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ひとりぼっちの値段
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雨風にさらされないでいることが、これほど有難いことだとは知らなかった。
ただ、蛍光灯の激しすぎる白さと、カラフルなお菓子や色んなものがいっぺんに視界にはいってしまうと、目が眩みそうになった。
店内の入り口に、透明の傘が何本も立て掛けてあって売られてある。
最初に触れたその一本を選んで、レジを見た。
客が五、六人並んでいて、彼は最後尾で待った。
ずぶ濡れでいることが、ひどく恥ずかしく思えた。
このとき、周りにまるで関心を寄せる余裕さえなくて、前にいるサラリーマンの背広というのを、ずっと眺めていた気がする。
順番がきた。
同じ年ごろか、少し下か、でも十代だと思った。
その娘が、いくらいくらになります、って言った。
どうしてこんなにずぶ濡れなの、とそう口もとが優しく微笑んで見えた。
彼は財布を出してみて初めて、自分の指さきというのが、まるで別物になっていることに気がついた。
もうすっかりかじかんでしまっていて、小銭入れのチャックさえ、うまく引けやしなかった。
すぐ後ろに、客が並んでいるのを感じた。
彼は、急いだ。
でもレジの彼女というのは、まったく彼を急かそうとはしなかった。
ようやくチャックを開けてみたものの、指さきが小銭を選ぶことができずにいる。
彼は、手の平にまとめた小銭を、彼女のほうに差し出した。
指さきが小さく振るえていた。
彼女は、そうするのがまるで当たり前のような仕草で、小銭をそこから選びだしてくれた。
指さきが触れたとき、無性にあたたかく感じられた。
彼女のたった一瞬のぬくもりのために、この命をあげたっていい、そんな馬鹿なことを本気で思っていた。
ひとりぼっちでいるヤツの命の値段というものが、ここにあるコンビニのお菓子なんかより、ずっと安いことを彼は知った。
ただ、蛍光灯の激しすぎる白さと、カラフルなお菓子や色んなものがいっぺんに視界にはいってしまうと、目が眩みそうになった。
店内の入り口に、透明の傘が何本も立て掛けてあって売られてある。
最初に触れたその一本を選んで、レジを見た。
客が五、六人並んでいて、彼は最後尾で待った。
ずぶ濡れでいることが、ひどく恥ずかしく思えた。
このとき、周りにまるで関心を寄せる余裕さえなくて、前にいるサラリーマンの背広というのを、ずっと眺めていた気がする。
順番がきた。
同じ年ごろか、少し下か、でも十代だと思った。
その娘が、いくらいくらになります、って言った。
どうしてこんなにずぶ濡れなの、とそう口もとが優しく微笑んで見えた。
彼は財布を出してみて初めて、自分の指さきというのが、まるで別物になっていることに気がついた。
もうすっかりかじかんでしまっていて、小銭入れのチャックさえ、うまく引けやしなかった。
すぐ後ろに、客が並んでいるのを感じた。
彼は、急いだ。
でもレジの彼女というのは、まったく彼を急かそうとはしなかった。
ようやくチャックを開けてみたものの、指さきが小銭を選ぶことができずにいる。
彼は、手の平にまとめた小銭を、彼女のほうに差し出した。
指さきが小さく振るえていた。
彼女は、そうするのがまるで当たり前のような仕草で、小銭をそこから選びだしてくれた。
指さきが触れたとき、無性にあたたかく感じられた。
彼女のたった一瞬のぬくもりのために、この命をあげたっていい、そんな馬鹿なことを本気で思っていた。
ひとりぼっちでいるヤツの命の値段というものが、ここにあるコンビニのお菓子なんかより、ずっと安いことを彼は知った。
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