チートなかったからパーティー追い出されたけど、お金無限増殖バグで自由気ままに暮らします

寿司

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第55話 主様

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 眩い光に包まれた俺たちが次に目を覚ますと、そこは俺の家だった。

「……戻って、これた? 」

「うう……」

 ルーナが隣で呻き声をあげながらゆっくり体を起こした。そして辺りの様子を見ると、ほっとしたように息を吐いた。

「戻って来れたのね……」

「そうみたいだな」

 しかし一体なぜ?
 確かに俺たちはあの世界に閉じ込められるような感覚があった。

 そして傍にはルークの姿もあった。

「何してるの? 」

「シエル……!? 」

 そしてそこにはシエルが不思議そうにこちらを見つめていた。小脇には例のアルバムを抱えている。

「そのアルバム……」

「ああごめんなさい、この本から黒い煙が出てたからつい触ったら……ヨリたちが飛び出してきてびっくりしちゃった」

「何ともないのか……? 」

「何ともないって……? 」

 経緯はよく分からないが、どうやら俺たちはシエルに救われたらしい。彼女が何らかのアクションをしたことでこちらに戻ってこれたようだ。

「いや、とにかく助かった。ありがとう」

 シエルの柔らかな髪を撫でると、気持ち良さそうに目を細めた。

「そっちのワンちゃんは……? 」

 シエルはぐったりとして動かないルークを指差す。
 
「あ、おい、ルーク!! 」

 体に触れたとき、彼の体がゆっくりと透けていることに気が付いた。

「な、何だこれ!? 」

『ふむ、あの世界は私の命と一心同体。どうやら限界が来たようですな』

「え!? 」

『元々あの世界は誰かに伝えるために造られた世界。それが達成された今、あの世界が存在する意味はないのだよ』

「嘘、ルーク! せっかく会えたのに! 」

 ルーナがすがり付くが、ルークは依然としてドライだ。

『私のような魔物には別れの感情は理解出来ませんな。ただ最後にルーナ様に会えたことは、嬉しく思います』

「そんな……」

『お元気で、ルーナ様。ヨリ様も』

「ああ……」

 俺は何も言えなくなっていた。ゆっくりと透けていくルークの体を見ながら、ただ何も出来ずに唇を噛む。

「え、このワンちゃん。透けてるよ!? 大丈夫ですか? 」

 状況が掴めないシエルが驚いたように身を乗り出した。そしてルークとシエルの視線が交わる。

 その途端にルークの表情が明らかに変わった。

『そ、そんな……主様……まさか……』

「ワンちゃん大丈夫? 元気だして」

 シエルがそっとルークの体に触れる。
 
『最後にこんな奇跡が起きるとは……思いませんでしたな』

「どうしよう……治らない……」

『もう良いのです。私は造られた世界を守る番人。こちらの世界で生きる資格はありません』

「ど、どういうこと? 全然分からないよ……」

 一方的に捲し立てるルークと、困惑するシエル。しかしこの口ぶりからしてルークはシエルのことを知っている……?

『最後に主様の復活をこの目で見れるとは……私は幸せです。どうか、どうか、あいつを……』

「主様って私のことですか……? ねえ、待って、人違いよ」

『……いずれ思い出すでしょう。大丈夫、主様には心強いお仲間がいるようだ』

「え! 」

 そして次の瞬間、ルークの体がまるで砂のように崩れたかと思うと、キラキラとした粒子となり、天井に舞い上がった。

『どうかお幸せに』

 最後にルークはそんな言葉を残して。

◇◇◇

「やばいな、情報量が多過ぎて頭がパンクしそうだ」

「そうだね……もう私、何が何だか」

 ここに戻ってこれたことを喜ぶ暇もなく、俺たちは情報を整理する。

「えーっとつまり、イースという国は帝国によって滅ぼされた。そして帝国が狙っていたのはイースに伝わる神話ということか? 」

「そうね」

 コクリと頷くルーナ。

「それでその神話は王国で伝わっているものとは少し違う。シロノミコトという神様が滅びの産声を封印する、というものだったな」

「魔王やテゼス様も存在しなかったわ」

「うーん……これだけじゃどうも。とりあえずサクヤにこのことを伝えるのが先だろうな」

「私もそう思う。サクヤさんなら何か分かるかもしれないし」

 おそらくサクヤは自宅に戻っているはずだ。
 俺たちは一先ず彼女の所に行くことにした。

「おーい、シエルはどうする? 」

「……え? 」

 ぼんやりとしていたシエルがはっと目を見開いた。

「サクヤの家だ。一緒に行くか?」

「は、はい。行きます! 」

 とは言いつつも、やはりどこか上の空だ。

「どうかしたか? ルークの言ってたことが気になるのか? 」

 こくりと首を縦に振るシエル。

「分かんない……でも私はルークという名前をどこかで聞いたことがあるんです。ただ奴隷時代が長かった私にそんな機会があったでしょうか……」

「シエル……」

「私は一体何なのでしょうか。ただの竜族の奴隷シエル、ではないのでしょうか? 」

 ボタボタと涙を流すシエル。
 その大粒の涙はシエルの頬をゆっくりと濡らした。

「怖いんです、もし私が魔物の仲間だったら? ヨリとお別れしなくちゃいけないかもって思うと……私……」

「変なこと心配すんな、例えシエルが何であれ、シエルはシエルだ。一緒に暮らしていこう」

「……」

 何も答えないシエルをぎゅっと抱き締めると、不器用ながらも抱き返してくれた。

 彼女の暖かい体温を感じながら、俺は決意をした。例えシエルがどんな存在であったとしても、彼女を一人にはしないと。
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