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可愛いげがないから
しおりを挟む途中、侍女に紅茶を持ってくるよう言って部屋に戻り、早速先程の予想を立てていく。
「クラリッサのあの様子から、婚約破棄は殿下とクラリッサの虚言って事になるわ」
「でもさ、君が言うように王太子は嘘が嫌いなんだろう? いくら君が嫌いでクラリッサ可愛さで嘘を吐くのかな?」
「そこなのよ」
婚約破棄が嘘だとしても、嘘が嫌いなリエトがアルジェントの言う通りの理由で嘘を吐くのか、甚だ疑問。疑問はもう一つ。父の様子から婚約破棄は望んでいないと窺えるがそれならベルティーナを修道院へ送る意図が不明だ。問題のある令嬢を送る最後の受け皿たる修道院行は、二度と家に戻れず結婚も出来ないと意味する。そうなる前にアルジェントを連れて家を出る気満々なのだが、修道院送りはベルティーナを従わせる手段として準備されていると予想が立てられた。
「王太子妃になるのが私の夢だと思っている節があるのよね、お父様は」
「王妃は王国の貴族令嬢なら誰もが夢見る地位だから、だっけ」
更なる権力を手に入れる頭しかない父が政略結婚の駒としか見ていない娘を愛するが故の将来を考える訳もなく。どれだけリエトから嫌われようと冷遇されようと王太子妃にさえなればいいと考えていた。クラリッサがリエトに気に入られるとベルティーナに執拗な程嫌味を言い、裏ではクラリッサを養女にする手配を進めているときた。国王も知っているとなると、愈々ベルティーナはお払い箱。王妃も知っている。王妃の気持ちが知りたいものの、ベルティーナよりクラリッサを選ぶと言われると今までの思い出が泡と消えていくのを恐れ、聞かないでおくとした。
「あの集団の意識は何時戻る様にしたの?」
「目的地に着いたら解けるようにしたよ。今頃、どうしてそこにいるのかとあたふたしているだろうね」
「見てみたかった」
「行く?」
「行かない」
その時、侍女が紅茶を部屋に運んだ。手慣れた動作で紅茶を注ぎ、テーブルに置くと退室した。一口サイズのクッキーも忘れずに置いて。
「ただ家を出るだけじゃ、追手を差し向けて来るわね……。アルジェント、私が殺された偽装って出来る?」
「出来るよ」
「アルジェントも私を庇って殺された風を装いましょうか」
「何時するの?」
「今よ!」
決めたら即行動をするのが吉。「待った」とアルジェントは制止した。
「もう少し様子を見てみよう。幾つか、気になる事も出来たし」
「気になる事?」
「その内教えてあげる。家出はちょっと待って」
「……分かったわよ」
アルジェントがそこまで言うのならと、仕方なく待つ道を選んだ。
——夕刻前に集団が戻ったと報せを受け、出迎えに行く義理もないとアルジェントの髪を梳いている。ペットの身形を綺麗にするのも飼い主の役目。アルジェントの着ている服は全てベルティーナが選んだもの。偶に本人がこれがいいと言う物があれば購入している。
鼻歌を披露しながら上機嫌にアルジェントのサラサラな銀糸を丁寧に櫛を通していれば、執事が来て集団が呼んでいると来た。仕方なく手を止め、アルジェントを連れてサロンへ向かった。
向かう前とは違い、微妙な空気を醸し出す集団に対し吹き出したい気持ちを抑えた。
「お帰りなさいませ、お父様、お母様、お兄様。モルディオ夫人やクラリッサも」
「……ベルティーナ。向かう前、王太子殿下から婚約破棄をされたと言うのは本当なんだな?」
「嘘でこんな事言いませんわ」
「……」
期待していた反応と違い、戸惑いを覚えた。てっきり激昂して勘当を言い渡されるか、今すぐに修道院へ行けと叫ばれるかのどちらかと予想していたのに。神妙な面持ちで溜め息を吐いた父クロウは——
「お前に可愛げがないばかりに、王太子殿下に要らぬ決断をさせてしまうとは……」
——は?
「クラリッサも済まないな。ベルティーナのせいで」
「い、いえ、私は」
「クラリッサに王太子妃は務まらない。可愛いお前にあんな魔窟で生活をさせるなんて、アニエスも私も望まない。王太子の側妃として嫁がせてあげたいがまずは……」
放心するベルティーナの耳に父の声は届いていない。
可愛げがない可愛げがないと連呼されてきた中で最も意味不明な台詞に呆然としてしまった。
可愛いクラリッサが王太子妃にと望まのないなら、何故クラリッサを養女にしてベルティーナを修道院へ送る話が出ているのだ。ベルティーナを排除し、クラリッサをベルティーナの代わりに王太子妃にさせる為じゃないのか。他人の思考を完璧に読み取るのは困難、政治の前線にいる者は特にと王妃教育の教師が常々口にしていたが範疇を超えている。父が、否、父達が何を企んでいるのか分からなすぎる。
ハッとなったベルティーナは好き放題言っている父の前に座るクラリッサが、身を小さくしスカートを握り締める姿に違和感を抱いた。最初暴露した時もクラリッサは勝ち誇らず、寧ろ、焦りを見せていた。
——……まさか、あの嘘嫌いな殿下が嘘の婚約破棄を私に宣言したというの?
側にクラリッサを置き、次の婚約者になるというのも嘘ならば、別の問題が浮上する。
こうしてはいられない。
「アルジェント、部屋に戻るわよ」
「はい、お嬢様」
「待ちなさい! まだ話が終わっていない!」
呼び止める父にうんざりとした顔で振り向くと激昂され、罵声を浴びせられるもベルティーナは余裕の態度を崩さない。
「近い内に養女となるクラリッサと父娘の団欒をされては? お父様にとって私は娘ではなく、アンナローロ家の駒ですから」
「父親に向かってなんて台詞だ!!」
「あら? 昔、お兄様に泣かされてお父様に泣き付いたら『お前はただの駒だ。駒が私に泣き付いてくるな』とのお言葉と一緒に平手打ちをされましたわ」
「な……わ……私がお前にそんな事をしたと……?」
今度は父が呆然とする番となった。
確か十歳の時。ビアンコも覚えがあるのか気まずげにし、顔が青い。
父の異様な雰囲気に考え事が増えたと溜め息を吐きつつ、アルジェントを連れて部屋に戻った。
「さっきの見た? ベルティーナ」
「ええ」
サロンを出る間際見えた。
泣きそうになりながらアルジェントを連れて出て行くベルティーナを睨むクラリッサと強い眼力で睨んでくるアニエスを。
「家を出るのは後回しにして、徹底的に調べるわよ」
「OK」
ふと、イナンナから手渡された鏡が光っていると気付き近付いて見ると。
『あ~? やっと見てくれた~』
「うわ!」
鏡の向こうは今日訪れた大神官の部屋を背景にしたイナンナを映していた。
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