47 / 85
連載
交換条件
しおりを挟む悪魔は基本的に人間を餌か利用するだけの価値しかない生き物と認識する輩が多いものの、友好的に見ている悪魔や関わりを持たなければ無関心でいる悪魔もいる。彼の娘の夫である悪魔は人間に対しては勿論、自分より弱い悪魔に対しても非常に高圧的で加虐心が強く、性格にも難がある。顔の傷は昔リゼルの愛娘に言い寄ろうとしたのをリゼルの耳に入り瀕死の重傷を負わされたばかりか、顔には決して消えない傷跡を残された。
最近魔界ではリゼルとリゼルの愛娘を罠に嵌めた家門がリゼル一人の手によって絶滅させられた。その家門の長の娘が彼の実の娘である。
「貴方は魔王なのよね? なんで子供を取られたの?」
「亡くなった妃の実兄が妹にそっくりなビアンカを手元に置きたくてね……その頃、他の魔族が森に捨てられていた人間の赤子を拾ってきたんだ。その子をぼくの子供にして、ビアンカを渡せと要求されたんだ」
ビアンカとは彼の娘の名前。
魔王なら跳ね除けられたのではないかと抱くも、見目が違うというだけで捨てられた赤子に同情して悩んでしまったらしく、その間にビアンカは勝手に長の娘として手続きをされていた。
「馬鹿じゃないの」とヴィル。
「魔王なら、そんな勝手をした奴、さっさと殺せばいいものを」
「そうなんだけど……ビアンカにとっては血縁者だし、妃の実兄の気持ちも分からないでもないんだ」
大層仲の良い兄妹として魔界でも有名だったとか。
「……もしかして、兄妹同士の子だから?」
「ああ、それはないよ。仲が良いと言えど限度はあるからね。妃も彼もその辺りは弁えていたよ。何より、彼には惚れ込んだ妻がいたんだから」
「そっか」
変に邪推した自分が恥ずかしくなったジューリア。
話は戻り、ビアンカは現在も自分が魔王の娘だとは知らず、滅んだ家門の生き残りという事であのような扱いをされている。
本来であれば他の者同様にリゼルに殺される予定だったが、亡き妃に免じてビアンカだけ殺さず、当初彼等が愛娘を売り飛ばす予定だった男にビアンカを売り飛ばしたのだ。
ジューリアは複雑な思いでまたビアンカを見た。姿は遠くなっているが異性の目を引き付ける煽情的な様子が鮮明に見える。生かされるだけ有難く思えとはリゼルの言葉らしいが、あんな光景を見てしまうと殺された方がマシだったのではと抱いてしまう。
ヴィルも同様の気持ちを持ち「あんなの、生き地獄も同等じゃん」と零した。
「そうだね……リゼルくんが決めたのなら、ぼくは何も言わないし、何かをすることもない」
「捨てたから?」
「そうだよ。リゼルくんやぼくが何度言っても彼等はリゼルくんを敵視し続け、彼の娘を危険な目に晒した」
ビアンカがリゼルの娘を敵視していたのは彼の息子が原因と言う。
次期魔王として、自分の子として育てた息子の婚約者にリゼルの娘を選んだ。その当時のリゼルは最愛の妻を亡くし、娘までいなくなってしまうのではと非常に情緒不安定だった。仕事への影響力が計り知れないと危惧した彼は息子の婚約者にすれば毎日魔王城へ登城し、常にとはいかなくても屋敷にいるよりもずっと近い距離でいられると必死に説得した。
説得の甲斐あって二人を婚約させられたものの……ある事から二人の仲は拗れ、息子はビアンカを恋人にし、軈て婚約破棄となった。
理由を訊ねると非常に言い難そうにしながらも呆れながら話された。
「あの子は……婚約者の一番が自分じゃなく、父親だからショックを受けて……」
「……?」
「ええっと、悪魔は強い魔力を持つ子を作る為に近親者で子供を儲ける事があるんだ。あの子が勘違いしたのもこれが理由でね……」
「……ええ……」
人間ではあり得ない、悪魔ならではの関係は置き、拗らせた理由が理由だけに引く。婚約者を嫌っていた理由を知ったのもつい最近だとか。それまでは婚約者の目がある所では必ずビアンカを側に置き、逃げようものなら婚約者の義務を果たせと言い出す始末。聞いているだけのジューリアでさえ苛つくのだ、当時のリゼルの苛立ちは凄まじかっただろう。
何度もリゼルから制裁を与えられても懲りずにビアンカを側に置き続け、婚約者を冷遇していれば当然気持ちだって離れる。
今は婚約者に事実を話したが振られ、婚約破棄となって部屋に引き籠っているらしい。
「何それ、自業自得じゃない。同情の価値なし!」
「あはは……手厳しいね」
「当たり前よ! 最初から聞けば良かったじゃない! 大体、それだけお父さんに大事されているんだから、お父さんが一番好きなのも当たり前よ!」
「そうだね」
「にしても、お父さんか……」
椅子の背凭れに体を預けたジューリアは「我が子を守るのが……普通のお父さんなんだよね……」と零した。
前世樹里亜だった時、今世ジューリアである今。
どちらも父親という存在に恵まれなかった。生きてはいてもいないと同然。
前世と今世、どちらが酷いかと問われると悩む。どちらも酷い。
「私も欲しいな……私の事を愛してくれる父親が……」
魔法が使えるようになったと父に言えば、きっとグラースやメイリンのように愛してくれるようになる。が、ジューリアは御免だった。今更愛されている、大事にされていると言われても鳥肌しか立たない。
ジューリアにとってはもう遅い。向こうがやり直しを希望しても今更感が凄いのだ。
「……」
ホットミルクをちびちび飲むヴィルはジューリアを横目に彼女の前世の家族について話すべきかと思案する。
ヴィルが見たのは真っ白な部屋で腕に色んな管が繋がれ眠っている前世ジューリアの周りには同じくらいの年齢の少女と中年の女性がいる場面。そこに前世ジューリアの父親と思しき男が現れると声を荒げ、椅子を振り回して追い出していた。
『異邦人』でありながら今世も不運な理由は未だ不明であるが、前世ジューリアの肉体はまだ完全に死んでいない事から、切っ掛けさえあればジューリアは前世に戻れる可能性がある。
魔法が使えない点については前世の魂と今世の魂が上手く融合しなかったのが原因。『異邦人』特有だと思ったがあの光景を見ると前世ジューリアの肉体が死んでおらず、魂の形が不完全だった為に魔法が使えなかったのだとしたら、仮に前世に戻りたいと言われた時無事に戻れるかが疑問となる。
この件については大教会に戻ってから話そうとし、ホットミルクを飲み続けるヴィルは急に椅子から降りたジューリアに銀瞳を丸くした。
「どうしたの?」
「決めた。貴方の娘を助けましょう」
「魔王の娘を助ける、か。退屈凌ぎにはなるけど必要ある?」
見ていて気持ちが良くないのは確かでも、助ける程の気持ちは全くない。
一度捨てたものは拾わない主義の魔王は必要ないと首を振るがジューリアは目をキラリと光らせ「ヴィルがきちんと皇帝陛下に掛け合ってくれるようお願いする代わりだと思ってよ」とブルーダイヤモンドを探す交換条件として出した。
彼は困ったように頬を掻き、引く気配のないジューリアを見て溜め息を吐き。軈て折れた。
「分かったよ。君の言う通りにするよ」
「うん! あ……貴方の娘を助けて貴方の補佐官さんに怒られたりはしない?」
「大丈夫。後から助けようが何をしようがリゼルくんは興味ないから気にしないよ」
「そっか、良かった。貴方の補佐官さんに脅されてるからって、補佐官さんの娘を狙わない訳じゃないと思うよ」
「そうじゃないと信じたいけど……彼はぼくが知る魔族の中でもかなりの強欲者。有り得るから怖い」
「その人が?」
「リゼルくんが無表情で彼を痛め付ける光景が」
「……とても怖そう」
73
お気に入りに追加
1,016
あなたにおすすめの小説

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
わたしは不要だと、仰いましたね
ごろごろみかん。
恋愛
十七年、全てを擲って国民のため、国のために尽くしてきた。何ができるか、何が出来ないか。出来ないものを実現させるためにはどうすればいいのか。
試行錯誤しながらも政治に生きた彼女に突きつけられたのは「王太子妃に相応しくない」という婚約破棄の宣言だった。わたしに足りないものは何だったのだろう?
国のために全てを差し出した彼女に残されたものは何も無い。それなら、生きている意味も──
生きるよすがを失った彼女に声をかけたのは、悪名高い公爵子息。
「きみ、このままでいいの?このまま捨てられて終わりなんて、悔しくない?」
もちろん悔しい。
だけどそれ以上に、裏切られたショックの方が大きい。愛がなくても、信頼はあると思っていた。
「きみに足りないものを教えてあげようか」
男は笑った。
☆
国を変えたい、という気持ちは変わらない。
王太子妃の椅子が使えないのであれば、実力行使するしか──ありませんよね。
*以前掲載していたもののリメイク

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
あなたの姿をもう追う事はありません
彩華(あやはな)
恋愛
幼馴染で二つ年上のカイルと婚約していたわたしは、彼のために頑張っていた。
王立学園に先に入ってカイルは最初は手紙をくれていたのに、次第に少なくなっていった。二年になってからはまったくこなくなる。でも、信じていた。だから、わたしはわたしなりに頑張っていた。
なのに、彼は恋人を作っていた。わたしは婚約を解消したがらない悪役令嬢?どう言うこと?
わたしはカイルの姿を見て追っていく。
ずっと、ずっと・・・。
でも、もういいのかもしれない。

冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

貴方の運命になれなくて
豆狸
恋愛
運命の相手を見つめ続ける王太子ヨアニスの姿に、彼の婚約者であるスクリヴァ公爵令嬢リディアは身を引くことを決めた。
ところが婚約を解消した後で、ヨアニスの運命の相手プセマが毒に倒れ──
「……君がそんなに私を愛していたとは知らなかったよ」
「え?」
「プセマは毒で死んだよ。ああ、驚いたような顔をしなくてもいい。君は知っていたんだろう? プセマに毒を飲ませたのは君なんだから!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる