うちの息子はモンスター

息子の夜這い

【３】

　揉み合うなか男の声がまざまざと耳に聞こえてくる。彼が話す現地語は勝手に翻訳され、卑猥な日本語となって傷つけてきた。でっけえおっぱいだなー、だとかババアの垂れ乳さいこーだぜといった具合に。他にも口にすることすら不潔なそれ以上のことまで平気で言われた。


　芙美子、芙美子、芙美子、と何度でも名前を呼ばれる。なぜ名前を知っているのか不思議ではあったが考えることをほとんどやめていた。ただし、土足で家に踏みこまれたみたいな嫌悪感に耐え兼ね、叫ぶことだけはやめなかった。


「やめろぉー！　触るなーッ！」
　とうとう汚ならしい髭面まで深く胸に埋められ、男は犬のように鼻を鳴らして喜んだ。


　まるで匂いフェチのあの海斗みたいであった。その愛撫の仕方もすごく似ていて赤ん坊のように乳頭をきつく噛んでくるのだ。母乳こそでてはいないものの、男は喉を鳴らして口に溜まった生唾を絶えず嚥下えんかしている。


　ママぁ……おっぱいおいしいっ……いつしか囁かれる言葉はもうぜんぶ日本語であった。


　あの海斗の愛撫に慣れてきていたせいもあってか、こんなふうに変態チックにされてしまえば自然と吐息が甘くなってきた。やがてかすれた喘ぎすら洩れだし、一時だってジッとしてやいられず、腰つきまでが妖しくなってきてしまう。


「ああ……」
　どこか諦めにも似た気持で薄く瞼を開けた。辺りは闇に包まれていて真っ暗でなんにも見えない。


　なだらかな肩を震わせつつ男の顔にやっと両の手を伸ばした。その輪郭を確かめているうち少しずつ暗闇にも目が慣れてきた。この男の顔をもっとはっきり見たい。そう思ってたぐり寄せた。男の目玉だけが闇のなかで煌々としている。


　Who are you? と声にならず唇だけがそう動いていた気がする。


　ママン……ママン……と男のねこ撫で声だけがしだいに鮮明になってきた。


　誰？……海斗さん？……海斗さんなの？……胸の内側でそうつぶやいたとき、暗闇のなかにおよそ人間の顔とは思えないような形相をして情事に耽っている姿がこの目にはきと映った。


「はあっ!?……」
　それがあの海斗だとわかって芙美子は全身から根気が抜けた。悪夢が覚めてほんとうの悪魔がやってきたのだ。