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第43話 マザーとの対峙

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「へえ……貴女が報告にあった獣人の娘か」

 私の脅しにも屈しず、にやにやとした笑みを浮かべるセーラ。
 むむむ……こいつ意外と肝が据わっている。
 ただの悪役だと思っていたが、ちゃんとボスらしい風格を纏っている。

「やっぱりあんたがマザーだったのね、初めから臭いとは思ってたのよ」

「あらそう? なるべく気を付けてるつもりなんだけど、犬の鼻には勝てないわね」

 本性を露にしたセーラがにたりと笑みを浮かべる。
 追い詰められているような気配はなく、どことなく余裕を感じる。

「グレンには失望したわ。赤子のときからみっちり仕込んでやったのに失敗するなんて……」

「幼児虐待で訴えられるぞ」

 ふふっと馬鹿にしたように鼻で笑うセーラ。

「幼児? あれは私の所有物よ。私のものを私がどう扱おうと勝手じゃない。それに貴女も奴隷なんでしょ、分かるわよね」

「私のご主人様はそんなことはしない。もうあんたと喋るのも飽きた。そろそろ教えてくれないか? あんたは一体誰に雇われているんだ」

「知ってどうするの? 依頼主を殺すのかしら? 」

 私はふむ、と一呼吸置く。

「場合によってはそうなるかもね」

 アステルの死亡ルート回避、そのためには手段は選ばない。
 きっとそれが私の転生した理由なのだから。

「あら怖い。獰猛な番犬なのね」

「じゃ、さっさと教えなさい。早くしないと喉笛を噛み千切るわよ」

「……嫌だと言ったら? 」

 は? そのときセーラが動いた。眠りこけているグレンを抱き抱えると、その首にナイフを押し当てる。

「グレン! 」

 思わず私は叫ぶ。
 しまった、反応が遅れてしまった。

「おっと動かないで。さもなければこの子の首が飛ぶわよ」

 私としたことが……。人質なんて古典的な方法に引っ掛かるとは。

「随分この子と仲良くしてくれてたみたいじゃない? 一応母親として礼を言うわ」

「ぬけぬけと……」

 何が母親だ。散々彼をいたぶっていたくせに。
 むかむかとしたどす黒い感情が私のなかで渦巻く。

「じゃあそのまま動くんじゃないわよ。この子の命が惜しければね」

 じりじりと後ろに下がるセーラ。かすかに火薬の臭いがする。
 おそらくグレンを連れて逃走したあと家ごと私を焼くつもりだろう。

 しかもこのままグレン共々逃がしても必ず彼は殺されてしまう。

 どうする……?
 どうすれば良い……?

 私の頭の中で、色々な思考が張り巡らされた。

 そうだ、と私はある一つの結論に辿り着いた。
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