いまそこにある媚肉

島村春穂

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麗しき継母の膝枕はASMR……

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 浅い呼吸を繰り返し、お腹をふいごのようにしながら、匠は瞼を閉じたっきりだ。


 こうやってじっくりと息子の顔を見られたのは、もしかすると、これが初めてだったかもしれない。お世辞にもいい男とはいえない。父親の一郎と顔が似ているかといえば、ぜんぜん似ていないし、どちらかといえば、前妻似であった。


 前妻の顔を、貴子は写真で拝見したことがあった。とても綺麗なひとだった。聞けば、東京出身だという。良くも悪くも地方臭さがなく、垢ぬけた趣があるのは、同じ東京出身の貴子だから納得ができたし、言葉では説明がしづらいけれども、おおよその割合で、関東の女であれば見分けることができた。


 学生の頃の話だ。クラスの友だちと芸能人の出身当てクイズが流行ったけれど、関東限定ならば、神奈川、埼玉、千葉、茨城、東京といった感じでほとんど外れたことがなかった。


 匠の面長の顔は前妻ゆずりだ。気の強そうな鷲のくちばしのような鼻も、前妻とほとんど生き写しであった。


 頬に、にきびを潰した痕がいくつもある。いま乳房を食んでいる唇のうえには治りかけの吹き出物が赤くなって残っていた。いま閉じている目を開ければ、ひきこもり特有の、あのどこか自信なさげで、なにかに怯えたような眼つきがあって、あのキツネ目でいつも探るように人を見てくる。この切れ長の一重だって、おそらく前妻から受け継いだものだろう。


 とはいえ、残念ながら、前妻はとても美人ではあったけれど、美男美女には、それぞれ顔のパーツに、短所とも思える特徴があるものだ。だから、そこだけをとれば、美男美女とはいいがたいものがある。匠は、顔ぜんたいのバランスが悪いせいか、やはりイケメンには程遠かった。


 そういえば、前妻というのは、かなりのヒステリーだったと一郎から聞いている。一郎に対する暴力は毎日だったらしい。


 でも離婚の直接的な理由は聞いていなかったから、一方的に前妻が悪いとはいえない。夫婦の問題というのは、他人があれこれ白黒をつけられるものではないだろうし。ただ、その離婚の原因がなににせよ、両親の喧嘩を受けて、息子の匠が不安定になったことは考えられた。


 一郎と前妻が離婚をしたのが、確か、匠が小学校低学年だと聞かされている。その飢え渇いた愛情が、いま異常な偏愛として生まれ変わり、ただ一心に継母の貴子へと向けられていた。


 ふたりはいま、共依存にも似た見えない手錠で、きつく繋がれている気がしてならない貴子なのであった。



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