53 / 64
第51話 謎の世界
しおりを挟む「今帰ったぞー、サクヤー」
ルーナを引き戻して帰宅する俺たち。
しかし返事を返したのはシエルだった。
「おかえりなさい」
まだ眠いのか目が完全に開いていない。
「あれシエル起きたのか。サクヤは? 」
「私が起きたら用事があるって言って帰っちゃったよ。また来るみたいです」
どうも丁度入れ違いになってしまったようだ。
まあまた来るって言い残したということはきっと大丈夫なのだろう。
「サクヤさん……ごめんなさい」
ルーナが入れ違いになったことを気にしたのかしゅんと肩を落とした。そんな彼女に俺は気にするな、と声をかける。
「ふぁあ、私もうちょい寝よかな」
「おいシエル、寝過ぎだぞ」
「疲れちゃったんだもん」
俺たちが帰って来て安心したのかシエルは再びもぞもぞとベッドに潜り込むと、またすやすやと寝息をたて始めた。
最近どうもシエルの睡眠時間が長い。本人は別に病気ではないと言っているが心配だ。今度暇を見つけてマインさんに診て貰おうか。
「じゃあ仕方ないな。日を改めるか? 」
しかしルーナは首を横に振る。
「ううん、今すぐ見てみたい。ヨリがいるなら」
「そうか? 」
ルーナはアルバムを拾い上げ、俺に差し出した。
そして真っ直ぐに俺をじっと見つめる。こくりと頷いた彼女は覚悟を決めているようだ。
その覚悟には応えねばなるまい。
「やり方は私が分かる。お願いヨリ、見守ってて」
「分かった」
俺はアルバムの端っこを掴む。
「……パパ、一体何を隠してたの? 答えてよ……私に何を見せたくなかったの? 」
ボタボタと大粒の涙がアルバムに染み込んだ。
「真実を示せ!!!!! 」
そのとき、アルバムに淡い光がどんどん集まっていく。まるでルーナの来訪を待っていたかのようだ。
そしてその光は輝きを増していくと、今度はルーナを飲み込もうとゆらゆらと揺らめく。
「な、なに!? これ。やだ!! 」
予想外の出来事に面食らうルーナ。
半分パニックにななった彼女は、纏わり付く光を振り払うような動作をする。
「ルーナ!! 」
俺は慌ててルーナの手を握る。
「ヨリ! 」
すると、大きな光は俺たちごと全てを包み込んだのであった。
◇◇◇
次の瞬間、目を覚ました俺たちの前には見知らぬ町並みがあった。どこか日本の和を体現したような町で、俺は懐かしさに襲われた。例えるなら江戸時代の町並みのようだ。道行く人もサクヤのように着物を纏っている。
「どこだここは……? 俺たちは家にいたはずだ? 」
「ううん……」
「ルーナ! 」
ルーナも俺より少し遅れて目を覚ましたようだ。
すぐに周りの変化に気が付き、うわっ! と声をあげた。
『やあ、よく来てくれたね』
「うわっ!? 」
そしてすぐ側には大きな黒犬が鋭い瞳でこちらを見ていた。
『そう驚かないでくれ。私はベルグの使い魔。ここを守る番人さ』
「番人……? あ、もしかしてルーク?」
ルーナが何か思い当たる節があるのか、大きく目を見開いた。ルークと呼ばれた黒犬は少しだけ表情を緩める。
『お久しぶりです、ルーナお嬢様』
「やっぱり!! ルークなのね! 」
話についていけない俺は一人首をかしげた。
えーっと、ルークはベルグさんの使い魔で、ルーナも会ったことがあると……?
するとそれに気が付いたルーナが紹介をしてくれた。
「ああ、ルークは本当はケルベロスという魔物。でもパパが契約して、使い魔として使役しているの。最近は見掛けなかったけど……こんなところにいたのね」
『しばらく見ない内に大きくなりましたな。その隣の方は……恋人ですかな? 』
「え!!? 違う違う違う!!! そんなじゃない!!! 」
顔を真っ赤にしてぶんぶんと手を振るルーナ。
「あー、俺はその。付き添いみたいなもんだ」
『ふむ、そうなんですな。しかしルーナお嬢様、素直になった方が上手くいくかもしれませんぞ』
「だ、だから! 」
ルーナは顔を真っ赤にしたまま反論するが、ルークにとってはどこ吹く風だ。
そして俺に近付いてくると、しばらく興味深そうに見つめてきた。その深い緑の瞳に吸い込まれそうになる。
『……ふむ、貴方は何か不思議な匂いがするな』
「え、俺臭いですか? 」
するとルークがケラケラと笑い始めた。
『そういうことではない。何だか主を思い出す、そんな匂いだ』
「主……? 」
『深い眠りについてる主だ』
主というのはベルグさんのことなのだろうか……?
ルークの瞳はどこか遠い何かを憂いている、そんな色をしていた。
「そう、ルークはなんでこんなところにいるの? そしてここはどこなの? 」
ルーナがそんな質問を投げる。
うん、俺もしようと思っていた最もな疑問だ。
ルークはまるでその質問を予想していたかのようにさも当然と言った口ぶりでこう答える。
『ふむ、お答えしましょう。ここはベルグの作り出した記憶の世界。そして私がここにいるのはこの世界を守るため。これで答えになってますかな? 』
「記憶の世界……? 」
『そうです。ベルグが体験した、知ったことを記録するために作り出した仮想世界なのです』
「つまり、ここは本当の世界ではない……? 」
『そうです。だから貴方たちはここにいる人間に触れることも会話することも出来ません。一切の干渉が許されない世界なのです』
「そう……」
『口で説明するより見た方が早いでしょう。私はここの案内人も担っているのですよ。さあ、行きましょう』
そう行って踵を返すルークを、俺たちは追いかけ始めた。
5
お気に入りに追加
3,045
あなたにおすすめの小説
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
果たして、阿宮は見知らぬ世界でどう生きていくのか————。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!

称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる