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第22話 社交場に現れし魔物
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ーーーとある名も無き貴族は見た
美しい貴族が集まるパーティー。シュタイン王子に近づきたくて綺麗に着飾った娘たち。
どこもかしもキラキラと輝いていて、目が滑ってしまうぐらい華やかな会場であった。
しかし、そこにある一匹の獣人が入ってきたとき、皆その者に目を奪われた。
さらさらとなびく雪のように真っ白な長い髪、黒と赤を基調としたドレスは普通はこういう場では選ばない。何故ならばそんな色味は地味過ぎるからだ。しかしそのドレスは彼女の白い髪と合わさってとても神秘的な美しさを引き立てている。
そして獣人らしく引き締まった肉体に、おしげもなく開いた胸元。しかし下品さは欠片もなく、まるで芸術作品のようである。
人形のように整った顔立ちに不似合いな耳と尻尾も今は不思議な魅了を醸し出している。その金色の瞳は、まるで未来を見通しているかのようであった。
「美しい……」
会場にいる誰かが呟いた。
この会場にいる全ての女たちが色あせて見える。
「あの人は何者だ……? 」
「どこかの貴族の娘か……? 」
そして勇気ある一人の男が彼女に声をかけた。
「はじめまして美しいお嬢さん。私はこの国の護衛長を務めるライゼと申します。お名前を伺いしてもよろしいですかな? 」
彼女はゆったりとした笑みを浮かべてこう言った。
「はじめまして。私はアステル=セリラムド様に買われております、ステラと言います」
買われている!? つまり彼女は奴隷!? それも獣人の……。
思わず開いた口が塞がらなかった。
確かに良く見ると彼女の首には王族のエンブレムである星と狼がデザインされた首輪が無機質に嵌っている。
「ど、奴隷……!? い、いやこれは失礼した。まさかアステル様の奴隷だったとは」
質問したライゼという男も困惑しているようだ。
それもそうだろう、彼女の美しさ、気品さは貴族の娘と比較しても引けを取らない。いや、むしろこのステラという娘の方が勝っている。
「お気になさらないで下さいませ。アステル様が不慮の事故で今、眠っておりまして……私が代わりに挨拶に伺いに来ましたの」
「不慮の事故!? 一体何が起きたのですか? 」
するとステラは悲しげに目を伏せる。
「アステル様は奴隷である私のことを庇って負傷してしまったのです。奴隷の教育、そう称して私を鞭打とうとして……」
「ひどい……誰がそんなことを……」
「いえ、アステル様は別に犯人を糾弾したい訳ではないのです。ただ私が代わりであることをお伝え出来ればそれで……」
なんと慎み深い女性なのだろうか。そのとき、私と同じように彼らの会話を聞いていたのであろう一人が声をあげた。
「私も見たぞ! ズーク大臣様がアステル様に鞭を打ったのを! 」
その声を皮切りにして、「私も見た! 」「僕も! 」という声が噴出した。
「ズーク大臣だと!? 」
その正義感の強いライゼ護団長が大きな声をあげた。そしてどこからともなく、そのズークが引っ張り出されて彼女の前に立たされた。
まるでそれは不思議な光景だった。奴隷であるはずの彼女の前で、大臣であるはずのズークがガクガクと震えながら頭を垂れている。立場が逆転してしまったみたいだ。
しかしただの奴隷であるはずの彼女には確かに畏怖を抱いてしまう何かがあった。
美しさ、気品、そういうことを超えた、女王の素質。そんな何かが確かに彼女には備わっていた。
「も、申し訳ありません……私はアステル様になんてことを……」
「ズーク様顔を上げて下さい。アステル様はそんなこと望んでいませんよ。そうかお気になさらずに」
「で、でも……」
ふふっと、口元は笑っているがステラからは底知れぬ重圧が漂っている。
「今日はシュタイン様をお祝いをする日。こういうのはやめて、めでたい日を楽しみましょうよ」
ね? と首をちょこんと傾げる彼女。
「ま、また後日謝罪に伺わせていただきます、失礼致します」
そういうとズークは逃げるようにして会場から出ていった。
そんな彼の後ろ姿を見てステラは小さく呟いた。
「……喉笛を噛み切られなくて良かったわね。おっさん」
うん、あんな上品な彼女がそんな言葉遣いをするはずがない。
きっと私の聞き間違いだろう……。
そしてそんな彼女を見て、周りの人々は何と思慮深いのだろうと感嘆しているのだった。
美しい貴族が集まるパーティー。シュタイン王子に近づきたくて綺麗に着飾った娘たち。
どこもかしもキラキラと輝いていて、目が滑ってしまうぐらい華やかな会場であった。
しかし、そこにある一匹の獣人が入ってきたとき、皆その者に目を奪われた。
さらさらとなびく雪のように真っ白な長い髪、黒と赤を基調としたドレスは普通はこういう場では選ばない。何故ならばそんな色味は地味過ぎるからだ。しかしそのドレスは彼女の白い髪と合わさってとても神秘的な美しさを引き立てている。
そして獣人らしく引き締まった肉体に、おしげもなく開いた胸元。しかし下品さは欠片もなく、まるで芸術作品のようである。
人形のように整った顔立ちに不似合いな耳と尻尾も今は不思議な魅了を醸し出している。その金色の瞳は、まるで未来を見通しているかのようであった。
「美しい……」
会場にいる誰かが呟いた。
この会場にいる全ての女たちが色あせて見える。
「あの人は何者だ……? 」
「どこかの貴族の娘か……? 」
そして勇気ある一人の男が彼女に声をかけた。
「はじめまして美しいお嬢さん。私はこの国の護衛長を務めるライゼと申します。お名前を伺いしてもよろしいですかな? 」
彼女はゆったりとした笑みを浮かべてこう言った。
「はじめまして。私はアステル=セリラムド様に買われております、ステラと言います」
買われている!? つまり彼女は奴隷!? それも獣人の……。
思わず開いた口が塞がらなかった。
確かに良く見ると彼女の首には王族のエンブレムである星と狼がデザインされた首輪が無機質に嵌っている。
「ど、奴隷……!? い、いやこれは失礼した。まさかアステル様の奴隷だったとは」
質問したライゼという男も困惑しているようだ。
それもそうだろう、彼女の美しさ、気品さは貴族の娘と比較しても引けを取らない。いや、むしろこのステラという娘の方が勝っている。
「お気になさらないで下さいませ。アステル様が不慮の事故で今、眠っておりまして……私が代わりに挨拶に伺いに来ましたの」
「不慮の事故!? 一体何が起きたのですか? 」
するとステラは悲しげに目を伏せる。
「アステル様は奴隷である私のことを庇って負傷してしまったのです。奴隷の教育、そう称して私を鞭打とうとして……」
「ひどい……誰がそんなことを……」
「いえ、アステル様は別に犯人を糾弾したい訳ではないのです。ただ私が代わりであることをお伝え出来ればそれで……」
なんと慎み深い女性なのだろうか。そのとき、私と同じように彼らの会話を聞いていたのであろう一人が声をあげた。
「私も見たぞ! ズーク大臣様がアステル様に鞭を打ったのを! 」
その声を皮切りにして、「私も見た! 」「僕も! 」という声が噴出した。
「ズーク大臣だと!? 」
その正義感の強いライゼ護団長が大きな声をあげた。そしてどこからともなく、そのズークが引っ張り出されて彼女の前に立たされた。
まるでそれは不思議な光景だった。奴隷であるはずの彼女の前で、大臣であるはずのズークがガクガクと震えながら頭を垂れている。立場が逆転してしまったみたいだ。
しかしただの奴隷であるはずの彼女には確かに畏怖を抱いてしまう何かがあった。
美しさ、気品、そういうことを超えた、女王の素質。そんな何かが確かに彼女には備わっていた。
「も、申し訳ありません……私はアステル様になんてことを……」
「ズーク様顔を上げて下さい。アステル様はそんなこと望んでいませんよ。そうかお気になさらずに」
「で、でも……」
ふふっと、口元は笑っているがステラからは底知れぬ重圧が漂っている。
「今日はシュタイン様をお祝いをする日。こういうのはやめて、めでたい日を楽しみましょうよ」
ね? と首をちょこんと傾げる彼女。
「ま、また後日謝罪に伺わせていただきます、失礼致します」
そういうとズークは逃げるようにして会場から出ていった。
そんな彼の後ろ姿を見てステラは小さく呟いた。
「……喉笛を噛み切られなくて良かったわね。おっさん」
うん、あんな上品な彼女がそんな言葉遣いをするはずがない。
きっと私の聞き間違いだろう……。
そしてそんな彼女を見て、周りの人々は何と思慮深いのだろうと感嘆しているのだった。
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