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貴方がいないと何もできない1
しおりを挟む『魔界』を統べる王が最も愛する女性。
派手な色が好まれる魔界において、珍しい栗色の長髪は常に魔王陛下が愛おしげに指で梳き、青と紫の混じった宝石のような綺麗な瞳を多分な愛情が籠った紺碧の瞳で常に見下ろされる。
私の大好きなルーの父である魔王フィロン様、母であるメリル様。メリル様は王妃ではない。側妃でもない。愛妾である。愛妾の子であるルーが――例え第二王子であろうと――聖女だった私をいきなり連れて帰り、自分の妻にすると宣言しても本来ならば受け入れられる筈がない。
『魔界』に連れて来られる道中、そんな話をルーに聞いた。私は内心ビクビクとしていた。魔王の寵愛を受けているだけの愛妾の子であるルーの我儘を通してくれるのかを。私は悪魔にとって害である聖属性の魔力を持ってる。いの一番に始末しなけらればならない対象。不安に思う私をルーは大丈夫だよと頭を撫でた。
『どうしてそう思うの?』
『うん? だって、母上が許してくれるからだよ』
『でも、ルーのお母様は愛妾なんでしょう? 妃じゃないから、そんな力……』
『愛妾といっても、母上は元は公爵令嬢で父上の婚約者だったんだ』
家族以外の相手が大嫌いな魔王陛下がたった一人大事にする女性。それがルーのお母様であるメリル様。先代魔王はルーのお祖父様と聞いたが、魔王は完全なる実力主義。血の繋がった子だろうと必ずしも魔王の座を継げる訳でもないらしい。ただ、今の魔王陛下は類い稀なる魔力の持ち主であった為次期魔王に選ばれたのだとか。魔王の妻になる者にも、相応の魔力を持った令嬢が宛がわれる。ルー曰く、メリル様のお父様が一人娘であるメリル様を大変深く愛しておられ、大切に育てられたとか。その為、周囲との関わりも殆どなく屋敷にこもりきりで純粋に育ったメリル様に目を付けた先代魔王陛下がフィロン様との婚約を結んだらしい。
『けど、ある日母上は魔力を失ったんだ』
『ど、どうして?』
『さあ? 原因は今でも分からないみたい。初めは父上と母上の婚約は解消される筈だったんだけど、他人嫌いな父上の為と魔力が戻る可能性を視野に入れてじぃじ様が成人までは婚約を継続すると宣言したんだって。因みにこれ、全部母上に聞いた』
『ルーはご両親とは仲が良いの?』
『それなりには、大事にしてくれてるとは思うよ。でもまあ、俺のお家事情なんかミリーちゃんが知っても仕方ないでしょう? さあ、もうすぐだよ』
『ま、待って』
知らなくていい……。
うん、そうだよ。私はルーがいればそれでいいもん。ちょっとは気になるけどね。
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