上 下
4 / 9
第一部 ドッキドキ!千奈美ちゃんの『バレンタインデー』

「付き合ったら何したい?」

しおりを挟む
 きょうは、「スペシャルランチ」のせいで、だいぶ。司馬くんはやっと食べ終わり、席を立つと、クラスメイトの視線を一斉にあつめてしまいます。


 教室の窓際の一角には掃除用具を入れるロッカーのようなものがありました。この中にガムテープが入っているのは、おそらく二年C組ぐらいのものではないでしょうか。しかも「民」が私財をなげうってストックは十個ほどあります。


「民」は不潔極まりないくせに、いつも綺麗でありたいという相反した感情を持っていました。(サニタリー面にうるさい)。そこで掃除は、『宝塚音楽学校』方式を、「司馬くん」に採用されました。


 司馬くんは、二十センチ大にちぎったガムテープを指に巻きつけて、『墓石』から『赤ちゃん』になって、教室じゅうを「ハイハイ」して徘徊するのでした。


 女衆は椅子に片足をつっかけて坐ったり、あぐらを掻いたり、「あつい、あつい」と言ってプリーツスカートをまくるものですから、司馬くんはこの頃には殆んどのパンツに見飽きてしまいました。


 ガムテープには髪の毛に混じって、「ちぢれたモノ」がよく貼り付きます。


「手伝おーか?」
 足元に這ってきた司馬くんを見つけて、水無月くんは言いました。


 司馬くんは、遠慮ぎみに首を横に振りました。


 なるたけ「民」の邪魔にならないように空いた席から回っていくのですが、VIP席の方々は、もはや存在ごと床に深く根を下ろしてあられるので、他の「女衆」のようにどけてくれるといった概念はないようです。


「『チョコ』どうする?」とノッコの声がします。


 どうやら明日の『バレンタインデー』の話をしているようでした。


「もしさ。付き合ったら何したい?」
 さとみ様は、頭の後ろに腕をくんでおっしゃられました。


 一人顔を赤くしたのは千奈美ちゃんでした。椅子の下に足をひっこめます。


 一方、さとみ様の足にこつんと「頭」をぶっつければ、股をおひらきになられて司馬くんはそのあいだをもぐっていくのでした。


 スカートは、「すだれ」のように司馬くんの顔にかかり、言い尽くせないオーデコロンの甘い匂いがするのでした。


「下校を……一緒に帰る」とめがねちゃんは言いました。


「だ、だよね……そっか……下校のほうか」
 慌てて笑顔をつくろう千奈美ちゃんです。いったい何を想像していたのでしょうか。


「千奈美ってきょねん水無月にあげてたよね?」とノッコ。


「そうだっけ」と頭の後ろでくんだ腕をほどいて、さとみ様はおっしゃられました。「うりゃ! 巾着の刑!」


――さとみ様は、時々、『巾着の刑』と称した男子にとっては「ご褒美」としか言いようのないことを司馬くんにやってくれるのでした。


「ちょちょ、さとみ!」とほっぺを赤くさせて注意する千奈美ちゃんです。


「ことしも水無月にやんの?」とノッコ。こちらは平然としたものです。


「にゃははは」
 さとみ様のスカートの中で、司馬くんはもだえています。


 唇を尖らせた千奈美ちゃんは、

「み、みんなあげてたから……たぶん」と言いました。「め、めがねちゃんは?」


「あたし、司馬くん」
 なぬ!? って顔のまま千奈美ちゃんは固まりました。


 やっと解放された司馬くんは、新鮮な酸素を求めるようにめがねちゃんの方に這っていきます。


「なんで梨月なの?」とノッコ。


「『義理』、チョコ」


「なーんだ。だよね……」
 千奈美ちゃんの固まった表情は溶解して、「よかったあ」という文字が顔に浮かびあがってきました。


「千奈美ちゃんは? 司馬くんに」
 めがねちゃんは足をひっこめました。足元に来た司馬くんに気を使ったのでした。


「あ、あたしわあ……」


「うちらはクラス全員にやるけど」とノッコ。「ねえ、さとみ」


 一度、さとみ様がそうなさるように、ノッコが足をおひらきになってあられた時に、司馬くんはあいだに顔をつっこんで思いっ切り蹴られました。以来、ノッコは掃除中には椅子で「あぐら」を掻く習慣にしたのでした。


「司馬!」
 その点、さとみ様はすこぶる「寛容」でいらっしゃいまして、むしろ司馬くんをお使いになられるのでした。


 さとみ様にからだを「ポン」と蹴られた場合には、『あついから靴下脱がせて』をご所望です。司馬くんは、捧げ持つように片足ずつ運動靴を脱がせてあげてそうするのでした。


「じゃあ……あたしもやろっかなー」
 千奈美ちゃんは、誰に言うわけでもなくつぶやきました。これを聞くと、めがねちゃんは席を立って「スタスタ」歩いて行きます。


 ノッコが呼び止めました。
「どこ行くのー?」


「トイレ」


「あ、あたしも行くー」
 千奈美ちゃんは、になって「スタスタ」追いかけました。


「――わかりやすいね」


「うん」とさとみ様は返事をなさいました。「は一種の『』よ。にゃはは!」


 そして、『』がここにもう一人。机の下からようやく司馬くんが顔をだしました。


 ちびの小春ちゃんの軽蔑な眼差し。司馬くんは、いつもここで「現実」にかえるのでした。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

処理中です...