烙印に口付けを

ぬい。

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《1章》鐘の音

1話 静寂な無念

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 ステンドグラスが光を放ち、床を色鮮やかに染めている。外の世界を遮断したこの空間は静寂と物々しさに包まれていた。今まで生きていたと錯覚させるほど精密に作り上げられた我が神、キリストの磔の彫刻は、静かに俺を見下ろしていた。外では今頃、血で血を洗っているのだろう。何もできない俺はただこうして、聖堂を掃除するしかなかった。

 ねじ曲がってしまったように感じるほど時間はゆっくりと進む。すべての席を拭きあげて、何もやることがなくなってしまった。

 天使と悪魔。第三の嵐は光と闇の戦いだった。死海文書に書かれていた通りに、争いが起こってしまった。今まで発展していた世界は、成長を止めた。すべて神に作られ生きる人間の未来のために力を注ぎはじめた。初期は、今までのやり方で問題なかった。たくさんの犠牲を払いながら戦い続けていた。
しかし、今までと違った。人間は、悪魔と闘う方法を知らない。

 そう、我々は、得体のしれない悪魔と闘っていた。死後の世界からよみがえったのか、呼び起こされたのか、人ではない何かと何年も戦い続けている。いろいろな国が、独自に進化していった宗教の教えをもとに、対抗している。しかしそう簡単に事が終息することはなかった。宗教の教えを知っていても、それに従い、神への忠誠を誓って、今まで人生をかけてきた宣教者たち、住職、牧師でなければ、争えなくなっていた。

 いつしか、宗教間の隔たりはなくなり、協力関係に発展した。それを管轄し、情報共有と援軍派遣、戦える人の育成をはじめとする組織が結成した。その中に、今までいろんな国に散らばっていた秘密組織と世間では言われもてはやされていた組織達も入って、皆が持っている知識を使うことで何とか悪魔たちと対等な戦力を維持している。

 だが、知識を並べ助け合っているのにもかかわらず、悪魔はどこからやってきているのかがわかっていなかった。どこかで呼び出しているだろうと結論は立てているものの、肝心の場所がわかっていない。
そんな議論を重ねているうちに人口は30億人に減少していっていた。予測として、このまま進めば一年後には10憶人になる。できる限りの力の増幅が急がれていた。

 悪魔たちは、心を蝕んでいく。そして、蝕まれた人間は、悪魔のいいなりとなる。使い古されれば、人間には死が待ち受けている。

「我が主、俺は、どうしたらいいのですか」

 小さくつぶやいていた。悪魔と闘うにはどれだけ神のもとで生きていたとしても、生身の人間だけでは操られて終わり。式神や妖精、天使と契約し共に戦ってもらう方法をとっていた。召喚術は、太古の昔から受け継がれたと語った組織から、伝授してもらっている。俺たちは、皆一度、その召喚術を使ってともに戦う存在とペアとなる。

 しかし、俺の場合は、何も出てこなかった。

 その時、やり方を教えてくださった方が言っていた。
『もうあなたは、守られているのかもしれない』

 守ってくれているのは、心から感謝している。しかし、俺は、守られているよりも、

「ごめん。俺も、一緒に行きたい」

 皆を、世界を、人類を守る力の一員になりたかった。

 静かな空間に自分のため息と鼓動を感じている。静かすぎて耳に嫌な音を感じている。圧迫されるような、喉を締め付けているような不快な音をじっと聞いている。心はもう耐えきれていなかった。

 静かな部屋に讃美歌が響き渡り始めた。それは俺が一番知っている俺の声で、聖堂の中が埋め尽くされていた。心からの嘆願。我々のもとに救世主が現れる。そう歌っている。その名前は、そう、メシア。

 讃美歌が終わる、静寂に戻る。そう思っていた。

 聖堂の入り口、重厚な扉が音を立てて開いた。
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