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悪役令嬢、思い更ける

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「よおイリア、生きてるか」 

「死んでるかもよ」

 明日の式の準備を終え、ベランダで夜風に当たる私。 
 そしてそこに現れたのは勿論ロキ。
 流石、神出鬼没の情報屋だ。

「眠れないのか? 」

 ロキがからかうように聞いてきた。私はコクリと頷く。

「眠れないわよ。だって明日なんだもの」

「まぁそりゃそうか」

 うんうんと納得したように頷く彼。そして月光に照らされた私の顔を見てこう言う。

「……痛そうだな」

 私の一晩経っても赤みが治まらない頬を見たのだろう。

「本当よ、まったく。お父様ったら娘を全力で叩くなんてどうかしてるわ! 」

 暇さえあれば氷で冷やしているのだけど一向に赤みが取れないのだ。

 ロキは何も言わずににベランダの手すりに腰かける。
 ただその顔は少しだけ悲しそうだった。

「何よ、変な顔して」

「別に。明日の式はどうなんの? やっぱ中止とか? 」

 私はぶんぶんと横に首を振る。

「通常通りやるって。毒殺事件はなかったことにして私はエドワードと結婚よ」

 はぁと白い息を吐く。
 結婚、憧れがない訳ではないけど今は罰ゲームとしか思えない。
 本当は好きな人と結婚式をあげて平凡に暮らしたかったんだけどなー。前世でも今世でもツイていない。

「へえ、毒殺事件を起こそうとした娘と結婚させるってのか」  

「お父様たちはエドワードも関与してることを知らないわけだしね。きっと私という厄介者を嫁に出して追い出したいって気持ちもあるんだと思うよ」
 
「なるほどな……」

「でもメイドもお父様も私の敵でエミリアの味方ばっかり。式の準備も居心地の悪さったらなかったわよ」

 ドレスを着せているときも私となるべく目を合わせないようにしていたし、陰で彼らがこそこそ悪口言っているのを私は知っている。

「変な奴らだな。長年一緒にいた娘よりぱっと出の娘を信頼するのか」

 まあ理由はなんとなく分かる。エミリアに備わる天性の主人公補正と、後はお父様と私のお母様は政略結婚だったということがあるのだろう。
 つまりお互い特に愛し合って結婚したわけではなく、世間体の為だ。

 だから別に私のことなどそれほど愛してないし、むしろ本当に愛したのは浮気相手との間の娘、エミリアなのだろう。

 ただ記憶の中のお母様は私のことを大切にしてくれていたと思う。

「別に良いわよ、私は悪役令嬢なんだから」

「悪役令嬢……? ああ。そのげーむとやらのキャラクターか。そういえばそれに俺は登場するのか? 」

「出るわよ、ミステリアスで不思議なやつなの」

 へえ、と少しだけロキは興味を持ったようだ。

「げーむの中の俺はエミリアに攻略されるのか? 」

「ううんされない。どう頑張っても貴方だけはエミリア主人公に恋をしなかったの。どうしてかしらね、バグだったのかな……」

「ばぐ? よく分からんが……俺はあんな女嫌いだ。そもそも好みじゃない」

 本人がそう言うならそうなのかも、と私は思った。
 ゲームでロキが攻略出来なかったのはそもそも主人公に好意を抱いていないか、それか別に好きな人がいるのか……。

「めっずらしい。ほとんどの男キャラクターはエミリアにメロメロだったのに。ロキってどんな人が好きなの? 」

 そうだなぁ、と彼は真剣に考え始めた。
 そして一呼吸置いて、彼はこう言った。

「俺はお前が好きだよ、イリア=クリミア」

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