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美味迷走
しおりを挟む最近夢を見る。
僕の好きなハンバーグの夢。
子供っぽいだろうか
でもそんな事を言いたい訳では無い。
僕が見るハンバーグの夢はまだ途中
美味しそうな焼きたてでは無い
それは捏ねたひき肉。
赤と白を混ぜたような色。
大きな大きなひき肉。
部屋いっぱいの鉄のような匂い。
まるで食欲がわかない。
何故ならその肉の中からは人の腕や足そして生首がはえる。
なぜこんな夢を見るのだろう、自分で自分が理解出来ない。
それは夢だと理解しているのにやけに鮮明で目が覚めた後にでも匂いわや感じる日がある。
今日で何日目だろうか
今日もあの生々しい夢を見て、逃げ惑い恐怖で飛び起きる。
息が荒い。苦しい。少し頭痛も残る。油汗がまとわりつく。
何日目だろう夢と理解しているのに健やかに眠る事が出来ない。
僕は睡眠不足で重い目を擦りながら洗面所に向かい蛇口を捻り水を出す。
コップになみなみに注ぎ。一気に飲み干す。
徐々に呼吸は整い少し動悸は落ち着く。
いったいアレは何なのだろう
毎日毎日何を見せられているのだろう
ココ最近はハンバーグなんてたべてないし
作ってもいない
僕の記憶のバグなのだろうか
それとも呪い
そんなオカルトは信じていないしそもそもそんな不徳な行為もした覚えもない。
眠い。寝たい。
でももう夢を見たくない。
僕はカーテンを開いた。朝日がこぼれる。
まだ4時なのにこんなに明るいのか
ため息が零れる。
肉の塊。
それが呻く声。
うるさい。低く。大勢の声だ。
耳を塞いでも聞こえてくる。
見た目も醜い、
ソレからは大量の手足がまばらにはえていていて
醜い。
これは夢だ。理解は出来ている。
いつの間にか寝ていたのだろう。
肉から生えたいくつかの顔達は悲痛な表情で何を呟いている。
何を言っているのかは解らない。分かりたくもない。五月蝿い。
匂いもきつい。死臭というのか生臭い。嘔吐しそうだ。
夢と理解しているのに逃げられない。
白く大きな部屋の中大きな肉の塊が蠢く。
そいつが通った後はジメジメと床に何かがこびり付く。
ゆっくりとこっちに向かってくる。
見たくない。見たくない。見たくない。
見たくないのに視線を逸らすことは出来ない。
アレはいったい何なのだろう
ゆっくり、ゆっくりと近づいて来る。もし捕まったらどうなるだろうか、アレの1部になってしまうのだろうか
これは夢だ。夢のはずなのに
怖い。怖い。怖い。
どうすれば目が覚めるのだろう、思い出せない。
「た、く、み」
ん?
今、僕の名前を呼んだのか?
心臓の鼓動のように大きくなったり小さくなったりしている。
はっと目が覚める。
苦しい。
寝不足だ。寝汗も滴る。行きも荒い。
休みの日ならまだ眠りにつきたいが。
今日は卒業に必要な単位の授業がある。
大学に行かなければならない。
私はパンをを2枚袋から出しトースターに突っ込んだ。
パンが焼き上がるのを待つ間に冷蔵庫に入れて置いた缶コーヒーを取り出す。
眠気覚ましに一気に飲み干す。
苦い。
丁度よくパンも焼きあがる。
トースターから取り出していちごのジャムを塗りたぐる。
すると白のキャンバスは朝日も交えて赤く艶やかに色めき立つ。
しかし寝起きのせいかかじってもあまり味がしない。
それでも構わない。空腹をしのげればいい。
かじる。音を立ててかじる。微々たる美味を味わいながら
テレビに目を通すと朝の爽やかなニュースが心を落ち着かせる。
朝のニュースはいい。あまりエグいのをやらないからだ。
夕方や夜のニュースは見れたもんじゃない。
感受性豊かな僕は打たれ弱い。ニュースにはそういう力がある。
だから朝のニュースだけ見ることにしている。
食事を終え、歯を磨く。洗面台に映る自分自身は自分でも分かるほど衰弱していて大きな黒いクマが出来ている。
ため息がこぼれる。
何時になったら終わるのだろう、何時になったら解放されるのだろうか
早くどうにかしたい、この日々を
自殺をする人間はもしかしたら同じ夢を見ているのでは無いだろうか
不安になる。
この地獄から開放されるなら死という選択肢も見えてくる。
授業は退屈な物だ。
基本は板書を自分のノートに写す作業、テストも丸暗記すれば点数は取れる。
しかし必修科目だから出るしかない。
退屈だ。
僕にとってこの時間は睡魔との戦いだ。
とても苦しい。
最近気がついたが昼間にはアイツは現れない。
夜一人で寝ている時に出会う、何故だろう、特にストレスのかかる事はしてないはずなのに
眠い。
肘を立てて自分の頭を支える。
板書をひたすらに移す作業は続けないといけない。
目を擦る。
眠い。
シャーペンで腕を少し刺してみた。
痛い。
意識はここに戻ってきた。荒療治だが仕方ない。僕はまたひたすらにノートに書き写す作業に戻った。
普段は長くは感じないこの90分も僕には永遠に感じた。
教授の話も一定で優しくまるで子守唄のように聞こえた。
もう限界だ。
僕はそのあとの記憶はない。
気づけば昼の時間を知らせるチャイムがなっていた。
ランチはいつも彼女と食べる。
毎回大学の中にあるカフェで一緒に食べる。
昼時はいつも混んでいるが今日もいつもと同じ席に座ることが出来た。
「おまたせ」
彼女が来た。モノトーンの私服だ。初めて見る服だ。彼女はいつもより大人っぽく見えた。服に無頓着な僕には着こなせないようなコーディネートでとてもオシャレに見える。
童顔で顔も整っている。僕の自慢の彼女だ。
「美咲はけっこうかかった??」
「最後に小テストやってだいぶ時間かかった、最悪だよね、けっこう難しかったし、しかも成績に反映するんだって、皆からは大ブーイングだよ、だこら嫌われるんだよ、まったく」
「そ、そう」
「あれ、拓海、顔色悪くない?最近体調悪そうだったけど、今日は酷いね?ちゃんとご飯食べてるの??」
「ま、まあ食べてはいるんだけど」
「しっかり食べないとダメだよ、ほら!」
僕の今日の定食の唐揚げを無理やり口に突っ込んできた。苦しい。どうにか飲み込む。呆然と彼女を見る。
彼女はしてやったりの表情でこちらを見てる。
そうして自分の定食を食べ始める。
不満はあるがそれは言わない。自由で奔放な彼女に惹かれた。それは雄々しくもあり、気高さもある一緒にいると圧倒的な安心かで包んでくれる。
とてもいい彼女なのだ。
そんな事を考えてると彼女は既に半分ほど食べ終えていた。
「拓海はなんか悩みとかないの?」
彼女は鋭い。
「んー、悩みね」
「ないの?」
「それが最近寝不足なんだよ」
「バイトとか?」
「いやそうゆう訳じゃないんだけど、なんて言うか悪夢を見るだよね、そのせいで最近ぜんぜん寝れないんだよ」
「何それ、子供じゃないだから」
彼女は笑った。
「そのレベルじゃないんだって毎日毎日ほんと同じ夢を見て、苦しいんだよ、ほんとに辛いんだってば」
「そう、じゃあ一緒に寝てあげようか?」
「何言ってるんだよ」
「別にいいじゃん、付き合ってるのだから何か問題でも??」
「まあ、そうだけど、そういう事じゃないンだけど」
「じゃあ決まりね、バイト終わったら今日泊まりに行くから」
「あ、ああ、」
「なに?嫌そう」
「嫌じゃないんだけど」
「ん?」
「いや、わかった、待ってるね」
「はーい、久しぶりだから楽しみ」
僕も楽しみだ。だが彼女がいたら夢は変わるものだろうか、不安は残る。
今日はバイトは無い。用もない。
夜に彼女が来るだけ、それまで退屈だなまだ寝る訳にはいかない。
冷蔵庫から缶コーヒーを取り出す。朝と同様一気に飲み干す。
苦い。
これ美味しいと思って飲んでる人はいるのだろうか苦いだけだ、僕はただの眠気防止に飲み干す。
そしてYouTubeを見ながら時間をつぶす事にした。
ボーと。睡眠と現実の間にいた。勝手に再生されてる動画を開いた記憶はない。
何時間たっただろうか
そっとソファに腰を下ろしているとチャイムがなった。彼女だ。
「おつかれ」
「お疲れ様」
ロックを外すと彼女は慣れた手つきで冷蔵庫に飲み物と食料品を分けて入れる。
「ありがとう」
「飲む?ハイボール」
「ありがとう」
「寝つき悪いって言ってたからさ」
「うん、ありがとう」
優しさに感動すら感じたが、嬉しさと反面、彼女に自分が夢の中で怯えてる姿はあまり見られたくないものだ。
いつの間にか眠りに堕ちていたらしい
寝る前に何をしていたんだっけ
思い出せない。
いつもの白い壁。
いつもの肉の塊。
そこから無数に生えた首。口元からは肉が溢れている。見るに耐え難い。めちゃくちゃに生えた手足もうねうねと動き手招きしているようにも見える。
ソレはとても遅いがゆっくりと近づいて来る。動いた後にはネバネバの液体が床にこびり付く。
いったいなんなんだこいつは?
鬼気迫る迫力は凄まじい。僕は今日も恐怖で動けない。臭気も凄まじい。苦しい。
今日も始まるのか
僕は壁の端まで逃げて座り込み様子を見る。どこにも逃げられないのでこれが最善だ。
目が覚めるのをひたすら待つ。
ソレはまた何かを叫んでいる。あに濁点が付いたものや、おに濁点がついた物を低い声で絞り出している。何を言ってるのかは伝わらない。
僕には手立てがない。何を求めているのだ。
生臭さもあるし、恐怖で足がすくみソレに近寄るのは絶対なは出来ない。
怖い。ただ恐怖があるのみ。
ただ僕に何かを訴えようとしている様子は伝わる。なぜ僕なんだ、僕には何も出来ない。
悲痛な表情は僕に何かを訴えかけている。
どうかはやく覚めてくれ
「こいつのせいで眠れないの?」
え。
そこには彼女の姿がある。
「ここは僕の夢の中だよね?」
彼女は言葉を返さなかった。いつもの彼女なのだろうか、少しいつもと雰囲気が違う気がする。
「ぜんぶ引き抜いたらいんじゃない?」
そういうと彼女はソレに近づいていく。
「え、ちょっと」
どんどん近づいていって肉から出ている首を力いっぱい握った。
そのまま首をを力いっぱい引いてみる。なかなか出てこない。
そうならったら片足で肉を踏みつけて体重をかけてひき剥がす。
大きな断末魔が部屋中を覆い尽くす。
鼓膜が裂けそうだ。
バリバリと大きな音を出しながら首の下の小さな体は肉の塊から追い出された。
生々しく艶やかにひかる男性の裸体。肉片はこびりついている。気持ちが悪い。
「お前名前は?」
彼女がそいつに問いただす。
「は、はあ」
話そうとしてるが言葉が出てこないような様子だ。
「お前名前は?」
彼女は更に冷たく問いただす。
「あ、あ、ありません」
「はあ?じゃなんのためにここにいる?」
「な、な、何も考えないと楽で、そしたら、気づいたらこうなっていました」
「あっそ、次」
彼女はまた肉の塊に近寄る。
ミシミシと音を立てながらまた肉からそいつらを引き剥がす。
「お前名前は?」
「あ、あ、あ」
「話せないの?」
「あ、あ、すいません、すいません」
そいつは頭を抱えて怯えてる。
「次」
彼女はまた引き出した。
「あんたは?」
「ゔー、ゔー」
「なんでここにいるの?」
「あ、あ、あの」
「聞いてあげるから、ゆっくり話な」
「生きるのつらいなって思って諦めて、あ、死のうとしてたら、気づいたら、あ、 ここにいて」
「そう、生きるのはつらいよね、でも人を苦しめてはいけない、それだけはどんなに辛くてもしてはいけない、人は人を苦しめると自分に不幸が返ってくるんだ。だから本当は辛いなら幸せにらないといけないんだよ、幸せになる努力は怠ってはいけない、それで精一杯生きて辛いのも忘れて死なないといけない」
「あ、あ、そうだった、軽い気持ちで書き込んだ、自分が辛かったから人に当たってしまった、酷く傷つけてそして自殺したらしい、でもそれが間違いだった、全部自分に返ってきた、そして飲み込まれた、許してくれ、許してくれ、許してくれ」
そう言ってそいつは消えていった。
「拓海くん、あなたにも心当たりがあるでしょ、それに飲み込まれたのよ、彼女が死んだ時どんな気持ちだった?今どんな気持ち?改められる?」
「」
目が覚める。
コーヒーの香りがする。
キッチンから物音がする。
彼女の姿が見える。落ち着く。
いつも通りの彼女だ。
夢は終わったのか、何日も寝ていた気分だ。
真水の中に絵の具を垂らした何か異物が残るそんな気分だ。悪くはない。
「おはよう」
「おはよう」
「よく眠れた?」
「ああ、今日、夢に出てきたよ」
「私が?」
「そう、めちゃくちゃかっこよかった」
「そう」
彼女は笑っていた。
「よく眠れた、何かスッキリした気分だよ」
「良かった」
彼女は朝食の準備をしていた。
「何作っているの?」
「もう少し待っててね」
クチャクチャと音が聞こえる。
「ん?」
彼女は一生懸命ひき肉を捏ねていた。
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