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居場所
しおりを挟むマリが城で暴走してまる2日
マリは眠り続けてはいたが、高熱や心機能の低下、時たま見せる全身からの出血は落ち着き始め、それでも尚24時間体制で治療を受けていた。
そんな中スティナ達は大臣達を集め、マリについての会議を開く。国に置くにも孤児院に渡すにも、制御の出来ない獣人を引き取る者など居ないかった。だが、城に置くのもまた、多くの貴族の反感を買ってしまう。
…問題ばかりだ。
「であるからして、そんなみすぼらしい子は…」
公爵家の男が思わず放った言葉。
それが偏見的で差別的な言葉と受けとったケビンは、静かに銃を向け公爵を睨み付けた。
「ケビン、銃を下ろしてくれ。公爵…あの子は泥棒をした訳でも金を騙し取った訳でもないだろう。言葉遣いには気をつけた方が良い。でないと、我が家の番犬が勝手に家を飛び出して、君の喉を掻っ切ってしまうかもしれない」
「ッし、失礼致しました」
「ですが城に置くには危険過ぎるのも事実でしょう。現にこうして一級騎士様も、全治までかなり時間を要するご様子…こんな事が続いては国が滅んでしまいますわ」
項垂れる公爵に変わり発言したのは国に勤める大臣だった。彼の言葉に一同が思い悩む中、何故かニコニコ笑顔のリルーは珍しく会議の途中で口を出してみせる。
「私の方から一つ案を出しても?」
「ほほう?母様が意見とは珍しい。普段からスティナに任せっきりだと言うのに」
「ジン、私ね?
あの子を養子として受け入れようと思うの」
「ほぅ?」
「…あぁ…母上?
今までの話は聞いて居られましたか?」
「えぇ聞いていたわよスティナ」
「陛下はこの国が滅んでも良いのですかッ!?」
「いいえ。ですから彼女を我が娘、第1王女とし獣化の制御、体調管理が出来るまで別荘で育てたいと思うの。その際ケビンとマルフィに世話係として、別荘へ共に行ってもらうわ」
「で、ですが陛下!」
「何が不満なの?第1王女であれば、この城にいる者が怪我する事も貴方達国民が怪我する事も無く、大切に厳重な警備と医療の元であの子を守る事が出来ます。何か問題はあるかしら?」
「っ…いえ」
「良かった♡ずっと娘が欲しかったのよ」
誰が最高権力者である女王陛下に逆らえようか?提案と呼ばれたそれは決定にも等しく、大臣達は“こちらに被害が出ないなら”と食い下がるしか無かった。
「あー…では今日からマリ・リスファリアは、我が国の第1王女マリ・グラウとする。みな、新たな王女の誕生を祝ってくれ」
スティナがその場を締めくくると、大臣達は難しい顔のまま会議室を出て行く。すると先程まで行儀よく座っていたジンは、大きな欠伸と共に体を伸ばして机に倒れ込んだ。
「はぁ…硬い話は肩がこって仕方ない」
「でも兄さんが会議に出るなんて驚いたよ」
「そりゃ可愛い我が妹の行く末が決まるんだ
しっかり見ておかないとだろ?」
「まさかあの子を研究に使おうと考えてる?」
「貴重な存在だからね…だが心配する事は無いさ。残念な事に彼女は第1王女となってしまった。下手に扱えば俺が殺られるだろ?だから観察するだけさ」
「それが母上の目的かな?」
「全くだよ。あの人は僕の研究を
邪魔する事しか考えてないからね」
「それは兄さんが
人の命まで研究対象にするからだろ?」
「だね以後、気を付けるよ」
「そうですよジン。あの子にとって、ここが唯一の居場所なんですから…何かしたら貴方を追い出しますからね」
「へーい」
ーーーーーーーーーーーーーーー
マリが別荘に運ばれ数日、24時間体制だった看病はマリの目覚めと共に終わりを迎えた。しかしマリは目が覚めると同時に布団の中に潜り込み泣き出してしまう。それを聞いたリルー、スティナ…そして秘書ムーファの三人は別荘へと顔を出した。
「陛下、それに殿下も
お呼びだてして申し訳ありません」
「良いのよマルフィ」
「マリはずっとこうなのかい?」
「はい、どうやらケビンを払い除けた事を覚えているようで…ケビンを避けていましたが、先程ようやく布団に入るのを許しました」
狼姿のケビンに顔を埋めて泣きじゃくるマリ。途方に暮れ困り果てた三人の元に予想外の人物が現れる…ジン・クラウだ。彼はニッコリ笑ってポケットから小さな装置を取りだした。
「ジン、貴方を呼んだ覚えは有りませんよ?」
「けど困っているんですよね?
母上、俺なら泣いてる理由を聞き出せる」
「また貴方は…」
「母上、兄さんの話だけでも聞いてみよう。どちらにしてもこの子は言葉を話せないんだ、怖がる原因を知っておきたい」
「っ…仕方ありません、
方法だけ聞きましょう」
「この装置を髪につけるんだ。するとあら不思議、脳の電波信号を拾って思考を映像に映し出す事が出来る。な?便利だろ?」
「それなら言葉を話せなくても
思考が分かるってことか」
「ケビンの言う通り、俺天才だろ?」
「天才?ジン。貴方は人様の心を覗き見ろ…と言っているのよ?何故こう非道な物ばかり作るの」
「使わないならそれで良いよ?マリが言葉を話して説明出来るまで待てば良い。何年掛かるか知らないけどね」
リルーとジンの言い合いに頭を悩ませていたスティナだが、意外にも仲裁に入ったムーファを見て目を丸くする事に…
「お話のところ申し訳こざいません。私から一言宜しいでしょうか?陛下」
「ええ、どうぞムーファ」
「私は殿下の意思に賛同すべきかと思います」
「この子の心を勝手に見ろというの…?」
「お言葉ですが陛下、
マリ様が言葉を使えないからこそ
拒否なさる事、恐怖感を抱くものは
我々が認知しておくべきかと」
「ムーファの言う通りです母上」
「スティナまで……わかりました。
けれど体に影響は無いのよね?」
「あぁ、言っただろ?
俺は天才だって」
顔を埋め泣いてるマリに髪留めを付けると、空中に映像が映し出された。無音の映像だが、そこに映し出されたのはマリが母親を探している姿…。そして目が覚め探せなくなった事への怒り。母と笑い合う姿を眺め涙を流すマリは、何度も自らを傷つけていた。
そう…
ーーマリは生きたくなかったのだーー
「ッもう止めて…それを外して」
「なんて悲劇だ。きっと苦しみから目が覚める度に、こうやって母を求めて泣いているのか」
「この子が何をしたと言うの?
まだ…6才なのよ?」
「 母上、お気をしっかり。
この子の人生はこれからです」
「スティナ…ええそうね」
そんな中、漸く落ち着きを見せたマリがケビンから顔を離し「ぅー…?」と、小さな声でスティナを見上げた。
「おはようマリ。身体は大丈夫かい?」
スティナが笑って声をかけたが、マリは変わらず何も話さずケビンの毛皮にしがみついている。
「ケビン、私は貴方が羨ましいわ」
「そうか?」
「当然よ、私には貴方のような暖かい毛並みも無ければ、安心を与えれる余裕も無いわ」
「ケビンとマリは寝る時も一緒だもんな」
「厳ついだけじゃ無かったわけだ」
「マルフィはどう思います?」
「わ、私ですか!?」
「なんだマルフィ、まだ居たのか」
「黙れケビンッ…陛下、私もこのくらい打ち解けれたら…とは考えます。何せ子供の世話は苦手で…」
「俺は子守りなんざ好きじゃねぇよ」
照れ臭くなったケビンがベッドから降りようとしたその時、マリは咄嗟にケビンのシッポに抱き着いて「ヤッ!ケ、ビン」と声を発した。初めての言葉に思わず固まっていると、マリは「ケビン!ケビン」と連呼し始めた。
「まぁ!名前を呼んでますね!」
「初めての言葉がケビンの名前かよ」
「マルフィが嫉妬してるw」
「スティナ殿下ッ、別に私は…」
「ハハッとにかくおめでとうケビン」
「めでたくねぇ…」
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