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悪役令嬢、思い知る
しおりを挟む3日目の朝はエミリアの甲高い悲鳴で目が覚めた。
隣の部屋だった私が慌てて彼女の部屋に飛び込むと、そこにあったのは無惨にも切り裂かれたエミリアのドレス。
「何これ……!?」
傍らにいるエミリアはくすんくすんと泣くばかりで何も答えない。
「一体どうしたのエミリア、酷いことになってるじゃない……」
私がドレスを拾い上げる。
うわー、こりゃもう直すことが不可能なぐらいズタボロだ。
そしてすぐ近くには使用されたであろうナイフが落ちていた。
ナイフを拾い上げると、思っていたよりも軽い。これなら女の手でも扱えそうだ。
あ、ドレス。
そうして私はまた一つ記憶を思い出す。
ゲームだとこのドレスボロボロ事件の犯人は嫉妬に狂ったイリアだ。そしてこれが重大な証拠の一つとなり、断罪イベントに繋がっていく。
「あれ……?」
……しかし私はこんなことしていない。断じて。
それじゃあ今回の犯人は誰?
じーっとナイフを観察してみたが特に名前など彫られていない。
「どうしたんだエミリア!? 」
そしてお父様やメイドさんたちが次々に駆け込んできた。
「あ、お父様」
「何をしているんだイリア!? 」
「へ? 」
顔を合わせるや否や怒鳴り付けられ、思わずアホっぽい声をあげる私。
「エミリアのドレスに一体何をしているんだ? 」
「は? 」
そして私はとんでもない状況であることに気が付いた。
ナイフを右手で持ち、左手でボロボロなエミリアのドレスを持つ私。そしてその横で顔を伏して泣くエミリア。
何も知らない人が見たら私が妹を虐めているようにしか見えないだろう。
「違う違う!! お父様それは誤解ですわ。ただ私はエミリアの叫び声を聞いて様子を見に来ただけです」
「じゃあその手に持っているものは何だ? 」
「犯人に繋がるような証拠がないかと、探していただけですわ! 」
待て待て待て、やってもいない濡れ衣をかけられるなんてとんでもない。
「でも、エミリア様の部屋を知っているのって……」
メイドAが口を挟む。
「伯爵様とエミリア専属メイドのクロエですわね。でもクロエは昨日の夜から休暇で屋敷にはいませんでしたわ」
いいや、とお父様が首を横に振った。
「イリアも知っている。俺が部屋の案内をさせたからな」
あぁ……。と何かに納得したように頷くメイドAとメイドB。
ちょっと待って、完全に犯人扱いじゃない。
「私じゃないですわ! 第一、どうして私が可愛い妹にそんなことをしなければいけないの」
「まぁ良い、今日のことは見逃す。今後はクリミア家の令嬢として相応しい行動を心掛けなさい」
いやそれもう犯人に言う台詞じゃないですか!
「ちょっとエミリアも何とか言って下さい……」
少しだけエミリアの体を揺らすと、まるでドラマのようにぱったりと倒れ伏した。
え、私そんなに強く押してない……。
「……形見のドレスだったんです。お母さんの……ひっく」
嗚咽混じりに言い出す彼女。
いやいやいやいやいや、まずは私が犯人じゃないことをちゃんとお父様たちに教えて下さい!
「まぁお可哀想に……エミリア様」
エミリアを取り囲むように慰めるメイドたち。それどころかお父様もその輪に加わっているではないか。
「お前の母、セフィーは美しい心の持ち主だった……」
いやお父様、何でこんな場面で浮気相手との回想を始めるの!
一人残された私は完全に犯人のレッテルを貼られたのであった。
◇◇◇
エミリアを慰める輪に入っては不自然かと思い、逃げるように部屋に帰ってきた私。
思わずベッドに倒れ込んでしまった。
「大変まずい状況ね……」
エミリアを虐めなければ死亡イベントは起きない、そう信じていたはずなのに。
ーー起こしていないはずのフラグが何故か立ってしまった
どうして?
何にもしていないのに、まるで仕組まれたように濡れ衣をかけられた。
お父様もメイドたちもまるで宇宙人なのかと思うほど話が通じない。
このまま、うかうかと時間を過ごしていたらまたやってもいない虐めの証拠を掴まれ、断罪イベントに繋がってしまう。
「何とか別の方法を探して死亡イベントを回避しなきゃ……」
その為には一体どうしたら良いのだろう。
エミリア虐めない作戦が駄目なら、いっそエミリアとエドワードをくっつけてしまうのはどうだろう?
私の作戦はこうだ
①私、エドワードとエミリアの仲に気が付き、潔く身を引く
②二人の結婚を祝福
③ハッピーエンド
婚約破棄は結果としてされるものの、これならば私が死ぬ理由はないはず。
私はこれしかない、と頷いた。
そうと決まれば早速エドワードに交渉……する方法はないのでお父様かな?
結婚を取り決めているのは親同士だったはず。まずはその親を説得しよう!
いやでも、さっきあんなことがあったばかりだし顔合わせづらい……。
こうして多くの悩みを抱えたまま、私は貴重な時間を無駄にしてしまったのである。
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