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PARK What do you wanna do.
【2】
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ベンチから立ち上がった颯は、ズボンのテントをそれとなく直した。バスケットコートを一瞥したら、少女たちは何事もなかったように黄色い声を張って遊んでいる。
「ちぇ。おもしろくねえ」
颯はリュックをベンチに置いたまま、まな美が帰っていったほうへ歩きだした。
腕を頭の上で伸ばしたり、腰をひねったり、背中のうしろで両手を組んで肩甲骨を伸ばしたりしながら、グラウンドの外周を歩くことにしたようであった。
遊具で子どもの面倒をみている母親に自然と目がいった。ジーンズのパツパツの尻。主婦然とした日除けのハットとその仕草に、ふくらんだままのテントがますます反応してしまい、ポケットにつっこんだ手でパンツ越しに肉径をさすっていた。
駐車場に停めてある車もだいぶ少なくなってきていた。グラウンドに西日がさし込んできている。いま外周を歩いているのは颯ただひとりだけで、バスケットコートの一角にさしかかった。
少女たちは変わらず黄色い声を張りつつも、颯の姿を少なくとも二度は見遣った。悪気はないようだが、屈託のない笑顔がむしろ颯の癇に障った。少女たちの横を通り過ぎるときに、颯は一人ひとりの顔をはっきりと視てガンをつけた。少女たちはとたんに小声となってバスケをつづけた。
颯は、休憩所のベンチに置いたままのリュックを見て一度は立ち止まったが、またすぐに歩きだした。遊具を通り過ぎるときには、やはり母親のでかい尻に目がいってしまう。先ほどとおなじように、ポケットにつっこんだ手で肉径を触った。依然としてギンギンのままであった。
バスケットコートにつづく直線にさしかかると、じゃあねー、バイバイー、と声が聞こえてきた。少女のうち二人が手をおおきく振っていて、残った一番背の高い少女が胸の前で小さく手をあげている。
少女二人が、颯のほうに向かって歩いてきた。二人とも肩からカバンをさげていて、くっきりと小さなパイスラができていた。颯がさっきガンをつけたことなどなかったみたいに、二人とも会話を止めることなく通り過ぎていく。
むしろ意識していたのは颯のほうで、罰が悪そうに歩き方がぎこちない。近くで見た少女たちが可愛かったせいもあった。小麦色に日焼けした肌に、瞳がエキゾチックに輝いていた。
少女たちとすれ違ってから下を向いて歩いていた颯に、あっ! といった声がバスケットコートから聞こえてきた。
慌てて顔をあげた颯のほうにバスケットボールが弾んで飛んでくる。なんとなくステップを踏んでキャッチしたところが、ちょうどスリーポイントの白線の上であった。颯は二三ボールを突いてからシュートを放った。が、カッコつけたわりにそのシュートはバスケットボードの裏に飛んでいってしまう。
「ああ!」
といって、少女が走って取りにいった。
「ごめんごめん」
と颯。パスしてってジェスチャーでもう一度ボールをねだった。少女は、はにかんで颯にボールをパスした。
さっきとおなじように、二三ボールをアスファルトに突いてからスリーポイントシュート。今度はキマッた! しかもバスケットボードに触れずリングにダイレクトで。すると少女から、
「おお!」
と小さな声があがった。ゴール下までボールを取りにいった颯が、少女にパスをした。躊躇する少女に向かって、
「いいからやってやって!」
とジェスチャーしながら颯がいった。
「あたしバスケ部じゃないし」
といいながら、少女がゴールに向かって構えた。膝を落としてから、伸びあがってジャンプ。女子らしく両手でスリーポイントシュート。ボードに当たったボールは外れて、颯のほうに向かっておおきく弾んだ。
「もう一回!」
そういって、颯がボールをパスする。
少女は今度はなにもいわず、ゴールに向かって構えた。そしてスリーポイントシュート。また外れた。ボールを取りにいった颯が、
「もういっちょ!」
とまたパスをだした。少女はとうとう真剣な目になって、もう一度スリーポイントシュートをした。キマッた!
「よし!」
颯が声をあげてゴール下にボールを取りにいく。それからまた少女にパスをだした。
「ええ!」
と、少女はボールを持ったっきり、
「疲れたし」
といってうつむいた。
颯のほうも息を弾ませて汗を掻いていた。
「休憩する?」
と颯がいうと、うん、と少女は返事をした。
バスケットゴールの裏にちょうどいい木陰があった。少女のリュックもそこに置いてあったから、いつもここで休んでいるらしい。
颯は、草の上に坐った。後ろからついてきた少女も、颯の傍でしゃがみこんだ。無防備なうんこ坐りの膝のうえで両手を突いている。デニムのショートパンツから、水玉模様のような下着が見えてしまっていた。颯は横目をやって、上から下まで少女をそれとなく見た。
真っ黒に日焼けしているのは少女の友だちと一緒であった。髪型はショートボブ。英字にスパンコールがほどこされたTシャツに、素足にはラメのコルクサンダルを履いている。足の爪がけっこう伸びていて、どこか少女っぽい隙のようなものが感じられた。
「ガム食べる?」
というと、日焼けした顔に鮮やかな瞳を颯に向けて、ありがとう、とちゃんとお礼もいえる素直なところがあった。颯も一緒になってガムを食べた。
「高校にいったらバスケ部にはいるの?」
と颯が訊くと、
「まだわかんないです。中学はいったばっかだし」
と真っ白い歯をみせて笑った。
と、少女はおもむろにキーホルダーがじゃらじゃら付いたリュックからリップをとって、慣れた手つきで唇に塗りはじめた。
ハッとするような大人びた顔つきだったから、颯は慌てて視線をそらした。それからもう一度横目をやった。眉が太くて日焼けしているせいか、この少女も友だちと一緒で、どこかエキゾチックな気がしてならない。
「……そうなんだ。もっと大人にみえた」
と颯がいったら、
「ほんとですかー?」
とピンク色の歯茎がみえるくらいニコッと笑った。うん、と相づちをうった颯が、
「美人だと思う」
と、少女を褒めた。
「かわいいっていわれるより嬉しいかも」
といった少女がパッと顔色を明るくして、どこで覚えたのか、男女の会話でさえ、ありがとうございます、なんて返しすらいってみせた。そうなんだぁ、と颯が相づちをうつと、少女は照れて、うつむいったきり顔をあげられなくなった。
颯は、この少女の横顔を見下ろす形でちゃんと見てみた。さっき美人だなんていってみたけど、頬っぺがパンパンでかわいらしい。それでいて、目鼻立ちの線という線がとても細い。二重だけれど切れ長の目はどこか眠たそうで、だけれど瞳がキラキラ輝いている。と、颯はまたドキっとさせられてしまう。どうやら少女はブラをしていないらしかった。うつむいた少女が前かがみになると、ふくらみかけた小さな胸が見えてしまった。
颯の肉径がまたむくむくと起き上がってきて、ズボンのなかでおおきくなってきてしまった。顔をあげた颯は、ウォーキングをしているおじさんと目が合ってすぐにそらした。
グラウンドの外周には、まばらに人影ができていた。そして、颯と少女の会話がピタリととまってしまう。少女はうつむいたまま草をちぎったりしている。
「あっ、四葉のクローバーだ」
と少女がつぶやいた。颯はなにかいおうとしたが、言葉がでてこない。少女がうつむく傍ら、苦笑いを浮かべるのがせいいっぱいであった。
「おにいちゃん名前なんていうの?」
と訊かれて、慌てた颯がどもりながら名乗った。
「あたしの名前は聞かないの?」
といわれれば、これまたどもって訊く始末である。
「あたし、乃蒼っていうの」
「どういう字書くの?」
と訊き返したら、
「説明するのむずかしい」
といって、名前の書かれたリュックを見せてくれた。
「いい名前だね」
と颯がいったら、ありがとうございます、と乃蒼は、今度ばかりは他人行儀になってお礼をいった。
どうやら年上の颯のほうが押されている。颯も乃蒼を真似て草をちぎりだした。一方の乃蒼は、草をちぎるのをやめて顔をあげた。
「おにいちゃんスマホ持ってる?」
「あるよ」
「おすすめの曲ある?」
「親父の影響で昔のロックしか聴かないかも」
と答えると、
「ああ! あたしも昔の曲好きなんです!」
と、みるみる顔色を明るくして、教えて! 教えて! と颯にねだった。
颯は、ちょっと待ってね、といいながら左ポケットからスマホをだして操作しだした。しばらくして、はい、といって乃蒼にスマホを見せた。
「きゃっ」
と乃蒼から悲鳴がでた。なに? とスマホを見た颯が、ごめん間違えた、といって苦笑いを浮かべる。ほんとですか~、と上目づかいでいってくる乃蒼に、
「みたことない?」
そう颯がいうと、乃蒼はコクン、とうなずいた。
親はパソコン持ってないの? といいかけた颯をさえぎって、やめてください……、と乃蒼が恥ずかしそうにいった。スマホから女のあえぎ声が、あんあん、聞こえていた。
さっきのまな美とおなじように、体一個ぶん乃蒼にも距離を置かれてしまう。それからまた、会話がとぎれてしまった。颯はスマホを操作して慌てて曲を探しだした。―と、
「さっきの動画って……」
乃蒼のほうからそう切り出してきた。
「スマホ持ってないの?」
と颯が尋ねると、乃蒼がうなずいた。さっきいえなかった、親はパソコン持ってないの? とそうつづけて尋ねたら、
「アクセスしようとしてもみれない」
と乃蒼がいった。どうやら親にそういう設定にされているみたいだ。
「興味はあるんだ?」
といえば、乃蒼は日焼けした顔を赤くした。
「……みてみる?」
颯が、うつむいたままの顔を覗き込んで尋ねると、乃蒼が小さくうなずいた。
颯は、乃蒼と年齢がおなじくらいにみえる少女のやつで、スマホから投稿された動画をみせてやった。乃蒼はうんこ坐りのまま颯に近づいて、
「反射してよくみえないね」
とつぶやいた。だから、
「もっと近づいて」
と颯がいって、乃蒼がそうした。乃蒼の頭が、颯の顔の真下にまできた。
「少しみやすくなったでしょ」
「でも画面ちっちゃくてよくみえない」
そういいつつも、これみてみたい、次はこれ、アレをだすとこみたい、と指をさして次々に動画を再生していった。
スマホを食い入るように見る乃蒼のTシャツから、胸の先までがはっきり見えた。乃蒼の髪から、お日様の香りがただよってくる。颯の腕には、乃蒼の鼻息がしきりにかかっていた。その鼻息がだんだん荒くなってくるのが颯にもわかった。それに時折、乃蒼は、お尻をもじつかせてもいた。
「へえ。はじめてみた」
「想像と違った?」
「うーん。だいたい一緒」
「だいたいって。いつもどんな想像してるの?」
「ええ!? どんなってー?」
「俺が訊いてるんだけど」
と、いわれた乃蒼は、答えられなくなってもじもじしだした。
「じゃあ。質問変える」
と颯がいうと、うん、と乃蒼が小さく返事をする。
「乃蒼のオカズはなんなの?」
「おかずってなんですか?」
「……ええと。オナニーは知ってるの?」
といわれた乃蒼が、ええ!? とまた驚いてから、恥ずかしそうにうなずいた。
「シテるとき、どんなこと想像してる?」
「……わかんない……ただあそこをいじってるだけ……」
ほんと? と訊いてくる颯に、チラッと上目をやって、
「やだ……あたしなにいってんだろ……」
と、乃蒼が赤面した。いまの照れを隠すように、
「……おにいちゃん話しやすいから……」
と、乃蒼が言い訳した。
「ああ、俺妹いるからなー」
「いくつ?」
「君より二つ上かな」
「ああ……お姉さんだー」
と落胆する乃蒼をおもしろがって颯が、あはは、と笑った。
「兄弟は?」
「一人っ子です」
と答える乃蒼に、そうなんだ、と颯が相づちをうてば、
「だから、おにいちゃんに憧れがあります」
と、乃蒼が告白めいてあらたまった。そうなんだ、とまた颯が相づちをうてば、そこで会話がやんだ。
どちらともなく顔をあげた二人の目が合った。お互いその視線から外せなくなってしまう。そして―、颯と乃蒼は、キスをした。
キスから離れた乃蒼は、さっきまでとはまるで別人のように大人びていた。颯は、乃蒼の手を引いて立ち上がった。乃蒼はその手を引かれるまま、颯の後ろを黙って付いていった。
「ちぇ。おもしろくねえ」
颯はリュックをベンチに置いたまま、まな美が帰っていったほうへ歩きだした。
腕を頭の上で伸ばしたり、腰をひねったり、背中のうしろで両手を組んで肩甲骨を伸ばしたりしながら、グラウンドの外周を歩くことにしたようであった。
遊具で子どもの面倒をみている母親に自然と目がいった。ジーンズのパツパツの尻。主婦然とした日除けのハットとその仕草に、ふくらんだままのテントがますます反応してしまい、ポケットにつっこんだ手でパンツ越しに肉径をさすっていた。
駐車場に停めてある車もだいぶ少なくなってきていた。グラウンドに西日がさし込んできている。いま外周を歩いているのは颯ただひとりだけで、バスケットコートの一角にさしかかった。
少女たちは変わらず黄色い声を張りつつも、颯の姿を少なくとも二度は見遣った。悪気はないようだが、屈託のない笑顔がむしろ颯の癇に障った。少女たちの横を通り過ぎるときに、颯は一人ひとりの顔をはっきりと視てガンをつけた。少女たちはとたんに小声となってバスケをつづけた。
颯は、休憩所のベンチに置いたままのリュックを見て一度は立ち止まったが、またすぐに歩きだした。遊具を通り過ぎるときには、やはり母親のでかい尻に目がいってしまう。先ほどとおなじように、ポケットにつっこんだ手で肉径を触った。依然としてギンギンのままであった。
バスケットコートにつづく直線にさしかかると、じゃあねー、バイバイー、と声が聞こえてきた。少女のうち二人が手をおおきく振っていて、残った一番背の高い少女が胸の前で小さく手をあげている。
少女二人が、颯のほうに向かって歩いてきた。二人とも肩からカバンをさげていて、くっきりと小さなパイスラができていた。颯がさっきガンをつけたことなどなかったみたいに、二人とも会話を止めることなく通り過ぎていく。
むしろ意識していたのは颯のほうで、罰が悪そうに歩き方がぎこちない。近くで見た少女たちが可愛かったせいもあった。小麦色に日焼けした肌に、瞳がエキゾチックに輝いていた。
少女たちとすれ違ってから下を向いて歩いていた颯に、あっ! といった声がバスケットコートから聞こえてきた。
慌てて顔をあげた颯のほうにバスケットボールが弾んで飛んでくる。なんとなくステップを踏んでキャッチしたところが、ちょうどスリーポイントの白線の上であった。颯は二三ボールを突いてからシュートを放った。が、カッコつけたわりにそのシュートはバスケットボードの裏に飛んでいってしまう。
「ああ!」
といって、少女が走って取りにいった。
「ごめんごめん」
と颯。パスしてってジェスチャーでもう一度ボールをねだった。少女は、はにかんで颯にボールをパスした。
さっきとおなじように、二三ボールをアスファルトに突いてからスリーポイントシュート。今度はキマッた! しかもバスケットボードに触れずリングにダイレクトで。すると少女から、
「おお!」
と小さな声があがった。ゴール下までボールを取りにいった颯が、少女にパスをした。躊躇する少女に向かって、
「いいからやってやって!」
とジェスチャーしながら颯がいった。
「あたしバスケ部じゃないし」
といいながら、少女がゴールに向かって構えた。膝を落としてから、伸びあがってジャンプ。女子らしく両手でスリーポイントシュート。ボードに当たったボールは外れて、颯のほうに向かっておおきく弾んだ。
「もう一回!」
そういって、颯がボールをパスする。
少女は今度はなにもいわず、ゴールに向かって構えた。そしてスリーポイントシュート。また外れた。ボールを取りにいった颯が、
「もういっちょ!」
とまたパスをだした。少女はとうとう真剣な目になって、もう一度スリーポイントシュートをした。キマッた!
「よし!」
颯が声をあげてゴール下にボールを取りにいく。それからまた少女にパスをだした。
「ええ!」
と、少女はボールを持ったっきり、
「疲れたし」
といってうつむいた。
颯のほうも息を弾ませて汗を掻いていた。
「休憩する?」
と颯がいうと、うん、と少女は返事をした。
バスケットゴールの裏にちょうどいい木陰があった。少女のリュックもそこに置いてあったから、いつもここで休んでいるらしい。
颯は、草の上に坐った。後ろからついてきた少女も、颯の傍でしゃがみこんだ。無防備なうんこ坐りの膝のうえで両手を突いている。デニムのショートパンツから、水玉模様のような下着が見えてしまっていた。颯は横目をやって、上から下まで少女をそれとなく見た。
真っ黒に日焼けしているのは少女の友だちと一緒であった。髪型はショートボブ。英字にスパンコールがほどこされたTシャツに、素足にはラメのコルクサンダルを履いている。足の爪がけっこう伸びていて、どこか少女っぽい隙のようなものが感じられた。
「ガム食べる?」
というと、日焼けした顔に鮮やかな瞳を颯に向けて、ありがとう、とちゃんとお礼もいえる素直なところがあった。颯も一緒になってガムを食べた。
「高校にいったらバスケ部にはいるの?」
と颯が訊くと、
「まだわかんないです。中学はいったばっかだし」
と真っ白い歯をみせて笑った。
と、少女はおもむろにキーホルダーがじゃらじゃら付いたリュックからリップをとって、慣れた手つきで唇に塗りはじめた。
ハッとするような大人びた顔つきだったから、颯は慌てて視線をそらした。それからもう一度横目をやった。眉が太くて日焼けしているせいか、この少女も友だちと一緒で、どこかエキゾチックな気がしてならない。
「……そうなんだ。もっと大人にみえた」
と颯がいったら、
「ほんとですかー?」
とピンク色の歯茎がみえるくらいニコッと笑った。うん、と相づちをうった颯が、
「美人だと思う」
と、少女を褒めた。
「かわいいっていわれるより嬉しいかも」
といった少女がパッと顔色を明るくして、どこで覚えたのか、男女の会話でさえ、ありがとうございます、なんて返しすらいってみせた。そうなんだぁ、と颯が相づちをうつと、少女は照れて、うつむいったきり顔をあげられなくなった。
颯は、この少女の横顔を見下ろす形でちゃんと見てみた。さっき美人だなんていってみたけど、頬っぺがパンパンでかわいらしい。それでいて、目鼻立ちの線という線がとても細い。二重だけれど切れ長の目はどこか眠たそうで、だけれど瞳がキラキラ輝いている。と、颯はまたドキっとさせられてしまう。どうやら少女はブラをしていないらしかった。うつむいた少女が前かがみになると、ふくらみかけた小さな胸が見えてしまった。
颯の肉径がまたむくむくと起き上がってきて、ズボンのなかでおおきくなってきてしまった。顔をあげた颯は、ウォーキングをしているおじさんと目が合ってすぐにそらした。
グラウンドの外周には、まばらに人影ができていた。そして、颯と少女の会話がピタリととまってしまう。少女はうつむいたまま草をちぎったりしている。
「あっ、四葉のクローバーだ」
と少女がつぶやいた。颯はなにかいおうとしたが、言葉がでてこない。少女がうつむく傍ら、苦笑いを浮かべるのがせいいっぱいであった。
「おにいちゃん名前なんていうの?」
と訊かれて、慌てた颯がどもりながら名乗った。
「あたしの名前は聞かないの?」
といわれれば、これまたどもって訊く始末である。
「あたし、乃蒼っていうの」
「どういう字書くの?」
と訊き返したら、
「説明するのむずかしい」
といって、名前の書かれたリュックを見せてくれた。
「いい名前だね」
と颯がいったら、ありがとうございます、と乃蒼は、今度ばかりは他人行儀になってお礼をいった。
どうやら年上の颯のほうが押されている。颯も乃蒼を真似て草をちぎりだした。一方の乃蒼は、草をちぎるのをやめて顔をあげた。
「おにいちゃんスマホ持ってる?」
「あるよ」
「おすすめの曲ある?」
「親父の影響で昔のロックしか聴かないかも」
と答えると、
「ああ! あたしも昔の曲好きなんです!」
と、みるみる顔色を明るくして、教えて! 教えて! と颯にねだった。
颯は、ちょっと待ってね、といいながら左ポケットからスマホをだして操作しだした。しばらくして、はい、といって乃蒼にスマホを見せた。
「きゃっ」
と乃蒼から悲鳴がでた。なに? とスマホを見た颯が、ごめん間違えた、といって苦笑いを浮かべる。ほんとですか~、と上目づかいでいってくる乃蒼に、
「みたことない?」
そう颯がいうと、乃蒼はコクン、とうなずいた。
親はパソコン持ってないの? といいかけた颯をさえぎって、やめてください……、と乃蒼が恥ずかしそうにいった。スマホから女のあえぎ声が、あんあん、聞こえていた。
さっきのまな美とおなじように、体一個ぶん乃蒼にも距離を置かれてしまう。それからまた、会話がとぎれてしまった。颯はスマホを操作して慌てて曲を探しだした。―と、
「さっきの動画って……」
乃蒼のほうからそう切り出してきた。
「スマホ持ってないの?」
と颯が尋ねると、乃蒼がうなずいた。さっきいえなかった、親はパソコン持ってないの? とそうつづけて尋ねたら、
「アクセスしようとしてもみれない」
と乃蒼がいった。どうやら親にそういう設定にされているみたいだ。
「興味はあるんだ?」
といえば、乃蒼は日焼けした顔を赤くした。
「……みてみる?」
颯が、うつむいたままの顔を覗き込んで尋ねると、乃蒼が小さくうなずいた。
颯は、乃蒼と年齢がおなじくらいにみえる少女のやつで、スマホから投稿された動画をみせてやった。乃蒼はうんこ坐りのまま颯に近づいて、
「反射してよくみえないね」
とつぶやいた。だから、
「もっと近づいて」
と颯がいって、乃蒼がそうした。乃蒼の頭が、颯の顔の真下にまできた。
「少しみやすくなったでしょ」
「でも画面ちっちゃくてよくみえない」
そういいつつも、これみてみたい、次はこれ、アレをだすとこみたい、と指をさして次々に動画を再生していった。
スマホを食い入るように見る乃蒼のTシャツから、胸の先までがはっきり見えた。乃蒼の髪から、お日様の香りがただよってくる。颯の腕には、乃蒼の鼻息がしきりにかかっていた。その鼻息がだんだん荒くなってくるのが颯にもわかった。それに時折、乃蒼は、お尻をもじつかせてもいた。
「へえ。はじめてみた」
「想像と違った?」
「うーん。だいたい一緒」
「だいたいって。いつもどんな想像してるの?」
「ええ!? どんなってー?」
「俺が訊いてるんだけど」
と、いわれた乃蒼は、答えられなくなってもじもじしだした。
「じゃあ。質問変える」
と颯がいうと、うん、と乃蒼が小さく返事をする。
「乃蒼のオカズはなんなの?」
「おかずってなんですか?」
「……ええと。オナニーは知ってるの?」
といわれた乃蒼が、ええ!? とまた驚いてから、恥ずかしそうにうなずいた。
「シテるとき、どんなこと想像してる?」
「……わかんない……ただあそこをいじってるだけ……」
ほんと? と訊いてくる颯に、チラッと上目をやって、
「やだ……あたしなにいってんだろ……」
と、乃蒼が赤面した。いまの照れを隠すように、
「……おにいちゃん話しやすいから……」
と、乃蒼が言い訳した。
「ああ、俺妹いるからなー」
「いくつ?」
「君より二つ上かな」
「ああ……お姉さんだー」
と落胆する乃蒼をおもしろがって颯が、あはは、と笑った。
「兄弟は?」
「一人っ子です」
と答える乃蒼に、そうなんだ、と颯が相づちをうてば、
「だから、おにいちゃんに憧れがあります」
と、乃蒼が告白めいてあらたまった。そうなんだ、とまた颯が相づちをうてば、そこで会話がやんだ。
どちらともなく顔をあげた二人の目が合った。お互いその視線から外せなくなってしまう。そして―、颯と乃蒼は、キスをした。
キスから離れた乃蒼は、さっきまでとはまるで別人のように大人びていた。颯は、乃蒼の手を引いて立ち上がった。乃蒼はその手を引かれるまま、颯の後ろを黙って付いていった。
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