チートなかったからパーティー追い出されたけど、お金無限増殖バグで自由気ままに暮らします

寿司

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第56話 消えたサクヤ

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 その足でサクヤの家に向かった俺たち。
 しかし彼女の姿はどこにもなかった。

「え、サクヤ? おーい! 」

 まさにもぬけの殻といった方が正しいだろう。
 あれだけ物で溢れていた店内が文字通りがらんどうになっていた。

「そんな……遅かった? 」

 ルーナが申し訳なさそうに顔をしかめる。

「一体どこに行ってしまったんだ……」

 一通り探してみるが、サクヤの姿どころかサクヤの痕跡すらない。まるでサクヤという存在が最初からなかったみたいだ。

「入れ違いかな? 」

「いや多分違うな。きっと行ってしまったんだ、向こうに」

「向こう? 」

「帝国だよ、帝国。おそらく単身で乗り込んでしまったんだ」

 するとルーナの顔色がさっと変わった。

「え、そ、それって凄く危ないんじゃ……」

「危ないさ、何せサクヤはイースの生き残り。どんな目に遭うか想像したくもない」

「早く連れ戻さなきゃ! 」

「分かってる、このままじゃあの予知の通りになっちまう……」

 おそらくまだここを発ってそう時間は経っていないはずだ。追うなら今しかない。

「でも帝国に入るには、審査があるのよ……」

「ええ。きちんと身分が証明された人じゃないと入国すら許されないの」

「それは……まずいな」

 きちんとした身分があるかと言われたら少々自信はない。むしろ取っ捕まってもおかしくないぐらいだ。

「サクヤさん、危ないの? 」

 シエルが不安そうに俺を見上げる。しかし俺はぽんと彼女の頭に手をのせた。

「大丈夫。必ず連れ戻す。この真実を伝えなきゃいけないからな」

 そう言ってやると、シエルは少し安心したように口許を緩めた。
 その様子を黙って見ていたルーナが口を開く。

「そうするときちんと準備して行った方が良いかもしれない。確かに早い方が良いけれど、サクヤさんだって無茶はしないはず」

「まあ俺の方が捕まったら本末転倒だもんな」

「俺……? そんな、私も行くわよ! 」

 ルーナが声を荒げたが、俺は首を横に振る。

「駄目だ。君はここで定食屋の看板娘として平和に暮らした方が良い。お父さんだってそれを望んでいたんじゃないのか? 」

「でも……!! 私はベルグの娘、真実を守る義務がある! 」

「君はお母さんがいるだろ? 旦那も亡くし、娘まで失ったらお母さんはどうなるんだ? 」

 そうするとルーナは言い返せないのかうっと言葉に詰まった。

「……神話のことも、サクヤも、俺が代わりに行ってくる。何も心配すんな」

「で、でもヨリだってシエルちゃんが……!! 」

「私は行きますよ! だって私はヨリの護衛なんですから! 」

 やる気に溢れたようにガッツポーズをするシエル。
 ああそういえばそんなこと言っていた時期もあったっけ……。

「こんな小さい子が……? 」

「シエルは置いていくと言っても俺に着いてくるだろう? むしろ一人にする方が危ないさ」

「ふふ、よく分かってるね」

 にやりと笑うシエルが何を考えているのか大方分かってきた。

「……分かった。私に出来ることはここまでみたい」

 ルーナは一瞬泣き笑いにも似た笑顔を浮かべ、意を決したように話し始めた。

「私、待ってるね。二人がいつ帰ってきても良いように、ハンバーグたくさん作って待ってるから」

「ああ、楽しみにしてる」

「だから、絶対にいなくなったりしないで……。ここに帰って来て! 」

「勿論です! 」

 シエルがにっと笑うと、俺にすがり付く。

「私とヨリがいれば怖いものはありませんよね」

「さあどうだか」

 俺は目を細めて見せると、シエルは不満そうに頬を膨らませた。

 そんな様子を見ていたルーナがぷっと噴き出した。

「ふふ、本当に仲が良いのね。何か安心したかも」

「そりゃ良かった」

「この日常がずっと続いていくんだろうな、ってそんな気がしたの」

 ルーナはそこで一旦言葉を止め、こう続けた。

「私に出来ることがあれば何でも言ってね」

 ああ、と頷くとルーナは満足そうに笑った。

◇◇◇

 ルーナが帰った後、俺たちはいそいそと荷造りを始める。

「うーん、荷物と行ってもどうせ無限に入るしなぁ。ある分だけ持ってくか」

 こういうとき俺の無限に入るカバンは便利だ。
 必要そうだなぁと思ったものを全て持っていくことが出来る。

「帝国か~……どんなとこなんでしょうね? 」

「さぁな……ただあんまり良いとこではなさそうだ」

 イースを滅ぼした国。それだけで俺からの印象は最悪だ。

「サクヤさん、待っててね。助けに行くから」

 すくっと立ち上がったシエルを俺は止める。

「まあそう焦るな。準備と情報収集は大切だぞ」

「あ、そっか」

 しかしやはりシエルは落ち着かない様子だ。
 やはり色々と気掛かりなことがあるのだろう。

「まあ今日は疲れたし、休むか。明日からまた準備しよう」

「賛成! 」

「明日は買い物と、物資を調達するぞ。良いな? 」

「はーい! 」

 シエルはそう言いながら、大きく手をあげたのだった。
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