チートなかったからパーティー追い出されたけど、お金無限増殖バグで自由気ままに暮らします

寿司

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第59話 春が来た?

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 どうしよう、どうしよう。

 心臓がバクバクと鳴っているのが分かる。
 シャワーから噴き出す水のポタポタという音が酷く遠くで鳴っているような気がする。

 流されるままにシャワー室に入ってしまったが、この流れってまずくないか……???


「いや、大丈夫だ。きっと全部俺の勘違いだ。ミシェルはただ汗を流したかっただけだし、今頃服を着て待ってるはず……うん! 」

 一人でベラベラ喋る俺。これ、端から見たら相当怪しいよな……。

「それなら何も遠慮する必要ないよな」

 俺はシャワーの栓を止めると、さっさとそこから出ようとしたのだった。

◇◇◇

「ミシェル、すまん待たせたなー」

 不自然ではないように、変な雰囲気をもたせないように言葉を選ぶ俺。勿論服はきっちり着ている。当たり前だろう!

「あ、お帰り」

 小さく呟くように返事をするミシェル。……どういうことだ、服装がさっきと変わっていない! むしろ湯上がりの肌がやたらと生々しくなっているような……。

「ふ、服着ろよ! か、か、か、か、風邪引くぞ!」 

「え?……うん」

 不意を突かれたような声をあげるミシェル。
 しかしその言葉とは裏腹に、ミシェルは大きなベッドに倒れ込む。

「お、おいミシェル! 大丈夫か? 」
 
 体調が悪いのかと思い、慌てて彼女を支える俺。
 しかし次の瞬間、俺はベッドに押し倒されている形になった。

「へ? 」

 何が起きたのか分からず変な声をあげる俺。

「ふふ、やっと触ってくれたな」

 そう言って意地悪っぽく俺を見下ろすミシェルは酷く扇情的に見えた。

「え、えーと、そのミシェルさん? 」

「……覚悟はしてたさ。君がこういう礼を望むことはな」

「え、あーーーー、その……」

 まずい、これは大変勘違いしているようだ。
 ただ気が動転している俺には何て返事をしたら良いのかさっぱり分からない。こういうときスマートなイケメンはなんて返事をするんだ? いやこういうときは据え膳食わねば恥というやつか?

「……その、なんだ。私は初めてなんだ。ヨリの希望に添えるかは分からないが……」

 ハラリとバスタオルが落ちる音がした。
 そして露になる少女のまっ白い肢体。
 紫色の照明に照らされたその体は妖しくヌラヌラと光って見えた。

「ヨリなら……良い」

 するとミシェルは顔を俺の唇に寄せると、そのまま唇を重ねた。柔らかい感触と甘い花のような香りが鼻孔を擽る。

 俺はその瞬間、正気に返った。

「うわーーーーーー!!!!!! 」

 悲鳴にも似た、情けない絶叫が部屋中に響き渡った。俺の声に驚いたミシェルが少し離れたのを確認して、俺は洗いざらい全てを話したのであった。

◇◇◇

「え、じゃ、じゃあお礼というのは帝国に行く許可証が欲しいということだったのか……? 」

「そうです……」

「ここに連れてきたのは……」

「あんまり人前で話すようなことじゃないと思ったので……」

 ミシェルの顔が赤くなったり青くなったりしている。目まぐるしく変わるので俺が追い付けない。

「そ、そうか。は、はは……」

「誤解させてすまない。俺の言い方が悪くて……」

 ベッドに顔を押し付けて土下座をする俺。もうミシェルの顔をまともに見れない。いや、見ちゃいけない気がした。

「じゃあ全て私の誤解ってこと……? 私はもしかしてただ……」

「何も見てない! 俺は何も見てないから! 本当に! 」

「死にたい……」

 そう言ったミシェルはパフンとベッドに寝転がる。
 とてもじゃないが俺には何て声をかける権利もないような気がした。

「今日起きたことはなかったことにしよう。な? ノーカンだノーカン」

 するとミシェルがきっと俺を見つめる。

「ノーカンなんて出来るわけないだろ! 私は……君となら結ばれても良いと思ったんだ」

「え? 」

 するとミシェルは全てを諦めたように、堰を切ったように話し始めた。

「もういいさ、この際言ってやる。私は君が好きだ。だからこういうことになってもむしろ嬉しかった」

「は、え、?? 」

 思考回路がショートする俺。だってただのアラサーのおじさんだよ俺……? そんなやつをミシェルほどの美人が好きってどいうことだ……? 美人局というやつか……?

「惚れた弱味というやつだな、良いぞ。帝国に入れるように何とかしてやる」

「え、の、ありがとう」

「君たちが何をしようとしているのか私には分からないが……きっと必要なことなのだろう」

「ああ、絶対に悪いことには使わない。これは誓っても良い」

「だろうな。君は何だか他の人とは違う、だから好きになったのだ」

 ミシェルは大きく息を吐いた後、ガバッと体を起こした。

「帰るぞ」

「は、はい!! 」

 ……なんで敬語になってるんだ俺。
 すると、ああそうそうとミシェルは言葉を続けた。

「返事は別にいつでも良い。待ってるから」

 そう言って微笑むミシェルを見て、俺の心臓がびくりと一回高鳴った。
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