猫と幽霊おばあちゃん

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最終話 さよなら

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怪我を治療して早、一週間が経った。この日、助けてくれた女人は「このままウチの子になりなよ」とか言って、オレに首輪を買ってきやがった。


「うん、やっぱ似合ってるね!今日からアンタはマロンだよ♪」


マロンだ?団子の次は栗か…
どいつもこいつも
食い物しか頭に無いのか?


オレは必死に首輪を取ろうと手で引っ掻いてみたが、そう簡単に取れる物では無いらしい…。暫く暴れているオレに婆さんは嬉しそうな顔をして話し掛ける。


「団子、良かったのぉ!!これでワシも安心して成仏が出来るわい」
「良かった?オレはこんなトコ出て行くぞ」
「おや何でじゃ?寝床も暖かいし、食事も健康的じゃろ。去る理由など無いじゃろ」
「別に理由はねぇけど…」
「なら良いじゃろ?此処で幸せに暮らしておくれよ」
「野良も幸せだったと思わないか?」
「思わないねぇ」


ニコニコと笑う婆さんは、オレが折れるのを待っているようだ。仕方ない…しつこい婆さんの事だから、また野良に戻るなど言えばややこしい事になるかも知れない。


「分かった、分かった!! ここに住む。野良には…ならねぇよ」
「本当かッ!?団子ッ!?」


オレが「あぁ」と返事をするれば、やけに嬉しそうな婆さんはその場でフヨフヨと飛び回る。


「コレからは、確りとご飯食べて確りと寝て、丸々と元気に暮らすのじゃよ」
「もう分かったから。オレは少し昼寝するから起こすなよ?」


そう言って毛布の上で丸くなれば、婆さんは静かにオレを見守っていた。

今日の婆さんは変だ…
いつもなら寝る暇も与えない程に
騒がしい筈なのに…

そう違和感を感じながら薄目を開けると、ニコニコと満面の婆さん顔。

変な奴…

そう思い目を閉じたオレは、ゆっくりと夢の中へと落ちていった。







翌朝、婆さんの姿は何処にも無かった。

婆さんの事だ。
またどっかで誰かに迷惑かけては嬉しそうな顔をして戻って来るだろう…と思っていたのに、夜になっても更に次の日の朝になっても、婆さんはオレの前に現れなかった。

そして…オレは婆さんの言葉を思い出す。



「コレからは確りとご飯食べて
確りと寝て丸々と元気に暮らすのじゃよ」

「此処で幸せに暮らしておくれよ」



……まさか、成仏しちまったのか?
オレが“分かった”って言っちまったから…
ここから離れないと約束したから?


あれこれ考えて居ると、今日も拾ってくれた女性が栄養のある飯を俺の前に置いた。

暖かい布団に美味い飯…此処での名前を貰ったオレを見た婆さんは1人で勝手に納得して、黙って行っちまったのか?

だが、こんな事は前にも一度あった筈だ。
記憶にも薄ら程度だが、数日戻らず気にかけて居たら子供姿で現れやがった。

だから今回もきっと…

そう思いたかった。
口の五月蝿い婆さんだが、俺にとっては数年ともに居た大切な家族だ。婆さんに待たされるのは慣れている。

慣れているはずなのに…

その後も婆さんは現れない。
何日も外を探したが、以前の様に婆さんが何処かに立って、こちらに声を掛けてくる事なんて事は無かったし、俺も最終的には外へ出ても何を探していたのか思い出せなくなっていた。











ーーーーーーー


ーーーーー


ーーー






1年後ーーー



  「マロン~、ご飯だよ~」
今日も明るい笑顔で餌を運んでくる女性。

オレの名はマロン。
この飼い主が営む動物病院の看板猫だ。

毎日多くの人間がオレを撫で回して、満足したら笑顔を向けた後で帰ってく。

…正直ウザくて仕方ない。
だが、何故だろうか?
“ウザイ”という気持ちに
何処か懐かしさを覚えるんだ。

猫の記憶力はあまり良くない。
だからきっと“昔、誰かにウザイ事をされた”とか程度なんんだろう。覚えていても今は必要で無いのかも知れない。


ある日の夜…
オレはなにか違和感を覚えた。

その日もいつも通り動物病院の明かりを消し、戸締りをした女性はオレを抱えて家へと向かう。そんな街灯の照らす街の中で、どうしても気になる人影を見つけたんだ。

どこか半透明で
腰が曲がる歳を取った婆さんの姿。

オレはソレを見た時、咄嗟に女性の腕から抜け出そうと体を捻ったが首輪をしっかりと掴まれ離れる事は出来なかった。

まぁいい。
ただすれ違っただけの婆さんだ。
オレが気にする事も無いか…
帰ったらふかふかの布団で暖まるんだ。


そう考え直したオレは
薄ら微笑む婆さんの顔から視線を逸らし
女性の腕の中で大人しく眠る事にした。



















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