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第9話 清潔感って大事ですよね
しおりを挟む「ほらさっさと来て下さいよ」
「無理無理無理!!!! 一緒に風呂なんて!!! 」
痺れを切らした私が脱衣所に向かうと、下にタオルを巻いたアステルが怯えた様にこちらを見ていた。
なんだ、もう準備してるんじゃん。
「早くしてくださいよ、アステル様! 」
「いやいやいや!! 俺は別にこういうことをする為にステラを買った訳じゃない!! 」
こういうこと? こういうことってどういうことなんだろう。
アステルを死なないように頑張るのが私の仕事では?
「まーまー、さっさと終わらせましょう! 」
獣人の力には大人の男も敵わない。
無理やりアステルを風呂場に引っ張りだした私は彼をイスに座らせる。
「女の子がこういうことするのは良くないよ! 」
「大丈夫大丈夫、私こういうの上手いから」
長年兄妹たちの髪を切ってきたお陰か、それなりに散髪には自信がある。
最初の頃は変な前髪の切り方をして怒られたりもしたけれどね……。
「上手い!? ステラそういうことをしたことがあるのか!? 」
「後でお話は聞いてあげるから。じゃ、目瞑って」
「は、はい!! 」
素直に目を瞑るアステル。心なしか顔が赤いけど、今日そんなに熱いかな?
後で温度調整をしておこう。
では早速。
チョキン! と小気味良い音を立てて、アステルのお化けみたいに長い髪が切り下ろされる。うんうん、このぐらいの長さの方がさっぱりしているだろう。
「え、まさか上手いって散髪のこと? 」
「そうだけど? 」
「……俺の想像が腐っていたようだ」
? 何の話をしているのか分からないけどあまり職人には話しかけないでもらいたい。
わずかな集中力の乱れが大きな失敗に繋がるのだから。
「前髪はこんなもんかな。後は、痛んでる部分も切るか~ 」
このぐらいまで切れば顔が良く見える。
そうして私は順調にハサミを進めていったのである。
◇◇◇
「出来た~~~~!!! 」
無事に散髪を終えた私。
風呂場の床には大量の黒髪が落ちている。
そりゃあ胸まである長髪を肩に当たらないぐらいの長さまで切ったのだからその量はトンデモナイ。
「どうよ、アステル様」
鏡をまじまじと見つめる彼は信じられないとでも言いたげな表情だ。
「……スース―する」
何年も髪切ってなさそうだったもんね。首回りとか寒そうだ。
「長髪も悪くないけど。心機一転イメチェンも大事ですよ。それに良く似合ってます」
「ほんと? 」
元々顔だちは整っているのだ。髪を短くしたことによってその顔が良く見える。
それに前髪がでろんと長いままでは暗い印象を与えてしまうだろう。
今のアステルはミステリアスな美青年といった印象だ。うーん、髪を切ったぐらいで悪役王子がここまで変わるとは……。やっぱり髪型って重要なんだな。
「じゃ、後はしっかり湯船に浸かって下さいよ。私ここにいますから……背中でも流しましょうか? 」
は!? とアステルの声が風呂場で反響した。
「そこまでしなくて良い! 一人でちゃんと入れるからステラは脱衣所で待ってて」
そう?
そんなら仕方ない、外で待っているとしよう。
「あ、私も風呂に入りたいんですけどついでに……」
「俺の後に入れば良いだろ!!! からかうな! 」
え~、一緒に入っちゃった方が水道代の節約になるのに。
……いや、ここは前世の狭い我が家じゃなくて王族のお屋敷だった。
……つい庶民時代の節約術を思い出してしまうものだ。
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