うちの息子はモンスター

島村春穂

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息子の日課

【1】

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 芙美子はリビングで洗濯物をたたみながらまた掛時計を見た。さっきから一分おきに確認しているかもしれない。昼下がりを過ぎてからそのモダン風掛時計の長針が目に見えて早く感じられる。


 天気予報では午後から降水確率八〇パーセントのはずであった。だから汚らわしいと思いつつ、の洗濯物と自分の下着とを一緒に洗わざる得なかった。がしかし、外は雨雲ひとつない快晴。


「肝心なときに当たった試しないんだから」
 芙美子は自分の下着をひとりごねた。


 主婦然としたそうした下着類からは芙美子とおなじ淡い柔軟剤の香りが漂う。一方彼の下着は……。


 一瞥いちべつした芙美子はわずらう何かを振り払うみたく溜息をつき、それらをさっさとたたんだ。芙美子は改めて時計を見た。三時半――。そろそろ彼が帰ってくる頃。


 緊張の為か掌にぬらつく嫌な汗が滲んできた。……彼が怖い――。


(あたしのすべてを欲しがっている)
 動悸に似た荒さで呼吸が激しくなってきてしまう。


 普段通りに務めようとすればするほどしだいにおおきく息を乱し、とうとう肩先でするほどまでになってきた。


(……暑いわねこの部屋)
 首筋が汗ばむのを気にしながら唇を噛めば仄かに甘酸っぱい味がした。


 ふとトイレに行きたい衝動に襲われたとき――、玄関口で音が聞こえた。


(あっ、ああ……)
 その間の悪さに芙美子はひどく狼狽した。


 膝立ちのまま動けなくなってしまい、そのまま彼を迎えることに。


「ただいまー」


「ああ……おかえりなさい」
 芙美子のその顔を見て、


「どうしたのー?」
 と彼は軽く言った。


 確かに芙美子には警戒心とでもいうのか、潔癖というのかいずれにせよ探るような目で彼を見るところがあった。


「え、ええ……」
 と、まだどこか釈然としない芙美子に、


「洗濯物?」
 と彼がつづけて言う。


「ええ」


「手伝うよ」
 と彼はソファに鞄を放り投げ、でんと芙美子の傍に尻を搗いた。


「……もう終わるわよ……」


「いいからいいから」
 と彼はためらいなく芙美子の下着を掴んだ。



 ――いいからっ、と伸ばしかけた手が頼りなく胸元で丸まった。



 彼の馴れ馴れしい手付きったらない。一枚二枚とたたんでから、


「女の下着ってなんでこう伸びるんだろう」
 と嗤って芙美子のほうを覗きこんた。



 ――ぎくりとした。あわてて庇うように、



「さ、さあ……どうしてかしらね」
 と繕い笑いをする芙美子。


「なんでここにリボン付いてるのー?」


「知りませんっ」


「えーなんでー」
 芙美子は顔が赤くなるのが自分でもわかった。


 逃げ出したい気持はすぐに仕草となって現れ、下着をたたむ芙美子の手付きは早くなっていった。


「……夕飯の支度しなきゃね」


「まだだめ!」
 突然大声を出し、洗濯物を持って立ち上がろうとした芙美子の腕を彼が引いた。その拍子にたたんだ下着が床でバラバラっとなった。


「こらやめなさいっ」
 以前はこれでやめてくれたものだが、いまはそうはいかない。


 彼は芙美子の瞳に映っている自分の姿を覗きこむようにぶつかったままの視線を外そうとはしない。およそ睨み付ける芙美子など怖くないと言わんばかりに。芙美子は二三度まばたきをして、


(……くっ)
 と瞳を伏せた。


 それを待っていたかのような彼はぐいと芙美子を抱き寄せた。いやだいやだとかぶりを振り逃げ出したい芙美子の背中に覆いかぶさる。


 そして芙美子の襟首から挨拶なしで手を滑り込ませてきた。


「……んもうなにしてるの!」
 AVを観たことがないと言っていただけあって本能のまま揉んでくるから困ってしまう。


 彼の持つそうした獣性がたちまちに芙美子を昂奮させた。そのうえ、匂いフェチというだけあって彼はどことなく変態であった。


 と言っても……旦那ではない。夫の連れ子である息子の海斗かいとだ。高一になる義理の息子。


 おみぐるしい限りではあるが、この芙美子も満更ではない。今朝海斗に言われた通りの服装でこうして待っていたのだから。ノーブラの上にワンサイズ小さいノースリーブサマーニット。そして主婦らしからぬタイトミニ。


「海斗っ……」
 セーターの中で手が暴れる。


 掌におさまりきらない豊乳は指の隙間でいくえにも形を変えられ、ずしりとある量感を味わい深げに捏ねくられながら上下に揺すり立てられるのだ。時折、突起を弾くのは芙美子の高まり具合を調べているようでもあった。


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