蒼炎の魔法使い

山野

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第百話 ノーパン健康法とか絶対流行るな!

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俺とペネアノの代表ダリルはオートマタの膝関節をタイツやニーハイで隠す隠さない問題で揉めていた。
空気は最悪で一触即発。
睨み合う俺達の耳が、手をパンパンと叩く音を拾う

「何下らない事で言い争ってるのよ」
俺とダリルの間に呆れた面持ちで割って入って来たのはフララだ

「下らないとは何を言うか、これは大事な議題であるぞ!」
こればっかりはダリルに同意

「そうだフララ、これは大問題だ、引くわけには行かない!」
一歩も引く素振りのない両者にフラミレッラは呆れて溜息が漏れる

「変な所で頑固なんだから。 簡単な事じゃない、膝関節でそういう事したくなったらタイツは破ればいいし、ニーハイはずらせばいいのよ」

「「…天才か?!」」
俺達は自分たちの愚かさを恥じた、何故自分の意見を押し通す事しか考えなかったのか。
少し思考を巡らせればその答えに辿り着くことは決して難しい事ではなかったはず。
相手の事を少し考えるだけでいいのだ、世界の貧困、格差社会、無くならない世界の紛争、あの子の下着の柄。
全て少し立ち止まって考えるだけで実は解決できるのではないだろうか?

そんな取り留めない思考に囚われていると、フララの少し小馬鹿にした様な含み笑いが耳に入った。
どうやら自然と口から言葉が溢れていたらしい。

「うふふふ、下着の柄?  まだまだ貴方も甘いわね、いつから下着を着用していると錯覚していたのかしら?」

「「なん…だと?!」」
俺とダリルは寸分狂わぬタイミングで同じ言葉を発した。
そんな俺達を見下す様なあの視線、俺達を試している?!

「下着をいつも着用しているという固定概念に囚われすぎだわ。そもそも履いていないと言うことを失念しているなんて、思慮深さを欠いていると言わざるを得ない!」
なんと言うことだ! だが履いていない、それは到底許される事ではないと俺は思う!

「ショウ殿、君の連れは一体何を考えているんだ、下着の向こうは宇宙、宇宙というロマンに下着という別のロマンを重ねてミルフィーユ仕立てにしているからこそ魅力的なのだ! 下着、それは我々知的生命体にだけ許されたカルタシス!」

「全くその通りだダリルさん! 最初から下着を身に着けてない居ない場合、暗がりで色などはわからないが、最中の時だけ高感度に研ぎ澄まされた指先の感覚をフルに使い素材や形状を把握し、下着のディティールまで脳内形成して一人の時に思い出したり、行為が終わった後何処かへ行った下着をなんとなく気まずい空気の中探すあの謎の時間がなくなってしまうのは余りに惜しい!!」

「レデリさん、あの二人は一体何を言っているのです?」

「シャロ、あれは私達では救えないものよ、見ちゃダメ」

「一部地域で神の如く崇められている樹の大精霊のエメでも救えないからねー」

下着について熱弁する二人を、少し離れた場所から見ているショウの身内の視線はかなり冷ややかだ、ルーメリアやイレスティ、ストリンデなどは興味もないようで部屋の中の調度品を見ている、ルチルは連絡用にエクランに残っている様だ。

「下着なんてただの布じゃない、あんな物の何処がいいの?」
はぁこれだから…

「いいか、フララ、下着というのは着用されなければ実際ただの布だそれは認めよう。 だがしかし!! それが一たび肌に触れ湿り気を帯びる事により圧倒的進化を遂げるのだ!! それはまるでゴミを純金に変えてしまう等価交換なしの錬金術が如し!! ただの布切れから聖布へと進化を遂げるのだ!!」
先程まで言い争っていてダリルも激しく同意しているようで深々と何度も頷いていた
ふふふ、そんな事も分からないとは全く女ってやつは自分達が普段からお宝を身に着けているという自覚がなさすぎる。 …あれ? なんか俺気持ち悪くね?

「ふーん、そんな事すこぶるどうでもいいわ。それよりもこんなに簡単に下着に意識を持っていかれるなんて貴方達がしていた論争も大した事なかったのね」
その時俺達は気付いた、思考を誘導されたのだと。
誘導された思考によって共通意識を持たされ、俺達のわだかまりはもう無くなってるどころか、お互いを認め合う様な雰囲気すらある。

「ショウ殿すまなかった、頭に血が上りすぎていてそんな楽しみ方があっただなんて想像もしなかった。 なるほど破ってしまうのか、それは背徳感も相まってたまらんな」

「いいえ良いんですよ、僕もつい過剰に反応してしまって… 伸ばしきったニーハイをゆっくりとずらす喜びは何物にも代えがたいですよ。 もうそれだけでパン一斤は行けます」

「我々はよき友になれそうだ」

「全くです」
先程の一色触発だった空気は何処へその、俺達を肩を組みお互いの健闘を称え合いがっちりと固い握手をすると、フララの手をパンと叩く音が聞こえ意識がそちらへ向く

「さて、それじゃあ仕事の話と行きましょう。 私はフラミレッラ、リールモルト王国の北にあるカルターノという街を納めているわ、それにこのショウ伯爵の婚約者よ。 交渉は私がするわ」

「ほぉ美しい貴婦人とは思っておりましたが、カルターノの女王でしたか、アンデッドの街であると遠いこの地にまで噂は届いておりますよ、どうぞお座りください」
勧められた通り、俺とフララは柔らかく上質なソファーに腰を下ろすと、イレスティがすかさずスカートの中から取り出したティーカップに紅茶を給仕して、一礼した後下がる様をみてダリルとバンビも目を見開く

それもそのはず、だってここ人ん家だもん!
彼女は常にメイドなのだ、それが例え人のフィールドであったとしても…

「話が早くて助かるわ、それで…」
交渉が今始まろうとした時、兵士が扉を荒々しく開け息を切らしながらダリルの前に来た

「報告致します! 現在我々の国土内にある鉱山都市の三つが、幾つかの敵国によって占領されました! 他の所もオートマタが反乱を起こしており、いずれ落とされるかと思います」
ダリルの机を強く叩くと、イレスティが入れたお茶が少し零れるが、うちのメイドにより目にもとまらぬ速さで机が拭かれ、新しい物と取り換えられた

余りにもタイミングが良い、間違いなく予め計画されていたのだろう

「ダリル様、ここは助力を求めるのが賢明かと思います」
バンビが軽く耳打ちした言葉を少し吟味した後、観念した様に大きな溜息を吐き出した

「フラミレッラ殿、そちらの条件は?」

「各鉱山都市の採掘量の30%」
ニヤリと笑ったフララとは対照的にダリルにはうっすらと汗が滲んでいる
30%もらえるのはかなり大きい、うちのエクランは樹の大精霊のお陰で食糧事情は全く問題ないのだが、鉱山などはなく他国から買い付けている状況なのでこれが結構な金を食う。

「随分と吹っ掛けたものですね」

「そうかしら?このままじゃ鉱山都市全部失うだけじゃなく、ペネアノ自体失ってしまうかもしれないのよ? この状況で死守できるのかしら? 私達は別に協力してもしなくてもどちらでも構わないのよ?」
苦い顔をしているダリルを見るフララの顔は完全に悪役だ、味方で良かった。
だが彼女の言う通りだ、各地に散らばる鉱山都市に貴重な戦力を分散させれば、中央の守りが薄くなりどこかの国に攻め落とされ、中央に守りを固めたとしても、オートマタ兵が使える様になるまで一週間耐え抜くのは難しいだろう。
予め計画されたものなら一週間も悠長に待ってくれるはずもないし、吹っ掛けるには最高のタイミングと言える。
下手したら俺達が黒幕とか疑われてもおかしくなくね?

「30%は流石に厳しい、20%ではいけませんかな?」
フラミレッラは勿体ぶるように品よくティーカップを元へと運び、香りを楽しんだ後ゆっくり口に含んで飲み込んだ。
その勿体ぶった動作にダリルがイライラしているのが太ももに置かれた落ち着きのない手の様子から見て取れる。

助力を求めるのはまぁ確定、まもなく攻めて来るであろう他国を迎え撃つペネアノには時間がない、一刻も早く準備にかからないと被害を最小限に留められないのをわかっているフララはそれを利用してあえて長引かせているのだろう、このままいけば確実に向こうが折れるのだが…

「それじゃあ採掘量は10%でいいわ」
ティーカップを置きながら発したフララの言葉に少し驚いた様にダリルの目が見開かれた

「随分と良心的になりましたね? ですが採掘量はという事は続きがあるのでは?

「私達は元々良心的よ? 察しが良くて助かるわ。 うちはずっと人材不足なの、だから使えそうな若い人材をエクランへ送って頂戴」
こっちが本当の狙いか。 ペネアノの人材をもらい受けるという事は抱き合わせでオートマタもくっついて来ると言う事だ。 
ペネアノが独占しているオートマタの技術や武器製造をエクランでも再現出来ればそれは莫大な利益を生むだろう
それに実際人材不足だからかなり助かる、元居たお偉いさんは全員殺しちゃったからなぁ…

「そっちが本当の目的でしたか、フララ様は怖い方ですね、30%の時に即頷いて居た方がペネアノの長期的利益としては正解だったのかもしれません、ダリル様の負けです」

「もうその選択肢はなくなったわよ? ペネアノが選べるのは一択だけ」
ダリルは観念した様に頭を擦った後手を差し出し握手を求めて来た
その手には余り触れたくないんだが…

「じゃあ交渉成立って事で」

「あぁ、よろしく頼みますショウ殿」
俺達が握手すると外の方から大きな爆発音が聞こえ、戦いの始まりを予感させた
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