見ていると気付くと顔を上げた。
「母上には聞いてみる。恐らく、天使様の参加に反対はされない」
「良かったね」とヨハネスに向くも「ただし!」とジューリオの声が上がった。
「お前には必ず参加してもらう」
ヨハネスは参加出来ると期待して純銀の瞳を輝かせていて。大人なのに子供のような姿を見ると不参加と言えず。だがジューリオ相手に素直に参加しますと言いたくなく、渋々、渋々に了承した。
態度が気に食わないのがまるわかりなものの、了承したからか声を上げずジューリオは頷いただけになった。
「招待状は大教会宛に送る。絶対に来るんだぞ」
「分かりました。ところで、そのお茶会には他のフローラリア家も呼ばれているのですか?」
「妹君と兄君の事か?」
「はい」
「普通に呼べばいいものを……。多分、呼ばれている筈だ」
だとすると、グラースはともかくメイリンだ。メイリンはジューリオと会いたがっていた。ジューリオだって、将来癒しの女神と期待されているメイリンと会えばジューリアなどお役御免となる。
期待が強まってしまい、思わず喜ぶと兄妹に会えるのが嬉しいのだとジューリオに勘違いされた。すぐに違うと否定。
「私が喜んだのは殿下とメイリンが顔を合わせるからですよ」
「どういう意味だ?」
「メイリンは将来癒しの女神と期待されている子です。メイリンは殿下と会いたがっていますし、殿下もメイリンを見たら気に入りますよ」
言葉にしないが皇帝に婚約者をジューリアからメイリンに変えてほしいと頼めばいいと期待している。フランシスとの婚約の話があるものの、利益を優先すれば間違いなくメイリンが大きい。皇帝からの打診となればフランシスとの婚約も消えるだろう。
フランシスには想い人がいる。叶わなくても好きな人と結ばれてほしいと願ってしまう。
「君ってさ……」
ヨハネスが控え目に声を掛けてきた。
「性格悪いって言われない?」
「否定はしない」
良い子で居続けても地獄なら、どんなに悪くなろうが自分の手で幸せを掴み取る。
ジューリオが何も言って来ないなと怪訝に感じて顔を見て吃驚。
昏い目でじっと……ジューリアを見ている。
「可哀想に」
どうでもよさそうに言ってのけたヴィル。誰に向けられての言葉かはジューリアには分からなかった。
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