57 / 77
前世所持者②
しおりを挟む大聖堂の客室にて。ハチミツをたっぷりと入れたホットミルクをちびちびと飲みながら、大人の話し合いを終えて戻ったイナンナに早速切り出した。
「イナンナ様は叔母様がどうやって魅了を手に入れたか知っていますか?」
「これから大聖堂側で尋問するから、その内知れるわよ~」
「大聖堂側で?」
「そう。大人の話し合いでイグナートくんに了承させたの。勿論、吐き出した情報は包み隠さず王家にも報告する条件付きでね」
単に腹を刺された恨みだけではなく、尋問中も魅了を使用される危険は大いにある。魅了の力が通用しないイナンナを先頭に大聖堂で尋問する運びとなった。今から魅了が通用しない尋問官を探すのは時間が掛かり無駄。
早急に事を処理したいのは国王もイナンナも同じ。
「ただ、一つだけ有り得るかもっていうのがある」
「何ですか?」
「ベルティーナちゃん、“転生者”って知ってる?」
「てんせいしゃ?」
初めて聞いた言葉に首を振りアルジェントを見やった。少し考えた後、肩を竦めた。知らないということ。
「極稀にね、前世の記憶って言ったらいいのかしら……」
例えれば、今の自分は女性なのに男性だった時の記憶があったり、お姫様なのに何故か平民として暮らしていた記憶が強くあったり。と自分ではない誰かの記憶がある者は“転生者”として扱われる。
マリアの愛し子と同じで産まれてすぐに判明する。また、普通の人間にはない特別な能力があるとも言う。
「それが魅了ですか?」
「そうよ~。最初は淫魔か魔族辺りが力を貸したかとも疑ったけど、どうもしっくり来なくてね~」
「もしも悪魔が力を貸していたら、たった一人に執着なんてさせないよ」とはアルジェント。人間を餌にするなら、もっと大勢の人間を魅了させる。アニエスが拘って魅了し、側に置かせたのはクロウだけ。悪魔が手を貸しても利益はない。
「そこで思い出したのよ~、確か“転生者”には似た力を持つ子がいるって。ただね~……」
アニエスが本当に“転生者”だとしたら、赤ん坊の頃に行った洗礼で何故気付けなかったのか、となる。赤ん坊の時から既に前世の記憶を持っているのが“転生者”だと聞いたベルティーナは途中から記憶が戻ったのでは? と疑問を呈した。
「赤子の時ではなく、成長してから前世の記憶を取り戻してしまった為に洗礼の際に気付けなかった……とは考えられませんか?」
「有り得るわね~それならあたし達も気付かず見逃しちゃうわ~」
「“転生者”だった場合はどうするのですか?」
「特殊な能力を封印するの。悪用しない為と無自覚に使って周囲に悪影響を及ぼさない為に」
マリアの愛し子と同じく滅多に誕生しない存在で、こちらの場合最近見たのは約七十年前だと言われた。その頃も今と変わらず大神官を務めるイナンナにある事を訊ねた。
「イナンナ様は……人間ではないのですよね」
「半分は人間よ? 母親が人間だもの~」
「……父親は?」
「ふふ、あたし父親はいないの~。あたしは女神マリアの血肉を人間の神官に与えて生まれたから、厳密に言うと父親っていう種の提供元はマリアになるわね~」
「…………」
想像を超えた回答に唖然となったベルティーナと違い、前にイナンナから渡された鏡に触れた際、手に大火傷を負ったアルジェントは何となく察しがついていたらしくあまり驚かなかった。
女神の子を出産した母親は死亡し、残されたイナンナは事情を知る当時の大神官が自分の娘として後継者として育て上げた。
「あ……ええっと……つまり……女神マリアと同じ……と思えばいいですか?」
「そんな大層なものじゃないわ~今まで通りでいいわよ~。それより、明日から早速アニエスちゃんとルイジくんの尋問を始めるから、結果が出たら二人に教えるわね~」
今回同席は希望しないベルティーナはこくりと頷いた。
ベルティーナは何をするのかと問われ、少し間を置いて紡いだ。
「お父様に会いに行きます」
会ってどうしても訊ねたい。
ミラリアを覚えているか、どうか。
81
お気に入りに追加
6,303
あなたにおすすめの小説
永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……
矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。
『もう君はいりません、アリスミ・カロック』
恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。
恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。
『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』
『えっ……』
任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。
私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。
それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。
――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。
※このお話の設定は架空のものです。
※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)
今更ですか?結構です。
みん
恋愛
完結後に、“置き場”に後日談を投稿しています。
エルダイン辺境伯の長女フェリシティは、自国であるコルネリア王国の第一王子メルヴィルの5人居る婚約者候補の1人である。その婚約者候補5人の中でも幼い頃から仲が良かった為、フェリシティが婚約者になると思われていたが──。
え?今更ですか?誰もがそれを望んでいるとは思わないで下さい──と、フェリシティはニッコリ微笑んだ。
相変わらずのゆるふわ設定なので、優しく見てもらえると助かります。
2度目の人生は好きにやらせていただきます
みおな
恋愛
公爵令嬢アリスティアは、婚約者であるエリックに学園の卒業パーティーで冤罪で婚約破棄を言い渡され、そのまま処刑された。
そして目覚めた時、アリスティアは学園入学前に戻っていた。
今度こそは幸せになりたいと、アリスティアは婚約回避を目指すことにする。
【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中
理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました
ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。
このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。
そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。
ーーーー
若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。
作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。
完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。
第一章 無計画な婚約破棄
第二章 無計画な白い結婚
第三章 無計画な告白
第四章 無計画なプロポーズ
第五章 無計画な真実の愛
エピローグ
(完結)婚約破棄から始まる真実の愛
青空一夏
恋愛
私は、幼い頃からの婚約者の公爵様から、『つまらない女性なのは罪だ。妹のアリッサ王女と婚約する』と言われた。私は、そんなにつまらない人間なのだろうか?お父様もお母様も、砂糖菓子のようなかわいい雰囲気のアリッサだけをかわいがる。
女王であったお婆さまのお気に入りだった私は、一年前にお婆さまが亡くなってから虐げられる日々をおくっていた。婚約者を奪われ、妹の代わりに隣国の老王に嫁がされる私はどうなってしまうの?
美しく聡明な王女が、両親や妹に酷い仕打ちを受けながらも、結局は一番幸せになっているという内容になる(予定です)
[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで
みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める
婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様
私を愛してくれる人の為にももう自由になります
【完結】婚約者が好きなのです
maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。
でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。
冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。
彼の幼馴染だ。
そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。
私はどうすればいいのだろうか。
全34話(番外編含む)
※他サイトにも投稿しております
※1話〜4話までは文字数多めです
注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる