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最終章 愛しい人
愛のカタチ
しおりを挟む苛立ちを隠しきれないレオがキッチンに向かい、私はレオに話した内容をミアにも話してみた。するとミアも少し怒った様子になり、私の手を掴んでキッチンへと乗り込んでいく。
「ねぇ兄さんッ!松居なんなのッ!?」
「あ?…あぁ話聞いたか」
明らかに不機嫌な二人。
確かに松居は私の事置いてったけど
そんなに怒る事?
ちょっと有り得ないって位の話でしょ?
「何で2人共そんなに怒ってるの?」
そう問い掛けるけど、今度は私がレオに「当たり前だろッ」と怒られてしまった。よく分かってない私にミアは優しく説明してくれる。
「兄さんはね?ずっと莉緒の為に動いてたわ。いつも“莉緒は飯食ってるか?”“莉緒は大丈夫か?”って五月蝿いくらい気にかけてたの」
「うん…私も頑張ろうと思ってた」
「そうね。兄さんは貴方に被害が出ないよう徹底してたわ。莉緒を泣かせてって悩んでいたけど、自分のせいで莉緒の人生を変えたくないって必死だったの。でね?兄さんはずーっと前から松居にアメリカへ戻らないか?って誘い受けてたのよ」
「そうなの?」
「えぇでも断ってたわ。兄さんは貴女が大学行くかもしれないって未来をずっと傍で見てたいんだって。だけど松居は莉緒が兄さんの足枷だと感じたらしいの…ハリウッド辞めたのも日本に兄さんが来たのも莉緒は関係無いのにね…それで少し前に起きたの報道でしょ?松居さんは、この際だと思ったのかも」
「ホント?本当に何も言わずアメリカ移住とかしない?」
その問いにはレオが「当たり前だろ」と笑って答えた。大きな手で頭をガシガシと豪快に撫でられたのはいつぶりだろ?レオは私が大好きなハンバーグをテーブルに置いて対面に置かれた椅子に腰を下ろした。
この日は結局、2人が怒った理由が分からないまま暖かいお布団と大好きレオの傍で眠る事になった。話をはぐらかされたと思った私は眠る前にもう一度レオに問い掛けたが、ハッキリとした答えは答えて貰えない。
そして私が理由を知ったのは翌朝の事だった。
レオ達を迎えに来た松居は、レオとミアの前で正座させられ説教を受けているのだ。昨日までの落ち着きは何処へやら…レオは初めて私の前で怒鳴って見せる。
「あ?未成年のガキを海外引っ張り出して道端捨てんのも俺の為ってのか?なめてんじゃねェぞッ」
「レオもう良いよ。こうやって会えたし、怒る事ないって」
「良くねぇだろッ何かあったらどうするつもりだった?莉緒が勝手に迷子になって、私は必死に探しましたってつもりだったのかッ!?」
松居を前にして怒りが収まらない様子のレオ。
怒ってた理由は私を危険に晒したからだと理解した私は少し嬉しくも思ったけど、土下座する成人男性を見るのは少し気が引けてしまう。
だって私は何もなかったし、松居もレオの為を思ってやり過ぎただけ…ただそれだけだ。
けどレオは、自分のせいで私に何かある可能性に巻き込んだ事自体が許せないのかもしれない。
「…すまない。俺はただ、これを機会にお前に戻ってきて欲しかった」
「その為なら莉緒はどうなっても良いってのかッ!」
「あぁ…この子が自ら行くと言い出したんだ。後は自分で何とかすると思って空港に捨てた」
「っテメェッ!」
反省の色を見せない松居の言葉にレオは思わず拳を振り上げ、殴り掛かろうとする。だが、そんな彼を停めたのは「兄さんッ!」と一喝するミアの声だった。
「兄さん、莉緒の前よ。拳を下ろして」
「ッ…」
大人しく拳を下ろし松居を睨み付けたレオだったが、松居は更にレオを煽ってみせる。
「ほら、やっぱりだッ!その子はお前の足枷になる
ッお前はそんな所で止まってて良い奴じゃない」
「どの仕事に就くかは俺の自由だ。莉緒は関係ねぇし全部俺の意思で動いてる…てめぇに指図される覚えはない。分かったら二度と顔を見せるな」
睨み付けられた松居は静かに立ち上がり、まっすぐレオに視線を向けると突然英語で話し始めた。
「…If you don't throw this kid away, you'll regret it someday.」
「Shut up! You're an empty-headed.rascal.Next time I show up in front of Lio, I'll kill you like my father.If you know it, just disappear.」
何を話してるんだろ?
私には理解出来なかったが、ミアは私の隣で大きな溜息を吐いて頭を抱えているし松居は眉間に皺を寄せて逃げる様に去って行った。レオが何か言い返してたっぽいけど、一体何を言ったんだろ?
「やっと帰ったわね松居」
「うん」
「莉緒、悪かったな」
「ううん私は平気」
「それより兄さんッ大丈夫なの?あんな事言って」
「平気だろ、アイツにそんな度胸ねェよ」
「あんな事?」
「兄さん、最後の最後で松居の事脅してたの。ホント訴えられでもしたら私や莉緒が大変なの分かってる?」
「…すまん」
「じゃ兄さん珈琲いれて」
「は?」
「私が居なかったらもっと暴れてたでしょ?」
「…あぁ怒鳴り散らして悪かったよ。莉緒も何か飲むか?」
「出してくれたお茶あるから大丈夫」
レオが大人しく珈琲を淹れていると、ミアはクスクス笑い近くに置かれた雑誌を手に取った。
「何が面白かったの?」
「だって兄さんが怯えるのなんて初めて見たんだもの」
「怯える?」
「そうよ?もしかしたら莉緒は死んでたかもしれないからね」
「へ??」
死ぬ?私が??何で?
頭の中に沢山のハテナを浮かべていると、珈琲を入れたレオが机にコップを置いて疑問に答えてくれる。
「日本みてぇに治安が良い訳じゃないからな。人攫いや人身売買、ドラックに誘拐殺人…英語も分からねぇ女が1人で居たらどんな目に遭うか…」
そういうレオの手は微かに震えている気がした。
だからあんな必死に怒ってたんだ…。
「兄さんよっぽどビビってたのね」
「あっ?」
「未だに手が震えてるじゃない」
「…」
「莉緒が見つかって良かったわね」
「おう。あれ?そういや莉緒、何で携帯使わなかった?」
「海外で使うの怖いじゃん?プランとか分からないからカバンにしまい込んでた」
「…なるほど」
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