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初恋
複雑な思い
しおりを挟む結局あの日は、レグリーさんに家まで送って貰った。彼は別れ際「何かあったら連絡しろ」と連絡先を交換し、何も無かった様に変わらぬ態度で帰ってしまう。
やっぱり私の聞き間違いかもしれない。
綾城にそっくりで全然違う彼を“頼れる人”と認識してしまった私は、直ぐに連絡先を携帯に登録した。
ーーーー翌日
「ーーと、ーもとッ山本!!」
何度も呼ばれる名前に我に返った私は、声の主を探そうと顔を前に向け「へ?」なんて間抜けな声を出した。
「へ?じゃねぇよ何回、名前呼ばせんだ」
「あ、ごめん」
「ここの問題解いてみろ」
「えーっと…」
私が教科書をペラペラ捲ると隣の席の山崎は「6だよ」と答えを教えてくれる。
「6だって」
「だってってお前なぁ…はぁもう良い正解だ。次は自分で答えろよ」
「はーい」
授業終了のチャイムが鳴り、待ってましたと言わんばかりの綾城は素早く授業を終わらせ、大きな欠伸をしながら教室を出て行く。
そんな姿すらレグリーさんと重ねてしまう私がまたボーと前を見てると、山崎は私に椅子を近づけ声を掛けてきた。
「莉緒ちゃん、今日はどうしたんだ?」
「え?何が?」
「ずっと上の空だし、さっきだって綾城の授業だってのに前も見ずにボーッと外眺めてさ」
「あぁ、ちょっと考え事」
「なら良いけど、可愛い顔が台無しだよ?」
「ハイハイ」
軽く聞き流していると鈴川が山崎の前に現れ、今日も元気に話し掛けて来る。
「健人このゲームありがと、めっちゃ楽しかった!」
いつの間に名前呼び…
「だろッ!?俺もこれ凄ェ好きでさッ、喜んで貰えて良かったぜ!」
「ねぇ、山本さんはゲームとかしないの?」
「え?私?」
「てか莉緒で良くね?」
「呼び捨てかよ」
「莉緒って呼んで良いの?」
「…何でもいい」
こういう話は苦手だ…
けどゲームの話から逸れたからいっか。
私が苦笑いを浮かべていると廊下は女子生徒の黄色い声で騒がしくなり、私達の教室の扉が開くと上級生が顔を覗かせた。
「健人居るかぁ?」
「キャーっ!!スバル先輩よッ!♡」
「カッコイイぃい!」
上級生の登場にクラス内の女子もキャーキャー騒がしくなる中、山崎は「あッ兄貴!?」と驚いた表情を見せる。
自分の兄の登場でそんなに驚く物だろうか?
確かに派手な髪色と顔立ちは整い、女子生徒を虜にする程にイケメンと呼ばれる部類なのだろうが、私はこう言った“モテます”感のある男は苦手だ。
「ちょっと失礼するよ」
そう言って教室に入ってくれば山崎の席の前に立ち、何が面白いのか笑顔を浮かべている。
「どうしたんだよ、珍しい」
「いや、学校は慣れたかなと思ってね。その2人は健人の友達かな?」
「は、初めまして!鈴川 葵です!」
元気に自己紹介する鈴川の横でペコッとお辞儀すると、山崎は何故か目を輝かせて私の紹介を始めた。
「この子は莉緒。俺の彼女になる人だ!」
「は?いつそうなったの?」
そういうの迷惑なんだけど…
「莉緒ちゃんに葵ちゃんか、いつも健人がお世話になってるね。仲良くしてくれてありがと」
「いえ、こちらこそ!」
「それより兄貴、学校に来て身体は大丈夫なのか?」
「え?どこか悪いんですか?」
「大丈夫だから此処に居るんだろ?葵ちゃんが心配しちゃうじゃないか」
ボーッと外眺めて話を聞いていると、山崎兄の言葉に答えたのはズカズカと教室に入って来た新しい人物。
「嘘つくなスバル」
…今度は誰
「雪にぃ!じゃあやっぱり…」
「あぁコイツ勝手に抜け出して来たんだ」
「ハハッ困っちゃうなぁ、2人してそんなに虐めないでくれよ」
兄弟なのか知らないが勝手に話は進み、完璧に外野を気取っている私だったが鈴川の方は、自ら会話に入って行くタイプらしい。「この人は?」なんて自己紹介を山崎に頼んでいる。
「あ、紹介するな?この人は兄貴の昔馴染みで清永 雪さん。兄貴は元々心臓と肺が弱くてさ、雪にぃも兄貴と同じ2年なんだけど凄く兄貴の心配してくれるんだ」
「そ、そうだったんだ」
「健人、自己紹介も終わったし皆でお昼を食べないか?良かったら、そこのお嬢さん達も一緒に」
え、私も?無理なんだけど…
「はい是非!ね、莉緒!」
「いや、私は…」
「そうと決まれば外に行こう。雪また後でな」
「はぁぁ、昼休み終わったら病院帰れよ?」
「おう!」
こうして私の憂鬱な昼休みが始まった。
ーーー中庭
「莉緒ちゃん、あーん♡」
私は今…凄く謎な状況に居る
「おい兄貴巫山戯んなって!莉緒は俺のしか食わねぇの!」
「はぁッ!?私のだって食べてくれるしっ!」
喧嘩されて居られます…
遡ること5分前
「頂きます」
「いただきまーす!」
四人で弁当を広げ食べ始めると、スバル先輩に話題を振りその場を盛り上げる。
「そういや兄貴、彼女は?」
「ん?別れたよ昨日」
「昨日ですか!?あららぁ」
「健人は、今回も進展無しか?」
「うっせーっ」
そんな会話の中で鈴川は、弁当箱にあった玉子を箸で取って私に差し出してくれた。
「莉緒、卵焼き食べる?」
「良いの?」
「うん、いつもコンビニパンでしょ?栄養付けないと、莉緒ってば細過ぎるんだし」
「ありがとう」
玉子を受け取り口に含めると、何やらコソコソ話していた山崎兄はニッコリ微笑んだ。
「よし健人。俺が手本を見せてやるよ」
「手本?」
「莉緒ちゃん、俺のもあげるよ」
「え?」
「はい、莉緒ちゃん。あーん♡」
という事だ…本当に謎…
「莉緒こんな猿みたいな、欲望丸出し男のご飯なんて絶対食べちゃダメ!」
「葵、酷くねッ!?」
男性の作ったご飯…
レグリーさんの手作り料理美味しかったな。あの味が忘れられない…また食べたいな…。
「うんうん、健人は猿みたいだよな」
「俺かよ!兄貴もだかんなッ!?」
「ほら健人。大声を出すから、莉緒ちゃんも固まっちまっただろ?」
「莉緒、おーいまた考え事か?」
「んー?」
私が考えるのを辞め顔を上げると、スバル先輩は自身の弁当箱から唐揚げを箸で取り私へ近付けた。どうしたものかと頭を悩ませていると、スバルの背後に大きな影がかかる。
「お前ら元気だなぁ、向こうまで聞こえてたぞ」
「綾城先生!」
「げっ、鬼が来た」
「鬼?」
「山本ぉ?お前は後で保健室な?」
「ほら鬼だ、どうせ珈琲入れろとかでしょ」
「ほぉ?なら分かった俺にも考えがある」
人の弱みを利用しやがって…
「分かったよ、行けば良いんでしょ」
「おう、待ってる。それよりスバル、お前出て来て大丈夫なのか?」
え?スバル先輩と知り合いなの?
そう思ったのは私だけじゃないらしく、鈴川も目をぱちくりさせて私の代弁をしてくれる。
「え?綾城と先輩は知り合い?」
「あぁ、去年は兄貴の担任だったんだ」
「なるほど、ご愁傷さまです」
「おい?宿題増やしてやろうか?」
「ごめんなさい」
綾城のクソ教師めッと心の中で文句を付けると、スバル先輩は綾城を見上げて尊敬の眼差しを向けた。
「そうだ綾城先生。また稽古つけてください」
「稽古?」
「それは良いが、医師の許可証持参の時な」
「うっ、流石お察しが早い… 」
稽古って何だろう?
綾城はスポーツ出来るの?
「じゃ俺は昼寝すっから騒いで起こすなよ」
「教師が堂々と昼寝宣言っ」
綾城はケラケラと笑って校舎から死角となる芝生へと向かいゴロ寝し始めた。
「何しに学校来てんの、あのクソ教師」
そう口に出すとスバル先輩は、弁当箱を片付けながら「にしても莉緒ちゃん」なんて声を掛けてきた。
「随分と綾城に気に入られてるんだね」
「へ?私が?」
「あんな風に人で遊ぶ先生を初めて見たよ」
「確かに!他の生徒とかウチらには変な煽りとかして来ないよね?」
「そうかな?」
たまたまでしょ?
綾城からしたら私なんて
オキニってってより問題児なんだろうし…
応援ありがとうございます!
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