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第一部 ドッキドキ!千奈美ちゃんの『バレンタインデー』
約束の「メモ書き」
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そして、進展のないままホームルーム「三分前」がきてしまいました。それでも千奈美ちゃんはせっせと「内職」を済ませていました。
『五分待っててね 千奈美』
そう書いた「メモ紙」を持って司馬くんのもとへ。
司馬くんは、「ロケットスタート」で帰れるように、机にリュックをスタンバって「そわそわ」していました。
「これ」
千奈美ちゃんがリュックのうえに「メモ紙」を載せます。ぼくからしてみたら、その「メモ紙」のかわりに今『チョコ』をやれば終わりだったのではないかと思うのですが、どうも千奈美ちゃんには千奈美ちゃんのタイミングがあるようです。
担任の笛吹先生(女/三十代)が来て、「義務的」なホームルームはすぐに終わりました。
「起立! 礼!」
教室は、たちまち「ポップコーン」がはじけたように賑わいだしました。
「国境線上」のバリアは破られて、「隣国」からも気兼ねなく「民」が出入りするようになりました。
司馬くんはといえば、言われたとおりに坐ったまま「モニュメント」になっていました。
千奈美ちゃんはそれを確認したあとで、リュックに手を突っ込みました。
「千奈美ちゃん!」
慌てて手をひっこめました。ちびの小春ちゃんです。
「きょうはハードルださないとだから早めに来てって」
「う、うん……」
「あたしもハードルやろっかなー」、ちびの小春ちゃんは「部活関係」の時にだけ、千奈美ちゃんに声を掛けることができるのでした。「でもあたし背が小さいからなー」
千奈美ちゃんはうわの空で返事をしつつ、「ちらちら」司馬くんの方を見るのでした。
「そういえば、千奈美ちゃんも水無月くんに『チョコ』あげてたよね」、ちびの小春ちゃんは、千奈美ちゃんがだいすきなのです。「すごいよね、水無月くん。だってクラスぜんいん『チョコ』あげてたよー」
司馬くんは……だいじょうぶです。まだ席に坐っていました。
「あたしいつ渡そーかドキドキだったもん」、ちびの小春ちゃんの瞳は殆んど恋する「乙女」になっていました。
「だから、さとみさんがああやって仕切ってくれるのって有難いんだ。あたしみたいな奴には」
「そ、そーだね」
千奈美ちゃんは、ちびの小春ちゃんに気付かれないように、司馬くんを目視しました。――ちゃんと居ます。だいじょうぶです。
「……千奈美ちゃん?」、ちびの小春ちゃんは「もじもじ」しました。「よかったら……あの、一緒に部室に行ってもいい?」
千奈美ちゃんは、さっきと同じように首を二十度動かしました。
「嘘!?」
「嘘って?」、ちびの小春ちゃんは、今度は「くねくね」しだしました。「嘘じゃないですよ……だって、ほんとに一緒に部室行けたらいいなってずっと思ってたし」
「ごめん! あとでね!」
千奈美ちゃんは、ブースター搭載の瞬発力で教室を飛び出しました。
「うそでしょ……」
ほんの五秒ほど目を離した隙に、司馬くんが消えてしまいました。
妙な腕の位置で立ちすくむ千奈美ちゃん。固まったその姿は何かの「モニュメント」のようでした。
「どうしたの千奈美ちゃん」
後ろで、めがねちゃんの声がしました。
千奈美ちゃんは、変な恰好のまま振り返りました。
「司馬は?」
「ずっと坐ってたけど、立ったら「ロケットスタート」」
そう言い終わると、めがねちゃんは「スタスタ」行ってしまいました。
『そういえば……』と言い掛けた口も変な恰好のまま固まってしまってました。『司馬から「ライン」の返事きた?』とか、「ライン」で『司馬にちょっと待ってて』とか、いろいろ言いたいことがあったのでしょう。
「・・・」と取り残された千奈美ちゃん。腕時計を見ると、確かに「五分」は過ぎていました。それにしても……。(ですね。ブラックスワン!)
「……い、いかん。これではあたしはウインナーを強奪しただけの、ただの女になってしまう……」
変な恰好のまま、千奈美ちゃんはつぶやいているのでした。
『五分待っててね 千奈美』
そう書いた「メモ紙」を持って司馬くんのもとへ。
司馬くんは、「ロケットスタート」で帰れるように、机にリュックをスタンバって「そわそわ」していました。
「これ」
千奈美ちゃんがリュックのうえに「メモ紙」を載せます。ぼくからしてみたら、その「メモ紙」のかわりに今『チョコ』をやれば終わりだったのではないかと思うのですが、どうも千奈美ちゃんには千奈美ちゃんのタイミングがあるようです。
担任の笛吹先生(女/三十代)が来て、「義務的」なホームルームはすぐに終わりました。
「起立! 礼!」
教室は、たちまち「ポップコーン」がはじけたように賑わいだしました。
「国境線上」のバリアは破られて、「隣国」からも気兼ねなく「民」が出入りするようになりました。
司馬くんはといえば、言われたとおりに坐ったまま「モニュメント」になっていました。
千奈美ちゃんはそれを確認したあとで、リュックに手を突っ込みました。
「千奈美ちゃん!」
慌てて手をひっこめました。ちびの小春ちゃんです。
「きょうはハードルださないとだから早めに来てって」
「う、うん……」
「あたしもハードルやろっかなー」、ちびの小春ちゃんは「部活関係」の時にだけ、千奈美ちゃんに声を掛けることができるのでした。「でもあたし背が小さいからなー」
千奈美ちゃんはうわの空で返事をしつつ、「ちらちら」司馬くんの方を見るのでした。
「そういえば、千奈美ちゃんも水無月くんに『チョコ』あげてたよね」、ちびの小春ちゃんは、千奈美ちゃんがだいすきなのです。「すごいよね、水無月くん。だってクラスぜんいん『チョコ』あげてたよー」
司馬くんは……だいじょうぶです。まだ席に坐っていました。
「あたしいつ渡そーかドキドキだったもん」、ちびの小春ちゃんの瞳は殆んど恋する「乙女」になっていました。
「だから、さとみさんがああやって仕切ってくれるのって有難いんだ。あたしみたいな奴には」
「そ、そーだね」
千奈美ちゃんは、ちびの小春ちゃんに気付かれないように、司馬くんを目視しました。――ちゃんと居ます。だいじょうぶです。
「……千奈美ちゃん?」、ちびの小春ちゃんは「もじもじ」しました。「よかったら……あの、一緒に部室に行ってもいい?」
千奈美ちゃんは、さっきと同じように首を二十度動かしました。
「嘘!?」
「嘘って?」、ちびの小春ちゃんは、今度は「くねくね」しだしました。「嘘じゃないですよ……だって、ほんとに一緒に部室行けたらいいなってずっと思ってたし」
「ごめん! あとでね!」
千奈美ちゃんは、ブースター搭載の瞬発力で教室を飛び出しました。
「うそでしょ……」
ほんの五秒ほど目を離した隙に、司馬くんが消えてしまいました。
妙な腕の位置で立ちすくむ千奈美ちゃん。固まったその姿は何かの「モニュメント」のようでした。
「どうしたの千奈美ちゃん」
後ろで、めがねちゃんの声がしました。
千奈美ちゃんは、変な恰好のまま振り返りました。
「司馬は?」
「ずっと坐ってたけど、立ったら「ロケットスタート」」
そう言い終わると、めがねちゃんは「スタスタ」行ってしまいました。
『そういえば……』と言い掛けた口も変な恰好のまま固まってしまってました。『司馬から「ライン」の返事きた?』とか、「ライン」で『司馬にちょっと待ってて』とか、いろいろ言いたいことがあったのでしょう。
「・・・」と取り残された千奈美ちゃん。腕時計を見ると、確かに「五分」は過ぎていました。それにしても……。(ですね。ブラックスワン!)
「……い、いかん。これではあたしはウインナーを強奪しただけの、ただの女になってしまう……」
変な恰好のまま、千奈美ちゃんはつぶやいているのでした。
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