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第12話 写真の女性
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お互い一言も発することなく掃除を続けていると、私は一冊のボロボロの本を見つけた。
まるで吸いつけられるようにその本に手を伸ばした私は中身をパラパラとめくる。
「うーん……相変わらず読めないわね」
……ん? 待てよ……。
しかしその字をよく見ると、前世の文字に似ている。
そうか、いくら異世界と言っても元は日本のゲーム。日本語がベースになっているのかもしれない。
それなら読めるぞ、と調子を取り戻した私は掃除も忘れてその本に目を通し始める。
「……薬の作り方? 」
そこに記されていたのは様々な薬の作り方だった。その素材は見たことのないものばかりだが、この通りに作ると有効な薬が出来上がるらしい。
そして一番ボロボロなページに、一枚の女性の写真が挟まっているのが分かった。
漆黒の髪を束ねた、凛とした美しい女性だ。耳が尖っていることからエルフ族だろう。
でも、私はこの女性をゲームで見たことがない。こんなキャラクターいただろうか……?
「あ、それは……」
私が持っていた写真に気が付いたアステルが声をあげる。
「ああ、ごめんなさい。挟まっていたものだからつい」
私はその写真をアステルに渡す。すると彼はその写真の女性を悲しそうな嬉しそうな、変な表情で見つめる。
「これはどなたの写真ですか? 」
「……母さんだ」
振り絞るような声。
「ああ……」
アステルの母親は亡くなっていたはず。私は彼の暴いてはいけないものを暴いてしまったのかもしれない。
「母さんはエルフ族で、元々体が強くなかった。しかし彼らエルフの民は森の綺麗な空気の中でしか生きられない」
「母さんは俺のために命を削りながらも人間の国で生きることを選んだんだ」
私は何も言えなかった。
「俺も何としてでも母さんを長生きさせようと、色々な方法を探した。薬、魔法、医学。……でも駄目だった」
なるほど、この薬の本もそのためのものだったのか。
「衰弱しきった母さんは最期に俺に言った。産まれて来てくれてありがとう、って」
でも!! とアステルは大粒の涙をポロポロと流す。
「母さんは俺を生まなければ、もっと長生きが出来たんだ! 俺がいなければ……もっと……」
泣きじゃくるアステルはまるで子どものようで、私はただ彼の細い体を抱き締める。
「……部外者である私には何て声をかけて良いのか分からない」
でも、と私は一呼吸。
「貴方のお母さんはきっと貴方を生まなきゃ良かったなんて思ってないよ。そうじゃなきゃ、ここに住むはずないじゃない」
「でも……!! 」
「お母さんがハーフである貴方を人の国で育てたのは何か意味があるはず。その意味は私には分からないけど……貴方はやるべきことがあるはずよ」
嗚咽を漏らして私に抱きつくアステル。
「ねえ、アステル様。私のすべきこととアステル様のすべきこと、二人で見つけましょうよ」
「俺のすべきこと……? 」
「きっとあるはずよ。私が何としてでもアステル様を死の運命から救う。でもその運命の先を創れるのは貴方しかいない」
アステルはしばらく呆然としたように私の顔を見ていたが、その目の奥の光は爛々と輝いているように見えた。
まるで吸いつけられるようにその本に手を伸ばした私は中身をパラパラとめくる。
「うーん……相変わらず読めないわね」
……ん? 待てよ……。
しかしその字をよく見ると、前世の文字に似ている。
そうか、いくら異世界と言っても元は日本のゲーム。日本語がベースになっているのかもしれない。
それなら読めるぞ、と調子を取り戻した私は掃除も忘れてその本に目を通し始める。
「……薬の作り方? 」
そこに記されていたのは様々な薬の作り方だった。その素材は見たことのないものばかりだが、この通りに作ると有効な薬が出来上がるらしい。
そして一番ボロボロなページに、一枚の女性の写真が挟まっているのが分かった。
漆黒の髪を束ねた、凛とした美しい女性だ。耳が尖っていることからエルフ族だろう。
でも、私はこの女性をゲームで見たことがない。こんなキャラクターいただろうか……?
「あ、それは……」
私が持っていた写真に気が付いたアステルが声をあげる。
「ああ、ごめんなさい。挟まっていたものだからつい」
私はその写真をアステルに渡す。すると彼はその写真の女性を悲しそうな嬉しそうな、変な表情で見つめる。
「これはどなたの写真ですか? 」
「……母さんだ」
振り絞るような声。
「ああ……」
アステルの母親は亡くなっていたはず。私は彼の暴いてはいけないものを暴いてしまったのかもしれない。
「母さんはエルフ族で、元々体が強くなかった。しかし彼らエルフの民は森の綺麗な空気の中でしか生きられない」
「母さんは俺のために命を削りながらも人間の国で生きることを選んだんだ」
私は何も言えなかった。
「俺も何としてでも母さんを長生きさせようと、色々な方法を探した。薬、魔法、医学。……でも駄目だった」
なるほど、この薬の本もそのためのものだったのか。
「衰弱しきった母さんは最期に俺に言った。産まれて来てくれてありがとう、って」
でも!! とアステルは大粒の涙をポロポロと流す。
「母さんは俺を生まなければ、もっと長生きが出来たんだ! 俺がいなければ……もっと……」
泣きじゃくるアステルはまるで子どものようで、私はただ彼の細い体を抱き締める。
「……部外者である私には何て声をかけて良いのか分からない」
でも、と私は一呼吸。
「貴方のお母さんはきっと貴方を生まなきゃ良かったなんて思ってないよ。そうじゃなきゃ、ここに住むはずないじゃない」
「でも……!! 」
「お母さんがハーフである貴方を人の国で育てたのは何か意味があるはず。その意味は私には分からないけど……貴方はやるべきことがあるはずよ」
嗚咽を漏らして私に抱きつくアステル。
「ねえ、アステル様。私のすべきこととアステル様のすべきこと、二人で見つけましょうよ」
「俺のすべきこと……? 」
「きっとあるはずよ。私が何としてでもアステル様を死の運命から救う。でもその運命の先を創れるのは貴方しかいない」
アステルはしばらく呆然としたように私の顔を見ていたが、その目の奥の光は爛々と輝いているように見えた。
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