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息子の夜這い
【4】
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パジャマやブラははだけられ、その支えを失くした乳房が重みに耐え兼ね左右にこぼれていた。やめてっ! と身を捩ったつもりが躰が借り物みたいに気怠かった。
海斗がまるで古いシネマにでてくるような変態医師に思えた。意識のあるままオペを行い、恐怖にあえぐ患者を冷淡に見下ろしながら勃起していたというあれだ。
闇から迫り出してきた手が左右にこぼれていた乳房を拾いあげ、そして深い谷間が作られるまで寄せ集められ、おさまりきらない柔肌が仰け反った拍子に掌であふれた。乳房をこう揺らされると変態になった気がしてきてしまう。
「……ああ……落ち着く」
と暗闇から小さく声がした。
やめてェ!……と確かに言ったつもりの唇がぜんぜん動いていない。発した声は喉の奥のほう、食道というよりか腹のなかでちんまり木霊しただけであった。
おそらく頓服のせいだ。この類の処方を服用するとそれぞれの効き目分きっちり眠ることができる。そこを無理に起こされて頭と躰がバラバラになってしまっている感じ。
「……芙美子、芙美子……」
と暗闇から繰り返し名前を呼ばれ、頭がほとんど錯乱してきた。
都合のよいようにあらぬ記憶を作り出し、どれが現実なのか幻視なのかわからなくなっているのだ。酩酊しているせいか、抑えようのない焦燥感に魂がどこかへ引っ張られそうな気がしてきて心のなかで何度も自分の名前を呼んだ。
それを邪魔するかのようにまたぞろ暗闇から芙美子と名を呼ばれる。これがいけない。そう呼びかけられるたびそちら側へとこの魂が引っ張られていく。
やばい!……とどこか直感めいて、あたしの名前は芙美子……、あたしの名前は芙美子!……、とやっとの思いで動かした呂律がほとんど回っていなかった。
闇に包まれた空間が密室に思えてきてとても息苦しい。綺麗な空気を求めて深く息を吸い込んでみるのだが肺までまるで酸素がはいってこない。吸っても吸っても肺が埋まらない。吸えば吸うほど過呼吸になってきてしまい欠乏してくる。
いてもたってもいられず、いますぐ外に飛びだしたい衝動に駆られた。生まれて初めて自然を求めた気がした。月や空を流れる雲や星。森の緑や川のせせらぎとか。それと大地の温かみ、そして新鮮な空気を。
宇宙を意識しだしたとき、神さえ唱えることができた。熱心な信仰心があったわけではないし、誰に教わったわけでもないはずなのに、ひたすら切実な祈りを繰り返し捧げ、芙美子を励ました。
がしかし、そんな安らぎなどそうつづきやしなかった。
「……芙美子……芙美子……」
と闇からひと言囁かれれば、なにもかもが一変した。
自分の魂とは別口に何者かが躰に入ってこようとして芙美子は慌ててまた自分の名前を呼んだ。
昔観た映画で離人症という言葉をふと思い出していた。
やばい!……やばい!……やばい!……
誠実な祈りは儚く掻き消され、悪魔が傍でこちら側を見据えている気配がした。そいつはなにか焦げ臭くどこか酸いた匂いがした。
海斗がまるで古いシネマにでてくるような変態医師に思えた。意識のあるままオペを行い、恐怖にあえぐ患者を冷淡に見下ろしながら勃起していたというあれだ。
闇から迫り出してきた手が左右にこぼれていた乳房を拾いあげ、そして深い谷間が作られるまで寄せ集められ、おさまりきらない柔肌が仰け反った拍子に掌であふれた。乳房をこう揺らされると変態になった気がしてきてしまう。
「……ああ……落ち着く」
と暗闇から小さく声がした。
やめてェ!……と確かに言ったつもりの唇がぜんぜん動いていない。発した声は喉の奥のほう、食道というよりか腹のなかでちんまり木霊しただけであった。
おそらく頓服のせいだ。この類の処方を服用するとそれぞれの効き目分きっちり眠ることができる。そこを無理に起こされて頭と躰がバラバラになってしまっている感じ。
「……芙美子、芙美子……」
と暗闇から繰り返し名前を呼ばれ、頭がほとんど錯乱してきた。
都合のよいようにあらぬ記憶を作り出し、どれが現実なのか幻視なのかわからなくなっているのだ。酩酊しているせいか、抑えようのない焦燥感に魂がどこかへ引っ張られそうな気がしてきて心のなかで何度も自分の名前を呼んだ。
それを邪魔するかのようにまたぞろ暗闇から芙美子と名を呼ばれる。これがいけない。そう呼びかけられるたびそちら側へとこの魂が引っ張られていく。
やばい!……とどこか直感めいて、あたしの名前は芙美子……、あたしの名前は芙美子!……、とやっとの思いで動かした呂律がほとんど回っていなかった。
闇に包まれた空間が密室に思えてきてとても息苦しい。綺麗な空気を求めて深く息を吸い込んでみるのだが肺までまるで酸素がはいってこない。吸っても吸っても肺が埋まらない。吸えば吸うほど過呼吸になってきてしまい欠乏してくる。
いてもたってもいられず、いますぐ外に飛びだしたい衝動に駆られた。生まれて初めて自然を求めた気がした。月や空を流れる雲や星。森の緑や川のせせらぎとか。それと大地の温かみ、そして新鮮な空気を。
宇宙を意識しだしたとき、神さえ唱えることができた。熱心な信仰心があったわけではないし、誰に教わったわけでもないはずなのに、ひたすら切実な祈りを繰り返し捧げ、芙美子を励ました。
がしかし、そんな安らぎなどそうつづきやしなかった。
「……芙美子……芙美子……」
と闇からひと言囁かれれば、なにもかもが一変した。
自分の魂とは別口に何者かが躰に入ってこようとして芙美子は慌ててまた自分の名前を呼んだ。
昔観た映画で離人症という言葉をふと思い出していた。
やばい!……やばい!……やばい!……
誠実な祈りは儚く掻き消され、悪魔が傍でこちら側を見据えている気配がした。そいつはなにか焦げ臭くどこか酸いた匂いがした。
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