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第九十五話 ツインテールの分け目は日焼けする
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花冷えの寒さで微睡みから眼が覚める瞬間柔らかい感触が唇に広がった。
「お、おはようございます! 朝食の用意が出来ましたので食堂までお越しください。」
カチリと纏めた頭をサッと下げてクルリと背を向け出て行いく。
耳が赤かった辺りあの唇の感触はイレスティだな。
彼女は自分から積極的にする方ではないので、かなり恥ずかしかったのだろう。
イレスティの声に反応して、ルーやフララ、エメが目を覚ます。
「うぅ、寒いよお兄ちゃん! 夜よりも深き闇を浄化せし聖布エクスカリブトンはこの私が全て頂く!!」
エメが俺達の上をゴロゴロと転がりながらエクスカリブトンをその身に巻きつけ奪って行くが、勢いが良かったせいでベットから転げ落ち、勢いそのままで扉へ激突した。
「…寒い。 エメがジルに変な影響を受けてる。」
ルーがベットに広がった綺麗な長い銀髪を見慣れた仕草で片方に寄せ、唇を合わせて来るのが朝の到来を実感できる瞬間。
「昨日は凄かったわね、私があんなになるなんて思ってなかった。 ねぇもう一回する?」
反対側からフララの甘い吐息と共に艶のある声が俺の耳を犯す。
内太ももを弄る手つきはいやらしく、ついつい反応してしまいいい雰囲気になったが…
「ちょっとー、早くしなさいよね! ルチルなんて涎垂らして待ってる…」
バタンと開いた扉の先にはストリンデが仁王立ちしており、朝から全裸で絡む三人をみて慌てて両手で顔を覆った。
「ストリンデじゃない、おはよう。 あなたも一緒に…する?」
「ば、馬鹿なこと言わないで! それじゃあ早く済ませなさいよね!」
フララが挑発するようにリンデを誘ったが、彼女はそう吐き捨て走り去ってしまった。
「ウブな子ねぇ… 後一押しだと思うんだけど」
「そうかな? 今ので更に遠のいた気がするんだが?!」
「…頑張って。」
リンデとの関係進展はまだまだかかりそうだ…
「お、お兄ちゃんぐるぢい!! 助けて!」
エクスカリブトンに包まり苦しそうにゴロゴロ転がるエメをみて、完全にそういう雰囲気ではなくなってしまった三人はエメを救出して食堂へと向かった。
◇ ◇ ◇ ◇
朝食を終え1人でジルと出会ったしだれ桜の木の下にに行くと、ニコニコ笑顔を浮かべ重さでしなった桜の木の枝と戯れていた彼女がこちらに気付き、慌てて腕を組んで険しい表情を作る可愛い姿が目に入り思わず顔が綻ぶ。
「ククク、我を待たせるとは万死に値するぞ!」
「いや時間ぴったりなんだが…」
「じ、時間などはどうでも良い!」
顔をプイッと背けるとツインテールが揺れ髪飾りの鈴が鳴る
「どうでもいいんかい…」
キャラ作りが甘いのはご愛嬌だ
「こ、細かい事を言う男はモテないよ?」
「はいはい、それじゃあ行こうか」
「ちょっと待って」
【眷属召喚】でベリルを呼び出そうとしたのを遮った彼女は、鈴のついたリボンを解き、桜の木の枝にくくり付けた。
風が枝を揺らすと優しい鈴の音が聞こえる。
「何したの?」
「ククク、あれは聖なる金属で作られた鈴、その鈴の音は全ての悪を打ち払い、闇夜に紛れる不浄の物を浄化する。そして我の願いを成就させる力を…」
悪役っぽいのに聖なる金属を扱うってどうなん?
「要するに何かの願掛けね」
解いた一方のツインテールを再びリボンでくくりながらおかしな事を言い出したので、全て言い終わる前に言葉を被せた
「…最後まで言わせてもくれないとは… 貴方は変わってしまったのね… でもだからこそ…」
「【眷属召喚】」
また何か始まりそうだったのでそそくさとベリルを召喚する。
炎の渦が巨大な鳥になりキラキラ光る粒子を散らしながらベリルが現れた。
「おぉ主か、今日も行くんだな。そこの女は新しい主の嫁か? 毎度毎度違う女を連れているな」
ジルは人差し指を俺の眉間に向けニヤリと笑う
「流石によくわかっている、私は彼の魂の伴侶! 彼こそが私をこの世に留まらせ、縛り付ける、時の鎖の所有者!」
眉間を差す指先がウザすぎるのでとりあえず払い除ける。 先端恐怖症なんだよ俺は。
「魂の伴侶に何て小さい嫌がらせするんだよ。てかいつからジルは俺の伴侶になった」
「最初に会った時から!」
「くっ!! あの奇妙な連帯感が生まれてしまった時か… ていうか本当に付いてくるの?」
「私に全て任せなさい!」
「また変わった女だな。 それでは背中に乗るといい」
俺達は屈んだベリルに飛び移る。ジルを見ると腕を組んで仁王立ちしていた。
普通こんな大きな鳥が出てきた時点で結構びっくりすると思うけど、ジルは全く物怖じしなかったな。
かなりの実力者なのだろうか?
という事はあの鈴も敵にあえて位置を知らせて戦いを楽しむ某隊長並みのバトルジャンキーなのかもしれない。
そう思うと風を切って飛ぶベリルの背中の前の方で、両手を広げて風と戯れる後ろ姿は心なしか頼り甲斐がある様に見えなくもない。
「主よ見えてきたぞ!」
無数の雲を見送った先に黄金に輝く龍の後ろ姿を捉えたので【蒼炎弾】を撃つ。
これがいつの間にか出来た鬼ごっこ開始の合図だ
「Oh man!!なんや今日も遊んでくれるん? ほなスタートやな!! とりあえずアメチャンないないしとき!」
空気弾をいくつか飛ばしてくるが何度も見ているのでベリルも楽々避ける。
これはただ牽制だ、当たりどころが悪ければ即死するのだが…
「よし、じゃあショウ君! 後は任せたよ! 私はゴリゴリのサポートメインの後衛だから!」
そう言って背中をポンと叩き俺の後ろへと隠れた。
「私に全部任せろってなんだったんだ?!」
「だからちゃんとサポートするから! 永劫の時を生きる時の番人と契約せし者の名において命ずる、時の流れに抗いしその力、我に貸し与えたまえ!時魔術【タイムディストーション】」
俺達の頭上と黄龍の頭上に歪んだ懐中時計が出現し、時を刻む秒針の速度が向こうは遅く、こちらは早い。
懐中時計の早さに俺達の動きの早さも連動しているようで、動きの鈍くなった黄龍にすぐ追いついた
「時魔術凄いな! ってか詠唱が聞き取れたんだけどそれって魔術言語じゃないの?」
「お、オリジナル…」
顔を真っ赤にして俺のローブを掴むジルはとても可愛い。 恥ずかしいならやらなきゃいいのに…
「ん? なんやお嬢ちゃんあいつの契約者やったんかいな。 応援した方が…ええんかな? がんばりや。」
黄龍はジルの何かを知っているようで、ジルもコクリと深く頷いた。
時魔術のお陰で容易に刀が届く距離まで接近しており、チャンスを逃すまいと左側面に回ったベリルの上から接近する度にここぞとばかりに仕掛けるが、黄龍の周りに渦巻く見えない風によって斬撃や魔法が当たる直前に弾かれる
くそっ!いいとこまで行ってもいつもこれだ!
そもそも無理ゲーじゃねぇかよ!
「ひゃー体が上手いこと動かへんからヒヤヒヤやな! 左側は急いでる人用やから、空けとき!! ほなさいなら」
黄龍が巻き起こした風によりベリルの上から2人共吹き飛ばされたがベリルが上手いことキャッチした。
もう何度も経験している事なの対処が早い。
「ショウ君、一気に行こう! 私が時魔術で動きを止めるから、ショウ君達はあの風の結界を突きやぶれるような強力な攻撃をして! タイミングは一瞬だけだよ!」
「「了解!!」」
俺達と黄龍の頭上に現れた歪んだ時計はいまだ消えておらず追いつくのは難しい事ではない。
縦横無尽に空を駆ける黄龍に遠距離攻撃を仕掛けながらタイミングを伺う
「我願うは悠久の時。時の牢獄で永劫の時に抗い嘆く者よ今こそその力を解き放ちたまえ! 時魔術【タイムプリズン】」
ジルが真っ赤な顔で唱えなくていい詠唱を終え、時魔術が発動すると、黄龍の頭上の歪んだ懐中時計の秒針が時を刻もうと針を動かすが何かの力に押し戻されており、連動するように黄龍も身動きがとれなくなっていた。
「ショウ君早く! あんな巨大な力を長く止めていられない…」
苦しそうな表情で謎のポーズをとりながらそう言う彼女はふざけている様にしか見えないが、SSS級魔物を一瞬止めただけで間違いなく今日のMVPだ
「無駄にはしない!」
ベリルの背中に手を置き魔力を送ると、2人で練り合わせて作った蒼白い神聖な炎がベルリを包み、飛行速度が加速して行く。
その速さは凄まじく他人目にはただの蒼白い光の筋にしか見えない。
距離を取って更に加速しながら巨大な黄龍の胴体へ直進する。
狙うは一点突破だ、ベリルの突進力に賭ける!
ベリルにギリギリまで魔力を送り続け、準備が出来たので変なポーズを取っているジルを抱えて空に飛び出し離脱。
静かに燃え滾る蒼い神聖な炎を纏ったベリルが、光の筋を作りながら槍の様に黄龍目掛けて飛んで行き、風の結界にぶつかると蒼い火柱を高く上がるが貫通力が凄まじく、結界を突き破り黄龍の体を炎で焼きながら貫通すると時魔術がとけた様で穴の空いた体をみて驚いた。
空中に離脱した俺達は胴体を貫通して出てきたベリルの上に上手い事着地する。
「hey hey hey!! マジ?! 自分ら凄いな!! 鱗まで突き破ってますやん?! ほな約束通り… の前にそのお嬢ちゃんヤバイんと違う?」
言われるまで気付かなかったが後ろに居たジルは口から大量に血を吐き出しており今にも倒れそうだった
「ジル!!」
「だ…いじょ…う…」
ニコッと笑って個性的なポーズを取ろうとするが、意識を保つのもやっとなのだろう、彼女が力なく前に倒れる所を受け止める。
「時魔術は本来魔力の扱いが苦手な人間が使えるもんやない、脳が焼き切れてもおかしないねん。大幅に命削ったんやろな。」
黄龍のジルを見る目は優しげだ
「なんでそんな事…」
満足気に笑う彼女の行動は不可解過ぎる、いくら元の世界に戻りたいと言っても命を大幅に削る必要はあるんだろうか?
「それは…まぁ野暮はやめとくわ、知りたいなら自分で聞くか、覗いてみたらええんと違う?」
確かに記憶を探れば…俺は弱々しく今にも意識が飛びそうな彼女の頭に手を置いて魔法を発動しようとするが、彼女が俺の手を弱々しく掴んで口を開く
「ショウ君、まだ…だめ… 彼女のスマホを見るのは…ケンカの原因になるん…だよ?」
それな! 危うく人のプライバシーを侵さずにホッとしていると、ジルは突拍子も無い事を顔を赤らめていう。
「今日頑張ったご褒美に…チューしてくれる?」
「え?!」
「お願い…それともこんな血塗れの唇じゃ…嫌かな?」
吐き出した血で口がB級ゾンビ映画の様な仕上がりになっている。
「嫌じゃないけど…」
「大丈夫…歯槽膿漏じゃないよ?」
「そんな血出る歯槽膿漏あるかよ…そうじゃなくて大事な人居るんでしょ?いいの?」
「うん、ショウ君なら大丈夫。さぁ今こそ真紅の口付を」
無理やり作ったキャラ設定に振り回れているジルに苦笑いしながら、ほっぺにキスをする。
恋人ではないので唇にするのは気が引けるからだ。
「やっぱりそうだよね」
瞑っていた目を開け、ジルはニコッと笑い意識を手放した。
「一つ教えてください、こっちの時間の流れと、僕の世界の時間の流れは同じですか?」
「一緒やで!」
「やっぱり」
ジルの見た目は同い年か少し上だ、18年前の日本にスマホなんて物はまだないはずだ。
ジルは…転生者じゃない。
「お、おはようございます! 朝食の用意が出来ましたので食堂までお越しください。」
カチリと纏めた頭をサッと下げてクルリと背を向け出て行いく。
耳が赤かった辺りあの唇の感触はイレスティだな。
彼女は自分から積極的にする方ではないので、かなり恥ずかしかったのだろう。
イレスティの声に反応して、ルーやフララ、エメが目を覚ます。
「うぅ、寒いよお兄ちゃん! 夜よりも深き闇を浄化せし聖布エクスカリブトンはこの私が全て頂く!!」
エメが俺達の上をゴロゴロと転がりながらエクスカリブトンをその身に巻きつけ奪って行くが、勢いが良かったせいでベットから転げ落ち、勢いそのままで扉へ激突した。
「…寒い。 エメがジルに変な影響を受けてる。」
ルーがベットに広がった綺麗な長い銀髪を見慣れた仕草で片方に寄せ、唇を合わせて来るのが朝の到来を実感できる瞬間。
「昨日は凄かったわね、私があんなになるなんて思ってなかった。 ねぇもう一回する?」
反対側からフララの甘い吐息と共に艶のある声が俺の耳を犯す。
内太ももを弄る手つきはいやらしく、ついつい反応してしまいいい雰囲気になったが…
「ちょっとー、早くしなさいよね! ルチルなんて涎垂らして待ってる…」
バタンと開いた扉の先にはストリンデが仁王立ちしており、朝から全裸で絡む三人をみて慌てて両手で顔を覆った。
「ストリンデじゃない、おはよう。 あなたも一緒に…する?」
「ば、馬鹿なこと言わないで! それじゃあ早く済ませなさいよね!」
フララが挑発するようにリンデを誘ったが、彼女はそう吐き捨て走り去ってしまった。
「ウブな子ねぇ… 後一押しだと思うんだけど」
「そうかな? 今ので更に遠のいた気がするんだが?!」
「…頑張って。」
リンデとの関係進展はまだまだかかりそうだ…
「お、お兄ちゃんぐるぢい!! 助けて!」
エクスカリブトンに包まり苦しそうにゴロゴロ転がるエメをみて、完全にそういう雰囲気ではなくなってしまった三人はエメを救出して食堂へと向かった。
◇ ◇ ◇ ◇
朝食を終え1人でジルと出会ったしだれ桜の木の下にに行くと、ニコニコ笑顔を浮かべ重さでしなった桜の木の枝と戯れていた彼女がこちらに気付き、慌てて腕を組んで険しい表情を作る可愛い姿が目に入り思わず顔が綻ぶ。
「ククク、我を待たせるとは万死に値するぞ!」
「いや時間ぴったりなんだが…」
「じ、時間などはどうでも良い!」
顔をプイッと背けるとツインテールが揺れ髪飾りの鈴が鳴る
「どうでもいいんかい…」
キャラ作りが甘いのはご愛嬌だ
「こ、細かい事を言う男はモテないよ?」
「はいはい、それじゃあ行こうか」
「ちょっと待って」
【眷属召喚】でベリルを呼び出そうとしたのを遮った彼女は、鈴のついたリボンを解き、桜の木の枝にくくり付けた。
風が枝を揺らすと優しい鈴の音が聞こえる。
「何したの?」
「ククク、あれは聖なる金属で作られた鈴、その鈴の音は全ての悪を打ち払い、闇夜に紛れる不浄の物を浄化する。そして我の願いを成就させる力を…」
悪役っぽいのに聖なる金属を扱うってどうなん?
「要するに何かの願掛けね」
解いた一方のツインテールを再びリボンでくくりながらおかしな事を言い出したので、全て言い終わる前に言葉を被せた
「…最後まで言わせてもくれないとは… 貴方は変わってしまったのね… でもだからこそ…」
「【眷属召喚】」
また何か始まりそうだったのでそそくさとベリルを召喚する。
炎の渦が巨大な鳥になりキラキラ光る粒子を散らしながらベリルが現れた。
「おぉ主か、今日も行くんだな。そこの女は新しい主の嫁か? 毎度毎度違う女を連れているな」
ジルは人差し指を俺の眉間に向けニヤリと笑う
「流石によくわかっている、私は彼の魂の伴侶! 彼こそが私をこの世に留まらせ、縛り付ける、時の鎖の所有者!」
眉間を差す指先がウザすぎるのでとりあえず払い除ける。 先端恐怖症なんだよ俺は。
「魂の伴侶に何て小さい嫌がらせするんだよ。てかいつからジルは俺の伴侶になった」
「最初に会った時から!」
「くっ!! あの奇妙な連帯感が生まれてしまった時か… ていうか本当に付いてくるの?」
「私に全て任せなさい!」
「また変わった女だな。 それでは背中に乗るといい」
俺達は屈んだベリルに飛び移る。ジルを見ると腕を組んで仁王立ちしていた。
普通こんな大きな鳥が出てきた時点で結構びっくりすると思うけど、ジルは全く物怖じしなかったな。
かなりの実力者なのだろうか?
という事はあの鈴も敵にあえて位置を知らせて戦いを楽しむ某隊長並みのバトルジャンキーなのかもしれない。
そう思うと風を切って飛ぶベリルの背中の前の方で、両手を広げて風と戯れる後ろ姿は心なしか頼り甲斐がある様に見えなくもない。
「主よ見えてきたぞ!」
無数の雲を見送った先に黄金に輝く龍の後ろ姿を捉えたので【蒼炎弾】を撃つ。
これがいつの間にか出来た鬼ごっこ開始の合図だ
「Oh man!!なんや今日も遊んでくれるん? ほなスタートやな!! とりあえずアメチャンないないしとき!」
空気弾をいくつか飛ばしてくるが何度も見ているのでベリルも楽々避ける。
これはただ牽制だ、当たりどころが悪ければ即死するのだが…
「よし、じゃあショウ君! 後は任せたよ! 私はゴリゴリのサポートメインの後衛だから!」
そう言って背中をポンと叩き俺の後ろへと隠れた。
「私に全部任せろってなんだったんだ?!」
「だからちゃんとサポートするから! 永劫の時を生きる時の番人と契約せし者の名において命ずる、時の流れに抗いしその力、我に貸し与えたまえ!時魔術【タイムディストーション】」
俺達の頭上と黄龍の頭上に歪んだ懐中時計が出現し、時を刻む秒針の速度が向こうは遅く、こちらは早い。
懐中時計の早さに俺達の動きの早さも連動しているようで、動きの鈍くなった黄龍にすぐ追いついた
「時魔術凄いな! ってか詠唱が聞き取れたんだけどそれって魔術言語じゃないの?」
「お、オリジナル…」
顔を真っ赤にして俺のローブを掴むジルはとても可愛い。 恥ずかしいならやらなきゃいいのに…
「ん? なんやお嬢ちゃんあいつの契約者やったんかいな。 応援した方が…ええんかな? がんばりや。」
黄龍はジルの何かを知っているようで、ジルもコクリと深く頷いた。
時魔術のお陰で容易に刀が届く距離まで接近しており、チャンスを逃すまいと左側面に回ったベリルの上から接近する度にここぞとばかりに仕掛けるが、黄龍の周りに渦巻く見えない風によって斬撃や魔法が当たる直前に弾かれる
くそっ!いいとこまで行ってもいつもこれだ!
そもそも無理ゲーじゃねぇかよ!
「ひゃー体が上手いこと動かへんからヒヤヒヤやな! 左側は急いでる人用やから、空けとき!! ほなさいなら」
黄龍が巻き起こした風によりベリルの上から2人共吹き飛ばされたがベリルが上手いことキャッチした。
もう何度も経験している事なの対処が早い。
「ショウ君、一気に行こう! 私が時魔術で動きを止めるから、ショウ君達はあの風の結界を突きやぶれるような強力な攻撃をして! タイミングは一瞬だけだよ!」
「「了解!!」」
俺達と黄龍の頭上に現れた歪んだ時計はいまだ消えておらず追いつくのは難しい事ではない。
縦横無尽に空を駆ける黄龍に遠距離攻撃を仕掛けながらタイミングを伺う
「我願うは悠久の時。時の牢獄で永劫の時に抗い嘆く者よ今こそその力を解き放ちたまえ! 時魔術【タイムプリズン】」
ジルが真っ赤な顔で唱えなくていい詠唱を終え、時魔術が発動すると、黄龍の頭上の歪んだ懐中時計の秒針が時を刻もうと針を動かすが何かの力に押し戻されており、連動するように黄龍も身動きがとれなくなっていた。
「ショウ君早く! あんな巨大な力を長く止めていられない…」
苦しそうな表情で謎のポーズをとりながらそう言う彼女はふざけている様にしか見えないが、SSS級魔物を一瞬止めただけで間違いなく今日のMVPだ
「無駄にはしない!」
ベリルの背中に手を置き魔力を送ると、2人で練り合わせて作った蒼白い神聖な炎がベルリを包み、飛行速度が加速して行く。
その速さは凄まじく他人目にはただの蒼白い光の筋にしか見えない。
距離を取って更に加速しながら巨大な黄龍の胴体へ直進する。
狙うは一点突破だ、ベリルの突進力に賭ける!
ベリルにギリギリまで魔力を送り続け、準備が出来たので変なポーズを取っているジルを抱えて空に飛び出し離脱。
静かに燃え滾る蒼い神聖な炎を纏ったベリルが、光の筋を作りながら槍の様に黄龍目掛けて飛んで行き、風の結界にぶつかると蒼い火柱を高く上がるが貫通力が凄まじく、結界を突き破り黄龍の体を炎で焼きながら貫通すると時魔術がとけた様で穴の空いた体をみて驚いた。
空中に離脱した俺達は胴体を貫通して出てきたベリルの上に上手い事着地する。
「hey hey hey!! マジ?! 自分ら凄いな!! 鱗まで突き破ってますやん?! ほな約束通り… の前にそのお嬢ちゃんヤバイんと違う?」
言われるまで気付かなかったが後ろに居たジルは口から大量に血を吐き出しており今にも倒れそうだった
「ジル!!」
「だ…いじょ…う…」
ニコッと笑って個性的なポーズを取ろうとするが、意識を保つのもやっとなのだろう、彼女が力なく前に倒れる所を受け止める。
「時魔術は本来魔力の扱いが苦手な人間が使えるもんやない、脳が焼き切れてもおかしないねん。大幅に命削ったんやろな。」
黄龍のジルを見る目は優しげだ
「なんでそんな事…」
満足気に笑う彼女の行動は不可解過ぎる、いくら元の世界に戻りたいと言っても命を大幅に削る必要はあるんだろうか?
「それは…まぁ野暮はやめとくわ、知りたいなら自分で聞くか、覗いてみたらええんと違う?」
確かに記憶を探れば…俺は弱々しく今にも意識が飛びそうな彼女の頭に手を置いて魔法を発動しようとするが、彼女が俺の手を弱々しく掴んで口を開く
「ショウ君、まだ…だめ… 彼女のスマホを見るのは…ケンカの原因になるん…だよ?」
それな! 危うく人のプライバシーを侵さずにホッとしていると、ジルは突拍子も無い事を顔を赤らめていう。
「今日頑張ったご褒美に…チューしてくれる?」
「え?!」
「お願い…それともこんな血塗れの唇じゃ…嫌かな?」
吐き出した血で口がB級ゾンビ映画の様な仕上がりになっている。
「嫌じゃないけど…」
「大丈夫…歯槽膿漏じゃないよ?」
「そんな血出る歯槽膿漏あるかよ…そうじゃなくて大事な人居るんでしょ?いいの?」
「うん、ショウ君なら大丈夫。さぁ今こそ真紅の口付を」
無理やり作ったキャラ設定に振り回れているジルに苦笑いしながら、ほっぺにキスをする。
恋人ではないので唇にするのは気が引けるからだ。
「やっぱりそうだよね」
瞑っていた目を開け、ジルはニコッと笑い意識を手放した。
「一つ教えてください、こっちの時間の流れと、僕の世界の時間の流れは同じですか?」
「一緒やで!」
「やっぱり」
ジルの見た目は同い年か少し上だ、18年前の日本にスマホなんて物はまだないはずだ。
ジルは…転生者じゃない。
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