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前世所持者②

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 大聖堂の客室にて。ハチミツをたっぷりと入れたホットミルクをちびちびと飲みながら、大人の話し合いを終えて戻ったイナンナに早速切り出した。


「イナンナ様は叔母様がどうやって魅了を手に入れたか知っていますか?」
「これから大聖堂側で尋問するから、その内知れるわよ~」
「大聖堂側で?」
「そう。大人の話し合いでイグナートくんに了承させたの。勿論、吐き出した情報は包み隠さず王家にも報告する条件付きでね」


 単に腹を刺された恨みだけではなく、尋問中も魅了を使用される危険は大いにある。魅了の力が通用しないイナンナを先頭に大聖堂で尋問する運びとなった。今から魅了が通用しない尋問官を探すのは時間が掛かり無駄。

 早急に事を処理したいのは国王もイナンナも同じ。


「ただ、一つだけ有り得るかもっていうのがある」
「何ですか?」
「ベルティーナちゃん、“転生者”って知ってる?」
「てんせいしゃ?」


 初めて聞いた言葉に首を振りアルジェントを見やった。少し考えた後、肩を竦めた。知らないということ。


「極稀にね、前世の記憶って言ったらいいのかしら……」


 例えれば、今の自分は女性なのに男性だった時の記憶があったり、お姫様なのに何故か平民として暮らしていた記憶が強くあったり。と自分ではない誰かの記憶がある者は“転生者”として扱われる。
 マリアの愛し子と同じで産まれてすぐに判明する。また、普通の人間にはない特別な能力があるとも言う。


「それが魅了ですか?」
「そうよ~。最初は淫魔か魔族辺りが力を貸したかとも疑ったけど、どうもしっくり来なくてね~」
「もしも悪魔が力を貸していたら、たった一人に執着なんてさせないよ」とはアルジェント。人間を餌にするなら、もっと大勢の人間を魅了させる。アニエスが拘って魅了し、側に置かせたのはクロウだけ。悪魔が手を貸しても利益はない。


「そこで思い出したのよ~、確か“転生者”には似た力を持つ子がいるって。ただね~……」


 アニエスが本当に“転生者”だとしたら、赤ん坊の頃に行った洗礼で何故気付けなかったのか、となる。赤ん坊の時から既に前世の記憶を持っているのが“転生者”だと聞いたベルティーナは途中から記憶が戻ったのでは? と疑問を呈した。


「赤子の時ではなく、成長してから前世の記憶を取り戻してしまった為に洗礼の際に気付けなかった……とは考えられませんか?」
「有り得るわね~それならあたし達も気付かず見逃しちゃうわ~」
「“転生者”だった場合はどうするのですか?」
「特殊な能力を封印するの。悪用しない為と無自覚に使って周囲に悪影響を及ぼさない為に」


 マリアの愛し子と同じく滅多に誕生しない存在で、こちらの場合最近見たのは約七十年前だと言われた。その頃も今と変わらず大神官を務めるイナンナにある事を訊ねた。


「イナンナ様は……人間ではないのですよね」
「半分は人間よ? 母親が人間だもの~」
「……父親は?」
「ふふ、あたし父親はいないの~。あたしは女神マリアの血肉を人間の神官に与えて生まれたから、厳密に言うと父親っていう種の提供元はマリアになるわね~」
「…………」


 想像を超えた回答に唖然となったベルティーナと違い、前にイナンナから渡された鏡に触れた際、手に大火傷を負ったアルジェントは何となく察しがついていたらしくあまり驚かなかった。
 女神の子を出産した母親は死亡し、残されたイナンナは事情を知る当時の大神官が自分の娘として後継者として育て上げた。


「あ……ええっと……つまり……女神マリアと同じ……と思えばいいですか?」
「そんな大層なものじゃないわ~今まで通りでいいわよ~。それより、明日から早速アニエスちゃんとルイジくんの尋問を始めるから、結果が出たら二人に教えるわね~」


 今回同席は希望しないベルティーナはこくりと頷いた。
 ベルティーナは何をするのかと問われ、少し間を置いて紡いだ。


「お父様に会いに行きます」


 会ってどうしても訊ねたい。
 ミラリアを覚えているか、どうか。


  
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