54 / 77
家族とは思えない②
しおりを挟む「待ってください」意義の声を唱えたのはクラリッサ。湖で溺れたリエトを助けたという貴族の令嬢はベルティーナで、ずっとベルティーナを好きでいたリエトにあんまりだと叫ばれても今更だ。
ベルティーナ自身に別の問題が浮上した。その初恋の相手が自分じゃなく、自分そっくりに女装したアルジェントだと話すか、話さまいか。
プライドの高いリエトが初恋の相手が同性だと知った時のショックは予想するに大きいだろう。しかもこの場には国王夫妻だけではなくクラリッサやビアンコもいる。リエトだけだったら苦渋の選択として事実を話した。
違うと否定してもクラリッサは断固として認めない。リエト自身がベルティーナだと認識しているのが大きい。この場をどう収めるかと頭を悩ますと肩に手が乗った。
アルジェントだ。
「ベルティーナ、もう言っちゃいなよ」
「簡単に言わないで。大体此処には」
「どうせいつか知るなら、今言ったところで大して変わらないさ」
変わる。誰がいるかにより非常に変わる。
アルジェントを止めても遅かった。
「王子様、湖で溺れた君を助けたのは俺だよ」
「は?」
「言われるまですっかり忘れていたんだ。確かに水中で溺れている人間を助けた覚えがある」
「ま、待て、それが私だとは」
「毛先が青い金髪に紫の瞳っていうのは、俺が君を引き上げた後君を見ていてってベルティーナに頼んだからさ。多分、意識が戻った君が見たのは君の様子を見ようと顔を覗き込んでいたベルティーナだよ」
アルジェントが言ってしまっては後には引けず、盛大に呆れながらもベルティーナは事情を説明した。
当時は背格好が同じで周囲の目を盗んでは外へ行って双子の振りをして遊んでいて、偶々湖までアルジェントの力でやって来たところ、湖で溺れているリエトをアルジェントが見つけて救出した。濡れた体を拭くのにとタオルで全身を拭き、陽光の下に置いては肌が焼けると瞼と鼻、口だけ露出させていたから殆ど顔は見ていなかった。
アルジェントは溺れている人間の子供を引き上げた認識だから助けたという感覚はなく。
ベルティーナは助けたのはアルジェントで自分は様子を見ていただけだから当然助けたという感覚はなく。
どちらもリエトを助けた感覚がなかった為につい最近まで気付かなかった。
唖然とするリエトや残念な目を向ける国王夫妻の視線が居た堪れない。こうなるから、話したくなかった。話すならリエトしか第三者がいない場で話したかった。
「これが真相です。殿下には大変申し訳ないと思います……」
「……」
やはりショックが大きいようでピクリとも反応しない。
これ以上は何も言わない方が良いと判断したら、高い声に非難された。
「あ、あんまりではありませんかベルティーナお姉様! 王太子殿下がどれだけお姉様を想っていたか、私は知っているのに!」
「貴女が知っていても私は知らない。湖の件以外では既に殿下とは話が済んでいるわ」
「でもっ」
「他人より自分の心配をしなさい。お兄様は貴女を引き取ると仰っているけど、モルディオ公爵夫妻の罪はすぐに知れ渡る。そうなれば貴女もただではすまない」
やらかした罪が大きすぎてクラリッサを嫁にと欲しがる家はきっとない。相当な訳アリ貴族からの求婚ならありそうだがお勧めはしない。
「だったら、アルジェント君と結婚させてください! 公爵家を出て行くベルティーナお姉様にアルジェント君は必要ないでしょう!?」
「あるわよ。仮に出て行かなくてもアルジェントは渡さない」
——それ以前に。
「アルジェントが自分は悪魔だってさっき言ってなかった? それでもまだアルジェントが好きだと言うの?」
「よく分かりませんけどアルジェントくんが好きなんです」
「だ、そうだけど?」とアルジェントに振った。肩を竦め、苦笑したアルジェントは何も言わない。もう、と呆れたベルティーナはクラリッサから強い視線を向けるビアンコに向いた。
「なにか?」
「こ、公爵家を出て行くのか?」
「ええ」
「家族なら、助け合うのが普通だろ!」
「家族? 誰と誰がですか」
「は」
「他に言い方がないので貴方をお兄様と呼びますが貴方を兄だと思ってはおりません」
「な、僕はお前の兄だぞ!?」
「言っておきますわね。貴方はお父様やお母様とは違って叔母様の魅了には掛かっていません。なので、今までの私への態度は全て貴方の本心からきています。本心で私を落ちこぼれで両親に愛されない妹だといつもせせら笑って、今更兄ぶらないで」
初めに話を聞いた時はビアンコの態度があんまりなのも魅了のせいかと思っていたがイナンナからの話を受けてそれはないとなり、今までの行いは全てビアンコ自身の意思からくるものと断定。自分が責められれば泣いて両親に縋って妹を叱ってもらう本物の情けない兄だったと知った時の絶望と呆れは凄まじかった。
同時に楽にもなった。
蒼白な顔で「違う……違う……僕はお前の……」と繰り返すビアンコを見ても可哀想だともざまあみろとも思えない。
「は~い、そろそろあたしのお願いをしたいのだけど~?」
のんびりな声が扉が開かれた瞬間に響いた。
88
お気に入りに追加
6,230
あなたにおすすめの小説
婚約破棄目当てで行きずりの人と一晩過ごしたら、何故か隣で婚約者が眠ってた……
木野ダック
恋愛
メティシアは婚約者ーー第二王子・ユリウスの女たらし振りに頭を悩ませていた。舞踏会では自分を差し置いて他の令嬢とばかり踊っているし、彼の隣に女性がいなかったことがない。メティシアが話し掛けようとしたって、ユリウスは平等にとメティシアを後回しにするのである。メティシアは暫くの間、耐えていた。例え、他の男と関わるなと理不尽な言い付けをされたとしても我慢をしていた。けれど、ユリウスが楽しそうに踊り狂う中飛ばしてきたウインクにより、メティシアの堪忍袋の緒が切れた。もう無理!そうだ、婚約破棄しよう!とはいえ相手は王族だ。そう簡単には婚約破棄できまい。ならばーー貞操を捨ててやろう!そんなわけで、メティシアはユリウスとの婚約破棄目当てに仮面舞踏会へ、行きずりの相手と一晩を共にするのであった。けど、あれ?なんで貴方が隣にいるの⁉︎
殿下が好きなのは私だった
棗
恋愛
魔王の補佐官を父に持つリシェルは、長年の婚約者であり片思いの相手ノアールから婚約破棄を告げられた。
理由は、彼の恋人の方が次期魔王たる自分の妻に相応しい魔力の持ち主だからだそう。
最初は仲が良かったのに、次第に彼に嫌われていったせいでリシェルは疲れていた。無様な姿を晒すくらいなら、晴れ晴れとした姿で婚約破棄を受け入れた。
のだが……婚約破棄をしたノアールは何故かリシェルに執着をし出して……。
更に、人間界には父の友人らしい天使?もいた……。
※カクヨムさん・なろうさんにも公開しております。
【完結】 いいえ、あなたを愛した私が悪いのです
冬馬亮
恋愛
それは親切な申し出のつもりだった。
あなたを本当に愛していたから。
叶わぬ恋を嘆くあなたたちを助けてあげられると、そう信じていたから。
でも、余計なことだったみたい。
だって、私は殺されてしまったのですもの。
分かってるわ、あなたを愛してしまった私が悪いの。
だから、二度目の人生では、私はあなたを愛したりはしない。
あなたはどうか、あの人と幸せになって ---
※ R-18 は保険です。
旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。
バナナマヨネーズ
恋愛
とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。
しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。
最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。
わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。
旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。
当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。
とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。
それから十年。
なるほど、とうとうその時が来たのね。
大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。
一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。
全36話
初夜で白い結婚を宣言する男は夫ではなく敵です
編端みどり
恋愛
政略結婚をしたミモザは、初夜のベッドで夫から宣言された。
「君とは白い結婚になる。私は愛している人が居るからな」
腹が立ち過ぎたミモザは夫家族を破滅させる計画を立てる。白い結婚ってとっても便利なシステムなんですよ?
3年どうにか耐えると決意したミモザだが、あまりに都合の良いように扱われ過ぎて、耐えられなくなってしまう。
そんなミモザを常に見守る影が居て…。
最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。
ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。
ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も……
※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。
また、一応転生者も出ます。
あなたの事は記憶に御座いません
cyaru
恋愛
この婚約に意味ってあるんだろうか。
ロペ公爵家のグラシアナはいつも考えていた。
婚約者の王太子クリスティアンは幼馴染のオルタ侯爵家の令嬢イメルダを側に侍らせどちらが婚約者なのかよく判らない状況。
そんなある日、グラシアナはイメルダのちょっとした悪戯で負傷してしまう。
グラシアナは「このチャンス!貰った!」と・・・記憶喪失を装い逃げ切りを図る事にした。
のだが…王太子クリスティアンの様子がおかしい。
目覚め、記憶がないグラシアナに「こうなったのも全て私の責任だ。君の生涯、どんな時も私が隣で君を支え、いかなる声にも盾になると誓う」なんて言い出す。
そりゃ、元をただせば貴方がちゃんとしないからですけどね??
記憶喪失を貫き、距離を取って逃げ切りを図ろうとするのだが何故かクリスティアンが今までに見せた事のない態度で纏わりついてくるのだった・・・。
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★ニャンの日present♡ 5月18日投稿開始、完結は5月22日22時22分
★今回久しぶりの5日間という長丁場の為、ご理解お願いします(なんの?)
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。
大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました
柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」
結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。
「……ああ、お前の好きにしろ」
婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。
ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。
いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。
そのはず、だったのだが……?
離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。
※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる