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プロローグ
しおりを挟むオギャーッオギャー!
深い森の奥から響き渡る産声。
小さな村の端に立つ別荘小屋で赤ん坊は生まれた。
母は子供を優しく抱き締め
父と共に微笑み合い幸せを噛み締め涙する。
しかし、そんな普通の幸せは長くは続かない。
赤ん坊が生まれた数ヶ月後、その体は獣へと変化し巨大な狐の姿と変われば叫び暴れ、緑豊かな小さな村を数分も経たぬ内に崩壊させたのだ。
体力の少ない赤ん坊は直ぐに落ち着きを取り戻し、人間の姿に戻ればスヤリと眠ってしまう。けれどそれ以降、赤ん坊の体調不良は続き母を悩ませる事となる。
赤ん坊が生まれ半年はあっという間に過ぎた。
家族は村から逃げる様に別荘を離れ、村よりさらに山奥の建つ屋敷へと戻った。その頃、仕事でトラブルが続いていた父はストレスと赤ん坊への恐怖を暴力に任せ、母と赤ん坊に手をあげ始めていた。
赤ん坊を必死に守っていた母は、
赤ん坊が1歳の時に父の暴力に耐えきれず死亡。
けれど母は死に際に赤ん坊へ魔法を掛けた。
寿命以外では決して死なない保護魔法だ
“赤ん坊が幸せに生きれる未来を掴めます様に”
と願いを込めて。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
6歳になったその子供はマリと名付けられた。
母が死亡した事で父は更に恐怖に怯えた。全てマリの呪いだと決め付けた父は、小さな少女を窓も無い地下室に閉じ込めてしまう。
言葉も食事のマナーも教わること無いマリ。
手を入れるのがやっとの小さな扉から毎日一度だけ、食べカスや余り物と言ったゴミとなる食べ物が大量に投げ込まれる。それがマリにとっての食事であり、生きる為に無我夢中で食べていた。
そんなマリでも唯一、誕生日だけは外に出してもらえる。しかし外では常に父に抱き抱えら、部屋を出る前から目隠しを強制されたマリは光どころか、この薄暗く窓も無い部屋以外など見る事は許されなかった。
そんなある日の夕暮れ時、マリは初めて嗅ぐ不思議な匂いを感じた。
今まで聞いた事の無い大きな音と不思議な匂い。
噎せ込む様な煙がドアの隙間から入り込み、衰弱していたマリは煙を吸ってしまう。
ふわふわとボヤける目を擦るマリは
音の鳴る扉をじっと見つめた
「…ここだ。ここが匂う」
初めに聞こえたのは、重低音を感じる男の声だった。
もちろんマリに性別が判断出来る訳ないが、父以外の“誰か”がそこに居る事は理解出来ただろう。
「こんな所に地下室か?」
次に聞こえたのは少し高めの青年の声。
「人の…ガキの匂いだ」
「子供?扉を二重にしてまで子供を隠す訳は?」
「さぁな」
声の低い男が一言返事を返せば途端に激しい爆発が起こり、マリが見詰める扉は呆気なく破壊されてしまう。既に座る事も出来ず横たわっていたマリは、部屋に入る三人の影を見詰め必死に意識を保とうとしていた。
「殿下!子供が倒れています!」
そう叫んだのは少し酒焼けした様な掠れ声を出す女だった。長い黒髪を一つに束ね身軽な格好をする彼女は、高貴で有りながらシンプルな服の男性へ振り向き殿下と呼んだ。
「可哀想に…酷い熱だ」と
マリの生存を確認する青年声の殿下。
「連れて帰ろう…マルフィ、この子を連れて行ってくれ。君の足の速さはこの国一だろ、頼めるね?私はもう少しこの部屋を調査する必要が出来た」
マルフィと呼ばれた女性が言われるがままに少女マリを抱き上げると、その場を素早く去って行った。
それを眺めた殿下は改めて煙る辺りを見渡し絶句する。壁には大きな引っ掻き傷が無数に残り、幾つもの割れた皿が放置されているがスプーンや箸、水やシーツなどは見当たらない。
「スティナ、これを見ろデカイ爪痕だ」
今度は低音を響かせる男が殿下をスティナと呼んだ。
黒く無造作に伸ばされた髪の上には狼の様な耳、人一倍大きな身体を包むマントからは太く逞しい尻尾が見え隠れしている。
「あの少女は獣人だったのか…?だが、耳は生えていなかったぞケビン。尻尾もだ…それにこんな傷跡は見た事がない」
「…狐だ」
「狐?狐の獣人なんて聞いた事がない、だって狐は…」
「あぁ、獣人族にとって狐は神とされる生き物だ。いつの世も一体しか生存する事は出来ないらしい」
「じゃああの子が?」
「いや…狐神は既に存在している。まだ死んでねぇはずだ…死んでれば必ず獣人の俺らの耳に入る」
「…噂ではここの伯爵。妻は寝たきりで娘は光を直視出来ず、誕生日以外は外出しないと聞た…だが、これはもう監禁だろう。ろくに食事も教育も与えて貰えなかったのかもな」
「婦人は既にミイラになっちまってるし、どーしようもねぇな。とりあえず火の手が回る…そろそろ帰るぞ」
「そうだね」
二人は存在するはずの無い二匹目の狐人に戸惑いながらも一度、城へと戻る事にした。
ーーーーーーーーーーー
登場人物
「マリ・リスファリア」 主人公。
人族として生まれながら巨大狐になれる少女
育った環境により人見知りが強かったが、引き取られた城で王女を目指すため日々勉強に明け暮れる。
「ケビン」 女王のペット。
長年王国に務める騎士団長。
狼の獣人で黒く長い髪と大剣がトレードマーク。
言葉は乱暴で豪酒な面もあるが、王子達の兄貴分として成長を見守って来た。そして今はマリが唯一信頼する人。
「リルー・グラウ」女王陛下
のほほんとした雰囲気と奇想天外な発想の持ち主
マリを引き取り我が娘のように可愛がる
「スティナ・グラウ」第一王子
優しい物言いと素早い判断能力で
誰もが認める実力王子。
国内の偵察も自ら向かい民を1番に思う。
「ジン・グラウ」第二王子
スティナの双子の兄でありながら
第一王子の座を降りた変人。
理由は権力よりも研究の方が好きだから…
「マルフィ」王国一を誇る俊足の持ち主
元は偵察部隊に務めていたが
マリを保護して以降は護衛兼教育係
「ジュリナ」王国の特殊医療班班長で半魔
国が構える学校の養護教諭
ケビンの師匠であり
マリを常に気にかけている
「ベナレス」魔族の生き残り
ジュリナの甥
マリが好きになるも、自らの立場に思い悩む
「ムーファ」王国秘書
真面目過ぎる男、つまらない男とケビンに呼ばれる
種族の偏見をほんの少し持っている
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「ブルドア」鬼族
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マリの命を狙う
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