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第2話 妃候補って優雅です

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「お~~!!! 広い! 」

 私が今後生活する上で自由に使っていいと案内されたのはびっくりするぐらい綺麗な部屋だった。

 掃除が行き届いていて、ベッドはふかふかだ。
 私の国ではこんなものなかったなぁ……。

「ではシキ様はここをご自由にお使いください。それでは、また時間になりましたら夕御飯をお持ちします」

 メイドさんが淡々と話す。
 私の専属としてつけられたこのメイドの少女。まだ新人さんなのだろうか? まだ若そうだ。

「ありがとう。えっとお名前は……」

「名前を名乗る必要などありません。それでは」

 さっさと部屋から出ていってしまう少女。うーん、思っていた以上に獣人というものは嫌われているようだ。

 私はばふっとベッドに倒れ込んだ。想像以上に馬車のダメージが大きかったらしい。全身がズキズキと痛む。

 今日のご飯は何かなぁと思いながら私は深い眠りへと吸い込まれた。

◇◇◇

「……様」

「……シキ様」

 誰かに名前を呼ばれ、私は弾かれたように起きた。

「は、はい!? 」

「湯浴みの時間でございます」

 目の前にはさっきのメイドさん。手にはふかふかのタオルやら入浴道具やら色々なものを抱えている。

「湯浴み……?  」

「はい、シキ様には毎日決められた時間に入浴して頂きます。さあ行きましょう」

 半ば引きずられるようにして私は大浴場へと向かったのだった。

「ねね! 貴女のお名前は何て言うの? 」

「名前など必要ありません。好きなようにお呼びください」

 私に一瞥もくれることなくスタスタと進んでいくメイドさん。

「じゃあメイドだからメイちゃんで」

「……それはお止めください。ルリアと言います」

「ルリアちゃんね。可愛い名前」

 ルリアは返事をせず、凝り固まった表情筋をぴくりとも動かさない。

「お喋りしようよ~、ルリアちゃんは私のこと嫌い? 」

「そういうわけでは……」

 すると、あらと他の女の人の声がした。

 そちらに目を向けると、金色の豊かな髪を腰まで伸ばし、気が強そうではあるもののお人形のように整った顔をした女の人がにやにやと意地悪そうに笑っていた。

「……どなた? 」

 ひそひそとルリアに耳打ちする私。

 ルリアは悲鳴にも似たような声でこう答えた。

「シキ様と同じく、妃候補の一人、シャルロッテ=ルクス様です」

 シャルロッテ=ルクス。
 確かめるように名前を呼んでみる。うーん、人間たちの間では身分の高い人なのだろうが、いまいち私にはピンと来ない。

「あら、シキ様と同じだなんて笑ってしまいますわ。皆で使う大浴場に獣を入れるなんて汚らわしい」

 口元を手で押さえるシャルロッテ。

「大丈夫大丈夫、この時期は換毛期じゃないから毛は抜けないよ」

 まあでも確かにもう少し暖かくなったら尻尾の毛が生え換わる。確かにそれを撒き散らしたら迷惑がかかるかもしれないな……。 

 対策を考えなければなるまい。

 ぐっと言葉に詰まるシャルロッテだったが、すぐに負けまいとこう切り返してきた。

「カイル様もこんな雌犬を飼うなんて何が狙いなのかしら……ルリアも大変ね、犬の世話だなんて」

 おーおー、こんなにも敵意を剥き出しにされるとは新鮮だ。

「あら、ご心配なく。私、躾はきちんとされてますので」

 私の反応が気に入らないのか、シャルロッテはふん、と鼻を鳴らて従者を連れてさっさと引き上げていった。

「ふふ、退屈しのぎにはなりそうね」

 それにしても思っていた以上に獣人は嫌われているようだ。

 私はねえとルリアに声をかけた。

「何で皆、獣人を嫌うの? 」

 ルリアは一瞬押し黙った後、ぼそぼそと喋り始めた。

「獣人は野蛮で……凶暴で……汚らわしい……。皆小さい頃からそう教えられているんです。だから……今回獣人が妃候補になるなんて前代未聞で……皆酷く反対したんです」

「いや、あながち間違ってはいない」

「でも、国王様がどうしてもということで獣人を受け入れることになったのです」

 それで来たのが私というわけか。
 つまり大多数の人間は賛成などしておらず、王の命に逆らえずしぶしぶ私を受け入れたというわけ。

「ふーん、ま、私は何でもいいけどね」

 嫌われているのなら仕方ない、私は私で好き勝手に生きていこうじゃないか。
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