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第九十八話 野生のメンヘラと熊は出会ったら最後
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「やっとついたか、そんなに距離はなかったのにどっと疲れたな。」
俺とレデリとジルの三人は高い丘の上から次の目的の街を見下ろしていた。
「兄さんとジルさんは、相当はしゃいでたからね。 にしてもあの城壁凄いなー」
街を囲む黒光りした城壁は、見るからに強固であり、金属特有の冷たさを宿している。
「ここは金属と人形の街、永久中立都市国家ペネアノ。 オートマタと人間が共存する所だよ」
オートマタ、図書館で読んだけど所謂ロボットみたいなもんだよな?
こっちのロボットは元居た世界と違ってかなり進んでいるらしいので実際に見るのがかなり楽しみだ
「共存?」
「この街では1人一体のオートマタの所有を義務づけられていて、日々の生活に欠かせない物…じゃないね、日々の生活に欠かせない相棒って感じかな?」
「へぇそれは楽しみだね、いいオートマタがあれば買ってみてもいいかもね」
「その買った人形で兄さんはどんな事をするつもりなの?」
いつもの如く虫けらを見るような視線で俺を射て来るが、決して空気嫁にしようなんて思ってない。
「ショウ君、残念だけどそれは無理だよ。 オートマタはペネアノから外に持ち出すのを禁止されてるしね。それに実際にみたら買おうなんて思わないと思う。 それより今は急いだ方が良いよ。まだ間に合うから。」
ジルの視線の先にあるペネアノからは黒煙がもくもくと上がっており何やらただ事ではない様子だ。
「了解、二人とも急ごう!」
◇ ◇ ◇ ◇
「勝手に入ってよかったのかな?」
俺達三人は閑散とした城壁を潜り街の中へと入ると焼け焦げた匂いが充満しており、そこらかしこの建物のから火の手上がっていた
「普段はオートマタが入国審査するんだけど今は緊急事態だから大丈夫!だと思う!」
「兄さんあれ見て!」
レデリの指さした先を見ると剣を持った女性が、腰を抜かして動けなくなっている少年に今にも切りかかろうとしている所だった
俺は【電光石火】を使って腰を抜かしている子供の所まで高速で移動し、剣を振り下ろす女性の腕を切り落とし、【バインド】で拘束する。
切り落とした断面からは血も出ておらず骨の代わりに金属が覗いていた。
「お兄ちゃんありがとう、でもお願いルルを壊さないで!」
【バインド】の光の輪で拘束されているので動くことが出来ず、地面でもがいている女性のを見て、泣きながら少年が訴えて来た
「良いのか? お前を殺そうとしたんだぞ?」
「お願い! ルルは僕の家族だから!」
困惑している俺を見てジルが口を開く
「この街に人にとってオートマタは親友であり、恋人であり、伴侶であり家族で、大切な人なの。 完全ではないけど感情もあるし私達の元居た世界のロボットとは全然別物なんだよ」
確かに先程からもがいてるこのオートマタはどこからどう見ても人間と変わらない、というか感情があるのならそれはもう人と言って遜色ないのではないだろうか?
俺の思ってたのと全然違うな、確かにこれは買おうなんて思わないわ、人身売買みたいで気が引ける。
「でもそしたらどうするの? とりあえず暴れられないように他の手足も切り落とす?」
鬼畜レデリ…何でそんな怖い事を子供の前でサラッと言えるし
「案ずるな! 我に任せよ! 我の言霊に宿る聖なる力で邪悪を打ち払う!音魔術【デパス】」
魔術名がメンヘラっぽい! 安定剤の名前だろそれ!
「オホン、それでは聞いて下さい。天城越え」
選曲ふっる! しかも元祖メンヘラソング!! おかんが好きで死ぬほど聞かされたので歌詞もばっちり覚えてる。 ジルは一体どうやってこの曲を知ったんだろう?
曲のチョイスはあれだけど、ジルが喉を震わせ歌い始めると、もがいていたルルと呼ばれたオートマタは次第正気を取り戻し徐々に大人しくなっていく。
彼女の歌声は本当に素晴らしく、俺もレデリも聞き惚れてしまい、危険な場所にいるのを忘れてしまう程だった。
「♪~♪~♪誰かに取られる位なら~♪あなたを殺していいですか~♪…チラ…チラ…」
チラチラみるな! 歌詞が怖いわ! 怖くて怖くて震える。
そうしてジルが歌い終わる頃にはルルと呼ばれたオートマタは完全に正気に戻ったようなので拘束を解くと立ち上がって深々とお辞儀した。
「ルルだっけ? すまん、その子が危ないと思って腕を切り落とさせてもらった。」
「いいえ構いません、危うく大事なマスターをこの手で殺めてしまう所でしたので。」
ルルは彼女に抱き着いて泣いている少年の頭を優しく撫でながら優しく笑いかけた。
こうしてみると本当に人間だな、表情や仕草の一つ一つに全く違和感がない、一体どういう原理なんだろう?
「それで何がどうなってるんだ?」
「私の思考回路が外部からの干渉で、マスターに憎しみを抱く様に仕向けられました。私達オートマタはマスターの事を最優先で考えるので本来攻撃など出来るはずがないのですが、あの時の私はマスターが憎くて憎くて仕方がなかったのです、それこそ殺してしまいたい程に。 ですが先程また新たに別の外部からの干渉があり、心が落ち着きました。おそらくこの街のオートマタ全てが私と同じ様にマスターに憎しみを抱いていると思います。 先程助けてくれたのはあなた達ですよね? 図々しいお願いだと思いますが、私達オートマタを助けてくれませんか? 大事なマスターを失ったら私達はもう…」
ルルは愛おしそうに片方しかない腕で少年をギュッと抱きしめ、少年も涙を流しながら彼女の想いに応える
この街の為に何かしてやる義理はないけど、目の前で人が死んで行くのもなんか嫌だしな。
報酬はたんまりと頂くとしよう。
「兄さん早くした方が良いと思うよ」
レデリがそこらかしこでオートマタから逃げる人達を見て眉間に皺を寄せた
「そうだね、じゃあルル、出来るだけの事はやってみるよ。二人だけで大丈夫?」
「恐らくオートマタは自分のマスターしか襲わないので大丈夫でしょう。それに何かあればこの身に変えてもマスターを守ります。」
「わかったじゃあ行くよ!危ないから早く非難しなよ!」
「はい。それでは御武運を。」
火事で焼け焦げ今にも崩れそうな建物が沢山ある中に二人を残していくのは気が引けるがゆっくりしている時間はない。
「ジル、さっきの歌この街全体に聞こえる様に出来ない?」
「流石に一人じゃ無理、ショウ君の魔法でこの街全体に届けて!」
「わかった、じゃあ届やすいように空から歌おう! レデリはケガ人の手当て頼むわ」
「オッケー。終わったら沢山この街のお偉いさんから沢山ふんだくろうね!」
パチンとウインクして悪そうな笑いを浮かべながら桜色の髪を指先でいじる。
あーこいつ自分の研究費にいくらか当てるつもりだな。
ジルが突然正面から俺に抱き着き、肺一杯に息を溜め言葉を発する
「我願うは神々が創りし蒼き世界、天界と地上を繋ぐ狭間への誘い。神々の黄昏の翼よ我を導きたまえ!」
「あーうるさいうるさい! 至近距離で止めろ! てか俺が魔法使うのに何でお前が詠唱してんだよ!! それに何で前から抱き着いてくんの?!」
俺の言葉にジルの目のハイライトが消える
「ねぇどうして嫌がるの? そんなに私が嫌いなの? ねぇ答えて!? わかった…ショウ君他の女の子に夢中で私の事なんて見てないんだね、私なんて必要ないんだ、じゃあもういなくなろうか? でもどれだけ遠くに離れても一日5通以上手紙送るよ! 返事くれるよね?! 無視なんてしたらショウ君に何かあったのかと思ってもっと沢山手紙送るよ? 逃げないでね、私どこまでも追いかけるよ? もしかして私うざい子? ショウ君こういう子嫌い? そうだよね、重いよね… じゃあ手首切って死ぬよ、そしたらショウ君の記憶にずっと残るれるよね? 記憶の中であなたとずっと一緒に居れるんだよね?! そしたら私ボッチ卒業だよね?! 忘れられる事が何よりも一番辛いんだよ!!」
道中魔物を撲殺して血まみれになったバールの様な物を取り出し鋭く尖った刃を手首に当てる
「怖い怖い怖い!! お前が一番正気じゃねぇ!! まず自分に【デパス】かけろよ!! 中二病なのかメンヘラなのか設定ちゃんとしろ!! とりあえずちょっと離れて……あっ」
ジルの言い知れぬ恐ろしさに思わず距離を取ろうと彼女を押すと、何を間違えたのかむにゅっと胸を押してしまい気まずい沈黙が生まれた
「うわーどさくさに相変わらず兄さんはゴミだね。アメーバ並みの知能しかないんだからいっそアメーバに転生してやり直した方が良いと思うよ?」
レデリの氷よりも冷たい視線と言葉が痛い… まだ殴られてた方がましだ。
俺が気まずさに耐えかねて頬を掻いているときょとん顔のジルが口を開く
「…何気まずい空気出してるの? 別に初めてじゃなし気にしないよ?」
何だと?! こんなボッチ街道を全裸で爆走してるようなやつが経験者だと?!
何処でそんな事故起きた!
「確かに何か慣れてるね」
「私ヤリ〇ンだから」
とんでもない事実止めろ?!
彼女はキリ顔で親指を立てていうが、その顔は非常に腹が立つ
「最低か!!」
「メンヘラとヤリ〇ンはセット売りっていうじゃない?」
「まぁ確かにメンヘラは不特定多数と交わりがちって言うけど…実際はわからんよね」
「私経験人数一人だよ。一人に対してだけヤリ〇ン!」
ドヤ顔でその表現やめろ! こいつ本当に意味ちゃんと理解して言ってんのか?!
「それはヤリ〇ンじゃなくてただのどエロだ。 お前のそのズレた知識何処から入手して来たんだよ」
「秘密です、私の半分は秘密で出来てるんだよ?」
優しさ以外の成分で出来た物なんて大体頭痛の元だわ
「もう残りの半分は嘘だったり?」
「クククあながち間違いでもないかもしれぬな、だが今は言えぬ、そのうち我の真の姿を…」
まぁーた変なスイッチ入りかけてる
「ねぇ二人共早くしなよ」
レデリが呆れた様に溜息交じりでバカな会話をする俺達を急かす
「「すみません」」
「それじゃあ今度こそ【フライ】」
前から抱き着くジルを抱え空へと飛び出す。
下で手を振りながら風に靡く桜色の髪を抑えるレデリがどんどん小さくなっていく。
空からみた街の様子は悲惨で、燃え盛る家々の火の海を逃げ惑う人間を武器を片手に追いかけていたり、人も武器を取り己のオートマタと必死に戦う者。倒れたオートマタを抱きしめながら泣いている者、もう息を引き取り、ただの肉の塊となった自分の主人を意味もなく永遠と突き刺すオートマタ、人かオートマタかわからない骸も沢山転がっていた。
「怒りと憎しみに満ちた声…今解放してあげるからね」
ジルは涙を堪えながら苦しそうに胸を抑え唇を噛んだ
「音魔術【デパス】」
彼女の美しい歌声を俺の風魔法が街全体へと行き渡らせる
「♪~♪~♪あなたを殺していいですか~♪」
血走った目でそこだけ妙に熱を込めて歌うのやめて!!
背中に度々接触するバールの様な物の感触もめっちゃ嫌だ!!
彼女の歌声はきっと聞くもの全てを魅了し時間を忘れさせる。
時間を圧縮したような永遠にも似た濃密な時間は終わってしまえば一瞬だ。
「よかった…怒りや憎しみに満ちた声なくなったよ。でも今は悲しい声で一杯…」
ジルは先程よりも苦しそうに呼吸を乱し俺に抱き着く。
彼女の美しい歌声が終わり街中から聞こえて来たのは、正気を取り戻し大事な主人を己の手で殺めてしまった事を自覚したオートマタ達の悲しみに満ちた声だった。
俺とレデリとジルの三人は高い丘の上から次の目的の街を見下ろしていた。
「兄さんとジルさんは、相当はしゃいでたからね。 にしてもあの城壁凄いなー」
街を囲む黒光りした城壁は、見るからに強固であり、金属特有の冷たさを宿している。
「ここは金属と人形の街、永久中立都市国家ペネアノ。 オートマタと人間が共存する所だよ」
オートマタ、図書館で読んだけど所謂ロボットみたいなもんだよな?
こっちのロボットは元居た世界と違ってかなり進んでいるらしいので実際に見るのがかなり楽しみだ
「共存?」
「この街では1人一体のオートマタの所有を義務づけられていて、日々の生活に欠かせない物…じゃないね、日々の生活に欠かせない相棒って感じかな?」
「へぇそれは楽しみだね、いいオートマタがあれば買ってみてもいいかもね」
「その買った人形で兄さんはどんな事をするつもりなの?」
いつもの如く虫けらを見るような視線で俺を射て来るが、決して空気嫁にしようなんて思ってない。
「ショウ君、残念だけどそれは無理だよ。 オートマタはペネアノから外に持ち出すのを禁止されてるしね。それに実際にみたら買おうなんて思わないと思う。 それより今は急いだ方が良いよ。まだ間に合うから。」
ジルの視線の先にあるペネアノからは黒煙がもくもくと上がっており何やらただ事ではない様子だ。
「了解、二人とも急ごう!」
◇ ◇ ◇ ◇
「勝手に入ってよかったのかな?」
俺達三人は閑散とした城壁を潜り街の中へと入ると焼け焦げた匂いが充満しており、そこらかしこの建物のから火の手上がっていた
「普段はオートマタが入国審査するんだけど今は緊急事態だから大丈夫!だと思う!」
「兄さんあれ見て!」
レデリの指さした先を見ると剣を持った女性が、腰を抜かして動けなくなっている少年に今にも切りかかろうとしている所だった
俺は【電光石火】を使って腰を抜かしている子供の所まで高速で移動し、剣を振り下ろす女性の腕を切り落とし、【バインド】で拘束する。
切り落とした断面からは血も出ておらず骨の代わりに金属が覗いていた。
「お兄ちゃんありがとう、でもお願いルルを壊さないで!」
【バインド】の光の輪で拘束されているので動くことが出来ず、地面でもがいている女性のを見て、泣きながら少年が訴えて来た
「良いのか? お前を殺そうとしたんだぞ?」
「お願い! ルルは僕の家族だから!」
困惑している俺を見てジルが口を開く
「この街に人にとってオートマタは親友であり、恋人であり、伴侶であり家族で、大切な人なの。 完全ではないけど感情もあるし私達の元居た世界のロボットとは全然別物なんだよ」
確かに先程からもがいてるこのオートマタはどこからどう見ても人間と変わらない、というか感情があるのならそれはもう人と言って遜色ないのではないだろうか?
俺の思ってたのと全然違うな、確かにこれは買おうなんて思わないわ、人身売買みたいで気が引ける。
「でもそしたらどうするの? とりあえず暴れられないように他の手足も切り落とす?」
鬼畜レデリ…何でそんな怖い事を子供の前でサラッと言えるし
「案ずるな! 我に任せよ! 我の言霊に宿る聖なる力で邪悪を打ち払う!音魔術【デパス】」
魔術名がメンヘラっぽい! 安定剤の名前だろそれ!
「オホン、それでは聞いて下さい。天城越え」
選曲ふっる! しかも元祖メンヘラソング!! おかんが好きで死ぬほど聞かされたので歌詞もばっちり覚えてる。 ジルは一体どうやってこの曲を知ったんだろう?
曲のチョイスはあれだけど、ジルが喉を震わせ歌い始めると、もがいていたルルと呼ばれたオートマタは次第正気を取り戻し徐々に大人しくなっていく。
彼女の歌声は本当に素晴らしく、俺もレデリも聞き惚れてしまい、危険な場所にいるのを忘れてしまう程だった。
「♪~♪~♪誰かに取られる位なら~♪あなたを殺していいですか~♪…チラ…チラ…」
チラチラみるな! 歌詞が怖いわ! 怖くて怖くて震える。
そうしてジルが歌い終わる頃にはルルと呼ばれたオートマタは完全に正気に戻ったようなので拘束を解くと立ち上がって深々とお辞儀した。
「ルルだっけ? すまん、その子が危ないと思って腕を切り落とさせてもらった。」
「いいえ構いません、危うく大事なマスターをこの手で殺めてしまう所でしたので。」
ルルは彼女に抱き着いて泣いている少年の頭を優しく撫でながら優しく笑いかけた。
こうしてみると本当に人間だな、表情や仕草の一つ一つに全く違和感がない、一体どういう原理なんだろう?
「それで何がどうなってるんだ?」
「私の思考回路が外部からの干渉で、マスターに憎しみを抱く様に仕向けられました。私達オートマタはマスターの事を最優先で考えるので本来攻撃など出来るはずがないのですが、あの時の私はマスターが憎くて憎くて仕方がなかったのです、それこそ殺してしまいたい程に。 ですが先程また新たに別の外部からの干渉があり、心が落ち着きました。おそらくこの街のオートマタ全てが私と同じ様にマスターに憎しみを抱いていると思います。 先程助けてくれたのはあなた達ですよね? 図々しいお願いだと思いますが、私達オートマタを助けてくれませんか? 大事なマスターを失ったら私達はもう…」
ルルは愛おしそうに片方しかない腕で少年をギュッと抱きしめ、少年も涙を流しながら彼女の想いに応える
この街の為に何かしてやる義理はないけど、目の前で人が死んで行くのもなんか嫌だしな。
報酬はたんまりと頂くとしよう。
「兄さん早くした方が良いと思うよ」
レデリがそこらかしこでオートマタから逃げる人達を見て眉間に皺を寄せた
「そうだね、じゃあルル、出来るだけの事はやってみるよ。二人だけで大丈夫?」
「恐らくオートマタは自分のマスターしか襲わないので大丈夫でしょう。それに何かあればこの身に変えてもマスターを守ります。」
「わかったじゃあ行くよ!危ないから早く非難しなよ!」
「はい。それでは御武運を。」
火事で焼け焦げ今にも崩れそうな建物が沢山ある中に二人を残していくのは気が引けるがゆっくりしている時間はない。
「ジル、さっきの歌この街全体に聞こえる様に出来ない?」
「流石に一人じゃ無理、ショウ君の魔法でこの街全体に届けて!」
「わかった、じゃあ届やすいように空から歌おう! レデリはケガ人の手当て頼むわ」
「オッケー。終わったら沢山この街のお偉いさんから沢山ふんだくろうね!」
パチンとウインクして悪そうな笑いを浮かべながら桜色の髪を指先でいじる。
あーこいつ自分の研究費にいくらか当てるつもりだな。
ジルが突然正面から俺に抱き着き、肺一杯に息を溜め言葉を発する
「我願うは神々が創りし蒼き世界、天界と地上を繋ぐ狭間への誘い。神々の黄昏の翼よ我を導きたまえ!」
「あーうるさいうるさい! 至近距離で止めろ! てか俺が魔法使うのに何でお前が詠唱してんだよ!! それに何で前から抱き着いてくんの?!」
俺の言葉にジルの目のハイライトが消える
「ねぇどうして嫌がるの? そんなに私が嫌いなの? ねぇ答えて!? わかった…ショウ君他の女の子に夢中で私の事なんて見てないんだね、私なんて必要ないんだ、じゃあもういなくなろうか? でもどれだけ遠くに離れても一日5通以上手紙送るよ! 返事くれるよね?! 無視なんてしたらショウ君に何かあったのかと思ってもっと沢山手紙送るよ? 逃げないでね、私どこまでも追いかけるよ? もしかして私うざい子? ショウ君こういう子嫌い? そうだよね、重いよね… じゃあ手首切って死ぬよ、そしたらショウ君の記憶にずっと残るれるよね? 記憶の中であなたとずっと一緒に居れるんだよね?! そしたら私ボッチ卒業だよね?! 忘れられる事が何よりも一番辛いんだよ!!」
道中魔物を撲殺して血まみれになったバールの様な物を取り出し鋭く尖った刃を手首に当てる
「怖い怖い怖い!! お前が一番正気じゃねぇ!! まず自分に【デパス】かけろよ!! 中二病なのかメンヘラなのか設定ちゃんとしろ!! とりあえずちょっと離れて……あっ」
ジルの言い知れぬ恐ろしさに思わず距離を取ろうと彼女を押すと、何を間違えたのかむにゅっと胸を押してしまい気まずい沈黙が生まれた
「うわーどさくさに相変わらず兄さんはゴミだね。アメーバ並みの知能しかないんだからいっそアメーバに転生してやり直した方が良いと思うよ?」
レデリの氷よりも冷たい視線と言葉が痛い… まだ殴られてた方がましだ。
俺が気まずさに耐えかねて頬を掻いているときょとん顔のジルが口を開く
「…何気まずい空気出してるの? 別に初めてじゃなし気にしないよ?」
何だと?! こんなボッチ街道を全裸で爆走してるようなやつが経験者だと?!
何処でそんな事故起きた!
「確かに何か慣れてるね」
「私ヤリ〇ンだから」
とんでもない事実止めろ?!
彼女はキリ顔で親指を立てていうが、その顔は非常に腹が立つ
「最低か!!」
「メンヘラとヤリ〇ンはセット売りっていうじゃない?」
「まぁ確かにメンヘラは不特定多数と交わりがちって言うけど…実際はわからんよね」
「私経験人数一人だよ。一人に対してだけヤリ〇ン!」
ドヤ顔でその表現やめろ! こいつ本当に意味ちゃんと理解して言ってんのか?!
「それはヤリ〇ンじゃなくてただのどエロだ。 お前のそのズレた知識何処から入手して来たんだよ」
「秘密です、私の半分は秘密で出来てるんだよ?」
優しさ以外の成分で出来た物なんて大体頭痛の元だわ
「もう残りの半分は嘘だったり?」
「クククあながち間違いでもないかもしれぬな、だが今は言えぬ、そのうち我の真の姿を…」
まぁーた変なスイッチ入りかけてる
「ねぇ二人共早くしなよ」
レデリが呆れた様に溜息交じりでバカな会話をする俺達を急かす
「「すみません」」
「それじゃあ今度こそ【フライ】」
前から抱き着くジルを抱え空へと飛び出す。
下で手を振りながら風に靡く桜色の髪を抑えるレデリがどんどん小さくなっていく。
空からみた街の様子は悲惨で、燃え盛る家々の火の海を逃げ惑う人間を武器を片手に追いかけていたり、人も武器を取り己のオートマタと必死に戦う者。倒れたオートマタを抱きしめながら泣いている者、もう息を引き取り、ただの肉の塊となった自分の主人を意味もなく永遠と突き刺すオートマタ、人かオートマタかわからない骸も沢山転がっていた。
「怒りと憎しみに満ちた声…今解放してあげるからね」
ジルは涙を堪えながら苦しそうに胸を抑え唇を噛んだ
「音魔術【デパス】」
彼女の美しい歌声を俺の風魔法が街全体へと行き渡らせる
「♪~♪~♪あなたを殺していいですか~♪」
血走った目でそこだけ妙に熱を込めて歌うのやめて!!
背中に度々接触するバールの様な物の感触もめっちゃ嫌だ!!
彼女の歌声はきっと聞くもの全てを魅了し時間を忘れさせる。
時間を圧縮したような永遠にも似た濃密な時間は終わってしまえば一瞬だ。
「よかった…怒りや憎しみに満ちた声なくなったよ。でも今は悲しい声で一杯…」
ジルは先程よりも苦しそうに呼吸を乱し俺に抱き着く。
彼女の美しい歌声が終わり街中から聞こえて来たのは、正気を取り戻し大事な主人を己の手で殺めてしまった事を自覚したオートマタ達の悲しみに満ちた声だった。
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