11 / 85
連載
ヴィルはお世話上手?
しおりを挟む前世にあったシャワーはなくてもたっぷりのお湯があれば一人でもお風呂は入れる。セレーネに洗われるより自分で洗うのが一番安全で綺麗になるとは分かっていても、ジューリアをストレス発散の道具にしか見ていないセレーネは不要と浴室から叩き出したらジューリアが叱られた。解せない。
自分でケアも終え、寝間着に着替えたジューリアは部屋に戻った。頭にタオルを乗せたままだが気にしない。椅子に座っていたヴィルが手招きをする。素直に近付くと椅子をもう一脚用意され、そこに座るよう指を指された。
「後ろを向いてお座り。髪を乾かしてあげよう」
「ありがとうヴィル」
後ろを向きながら座るとタオルを取られ、温風がジューリアの髪全体に掛けられた。ドライヤー代わりの魔法。これもヴィルに教わる項目に入れた。
髪を梳くヴィルの手付きは慣れており、気持ち良くて欠伸を出した。
「家でも誰かの頭を乾かしてたの?」
「うん? 兄者や弟かな。兄者はちょっと髪が長かったし、弟はふんわりしてたからちゃんと乾かさないと爆発していたしね」
「癖毛だったのかー。大変だよね癖毛」
ジューリアの髪も少し癖が入っており、毛先がくるんとしている。メイリンは全体的にふんわりとしていてグラースは癖無し。父の癖毛が姉妹に遺伝したのだろう。
「ヴィルは面倒見がいいんだね」
「そうでもない。面倒見がいいなら、甥っ子の泣き言を真剣に聞いているさ」
「あ、なるほど?」
甥っ子の頼みで長男を探しているとか言っていたがヴィルや末っ子弟に探す気は全くなく、ヴィルは好きに過ごしている。
乾燥が終わったと言われ、ありがとうとお礼を述べた。
「次は何をするの」
「何もないかな。眠いから寝るよ」
「美味しいケーキがあると言ったら食べる?」
「ケーキかあ。どこにあるの?」
「君の家族がサロンで食べていたよ。君の分もあると言っていたよ」
「なら、今頃セレーネ辺りが食べてるよ。私が家を出たら一杯食べに行こうよ」
「いいよ」
美味しいケーキはフローラリア家以外にだって沢山ある。1つくらい食べ損ねたくらいではジューリアはへこたれない。
眠気が襲い、小さく欠伸を漏らすと初めて魔法を使った反動だとヴィルが教えてくれた。ヴィルによって魔力の流れを一定にされ、魔法の使い方も教わった。彼には感謝しかない。見目や実力からかなり位の高い貴族に思えるがヴィルは微笑むだけで語らない。いつか教えてあげると言うのでそれ以上は聞かなかった。
ベッドに運ばれ、肩までデューベイを掛けたヴィルの手を握った。
「起きたらヴィルはいなくなってる?」
「俺にいてほしいの?」
「うん」
「俺が寝ている君を襲うとは思わないの?」
「襲ってるならもっと前に襲っているでしょう?」
「まあね。安心して。ジューリアと一緒にいるのは楽しそうだから、君が家を出るまで此処にいるよ」
「すぐに行っても私は問題なしよ!」
「家族に余程未練がないんだね」
「全然。私が魔法を使えるようになったのは絶対内緒にする。掌返しなんて真っ平ごめんよ」
無能と判った時点で散々冷たくし娘じゃないと妹じゃないと蔑んできた両親や兄に、今更娘や妹扱いされたくない。家族に愛されたいジューリアは七歳の時に死んだ。前世樹里亜だった時の記憶があって本当に良かった。
「そういえば……」
「どうしたの」
「うん……。前の私が死んだ後ってどうなったのかなって」
世間体を重きに見る父だ、息子が妹を川に突き落とした等と知っても絶対に警察には通報しない。樹里亜は足を滑らせて川に落ち、溺死したとどうせ発表するに違いない。
両家の祖父母や親友小菊は悲しんでいるだろう、小菊の両親や兄も小さい頃から交流があったから悲しませていると思う。
「さあ……知る術はないよ」
「うん……分かってるよ」
分かっていても、気にしてしまう。
「お休み」と目をヴィルに覆われた。
ジューリアはあっという間に眠った。
――翌朝。目を覚ましたジューリアは上体を起こし、キョロキョロと室内を見渡した。ソファーの上で寝ているヴィルを見つけ安堵し、起こさないよう静かに近付いた。
「うわ、寝顔まで美人」
美人顔が若干幼く見えるも閉ざされた瞼から生える銀色の睫毛は長く、下睫毛も長いと知った。肌も手入れをしっかりとしているのか染みも出来物もない。唇も潤っていそうで全く荒れていない。銀色の髪をそっと触ったらあまりのサラサラ具合に感動した。
面食いをより面食いにさせる美男子。恐ろしい男である。
そろそろセレーネが部屋に来る時間となる、ヴィルはジューリア以外には姿が見えない魔法を掛けていると言っていたのでこのままにして大丈夫。
カーテンを開き、窓を開けたところでノックもなしにセレーネが入った。
「おはようございますお嬢様。今日は起こす手間がなくて良かったです」
ずかずかと部屋に入りテーブルに水の入った桶を置いたセレーネはドレスルームへ行った。水に手を入れると冷水で、変わらないなと苦笑し、昨日ヴィルに習った通りに魔法を使った。冷水を温水に変えて顔を洗い、スキンケアを終えた。
「今朝は食堂で食事を摂るようにと旦那様が仰っていました。此方のドレスに着替え――」
「ああ、面倒くさいから部屋で摂るわ」
「め、面倒!?」
「ええ。朝食は部屋に運んでちょうだい」
「だ、旦那様が食堂に来ていいと……」
「昨日の今日で食堂に来いなんて嫌よ。ほら、朝の支度するわよ」
一人部屋で食事をさせられ、公爵が食堂での食事を許可したら泣いて喜ぶと思ったら大間違いだ。唖然とするセレーネからドレスを奪い取り、自分で脱げる範囲で脱ぎ始めた。
ドレスを着せる時もだが、今日のセレーネは髪を梳く際も普段の乱暴さはなく、丁寧とは言い難いが痛くはなかった。ドレスも雑さはない。
変なのと朝食を待っているとヴィルが起きた。寝起き特有の掠れ声は濡れた色香と合わさって破壊力抜群で「おはよう」と発したヴィルを直視するのが苦しい。
「ヴィルって美人よね……」
「急にどうしたの」
「なんでも。今から朝ご飯なんだけどヴィルの分はどうしよう」
「君の侍女はちゃんと持って来るかな?」
「どうだろう」
持って来なかったらヴィルが街へ行って美味しいパンを買ってあげるとなり、ジューリアはセレーネを待つようで待たなかった。約十分経過しても来ないのでヴィルお勧めのパンを選んだ。
「良い子で待ってて」と言い残して姿を消し、残ったジューリアはどんなパンがくるか楽しみで仕方ない。
すると控え目に扉が叩かれた。返事をしたら、現れたのは父シメオンだった。
浮かない顔をしており、首を傾げると食堂に来ない理由を問われた。
「セレーネが言ってませんでした?」
「いや……聞いたが……」
「なら、その通りです。お気になさらず」
「ジューリア……その、すまなかった」
「良いですよ。じゃあ、早く出て行ってください」
「まだ話が終わっていない!」
心底面倒くさいと顔に全面に出したら、何故かシメオンはショックを受けていた。
「今まで済まなかった……お前に謝らないといけないのは分かっていたのに」
「そうですか。もういいですよ」
「ジューリア。食堂に行って家族で朝食を」
「お前は家族じゃないと貴方に言われたことは忘れませんし、消えませんし、お兄様からも妹じゃないとお墨付きを貰っているのでお気になさらず」
「……」
上げかけた手を下ろしたシメオンは項垂れ、寂しくなったら何時でも来るようにと言い残し部屋を出て行った。突然考えを直したのは何なのか、理由を探ってみるもジューリアの知っている範囲では何も浮かばなかった。
その後朝食は来ず、ヴィルが買ってきたパンでお腹を満たした。
「美味しい! どこで売ってるの?」
「帝都の街のパン屋。俺も気に入ってるんだ」
「今度私も行きたい!」
「何時行こう?」
「長時間部屋にいなくても大丈夫な日」
84
お気に入りに追加
1,003
あなたにおすすめの小説
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
「だから結婚は君としただろう?」
イチイ アキラ
恋愛
ホンス伯爵家にはプリシラとリリアラという二人の娘がいた。
黒髪に茶色の瞳の地味なプリシラと、金髪で明るい色彩なリリアラ。両親は妹のリリアラを贔屓していた。
救いは、祖父母伯爵は孫をどちらも愛していたこと。大事にしていた…のに。
プリシラは幼い頃より互いに慕い合うアンドリューと結婚し、ホンス伯爵家を継ぐことになっていた。
それを。
あと一ヶ月後には結婚式を行うことになっていたある夜。
アンドリューの寝台に一糸まとわぬリリアラの姿があった。リリアラは、彼女も慕っていたアンドリューとプリシラが結婚するのが気に入らなかったのだ。自分は格下の子爵家に嫁がねばならないのに、姉は美しいアンドリューと結婚して伯爵家も手に入れるだなんて。
…そうして。リリアラは見事に伯爵家もアンドリューも手に入れた。
けれどアンドリューは改めての初夜の夜に告げる。
「君を愛することはない」
と。
わがまま妹に寝取られた物語ですが、寝取られた男性がそのまま流されないお話。そんなことしたら幸せになれるはずがないお話。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。
【完結】アーデルハイトはお家へ帰る
ariya
恋愛
アーデルハイト・ローゼンバルト伯爵夫人は誰もが羨むシンデレラ、元々は山羊飼いの娘だったが先代伯爵に見初められて嫡子の花嫁になった。まるでシンデレラのようではないか。
庶民の間ではそう思われていたが現実は違う。
2年間夫に相手にされないアーデルハイトは貴族令嬢たちの間の笑い者、屋敷の使用人からも見下されて居場所のない日々である。
そんなある日についにアーデルハイトは伯爵家を出ることを決意する。離婚届を自分の分までしっかりと書いて伯爵家を出た瞬間彼女はようやく自由を手に入れた心地がした。
彼女は故郷に戻り、元の山羊飼いの娘・アデルに戻るのである。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる