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第48話 娘への呪い
しおりを挟む「ふーむ、やっぱりここには何かあるみたいやのう」
「でもくまなく探したよな? 特に気になる物は出てこなかったが……」
「ごめんね、私も何がパパの大事なものなのかは分かんないのよ……」
三人で頭を抱える。
もしかして何か秘密の部屋でもあるのか?
いや……でもそんなものを見た覚えはないな。
「分からんのう……もしかしたらベルグさんを殺した人に奪われた……とか」
「おい、サクヤ」
はっとした表情で押し黙るサクヤ。流石に今のは失言だったと反省しているらしい。
「ううん、でも可能性はある。パパが亡くなってすぐに、王国騎士を名乗る数人がここに来たの。何かを探している風だったけど……特に何もせずに帰ったな」
「じゃあどちらにしろ何者かに奪われたという線はなさそうだな」
しかし王国騎士がここで何かを探していた、というのは気にかかるな。
「まあパパは職業上、神話を疑うようなことをしてたからね。怪しまれるのは無理ないけど」
「それが異常だよ。俺の国じゃ神話を批判したって何も言われないぜ」
「俺の国……? ヨリってここの人じゃないの? 」
やべ、口が滑った。
俺は何でもない何でもない、と慌ててごまかす。
「……何はともかくベルグさんは目を付けられていたようやのう」
黙りこむ一同。この空気に耐えきれなくなった俺がお茶でも淹れるよ、と立ち上がる。
「あ、私が! 」
しかしそれを制止しようとしたルーナと手が触れた。
そのとき、俺の脳裏に映像が浮かんだ。
ーーーー場所はここか?
「ねえパパ! それ何? 」
幼いルーナがピョンピョン跳び跳ねながら男性の側に寄り添う。
「ん? ああこれか」
声の主はベルグさんだ。
彼は一冊の本をルーナに向かって見せた。
それは先ほど見たアルバムだ。この頃はまだ新しい。
「うわあ! 私の写真ばっかり! 」
「普段中々家に入れないからな。こうして記録しなきゃね。子どもの成長は早いから見逃しちまう」
するとベルグさんはルーナの頭に触れた。
「これが俺の一番大事なものだ。それにこれには凄い魔法がかかってるんだぞ」
「凄い魔法? 」
「もしルーナが真実を知りたいときはこのアルバムを抱えてこう言えば良い。『真実を示せ』と」
「しんじつをしめせ? 」
「ま、僕はこれを使って欲しくないんだけどな。忘れちゃっても良いぞ」
ううん! とルーナが首を横に振る。
「私忘れない! その約束の魔法、絶対に覚えてるから! 」
にっかりと笑うルーナを、ベルグさんは少し寂しそうに見つめていた。
ーーーー
「……アルバムだ」
「は? 」
俺はルーナの手を掴んだ。
「覚えてないか? アルバムと、父親との約束の魔法を」
「約束の魔法……? 」
ルーナはしばらく自分の頭の中を探るように目を閉じていた。そして直ぐにあ、と声を小さくあげた。
「真実を示せ……」
「そうだ。それだ! おそらくアルバムにベルグさんは何かを隠している」
「なんやなんや? 何か分かったんか? 」
サクヤが興奮気味に俺の側に寄る。
俺は彼女に向かってコクリと頷いてみせる。
「あのアルバムにおそらくベルグさんは何かを隠したんだ。きっと怪しまれないように」
「本当か!? 」
「ああ。それでおそらくその魔法を解けるのは娘であるルーナだけだ」
サクヤがきっとルーナを見つめた。
「お願いや、ルーナさん。さの魔法を解いてくれ!! 」
「え。え、あの! 」
ルーナは困惑気味におろおろと俺の顔を見る。
「金なら払う! 欲しいものがあるなら何だってあげる! だから、頼む! 」
ここまでサクヤが取り乱すのを見たことない。
よっぽど重要なことなのだろう。
しかしルーナは困ったように眉を下げているばかりで何も言わない。
「……よ」
蚊の鳴くような細い声。
「え? 」
サクヤが怪訝そうに聞き返す。
するとルーナはぽつぽつと自分の胸の内を話し始めた。
「分かんないよ……どうしたら良いのか……」
「私、ただの定食屋の娘だよ? テゼス様を普通に信仰して、普通に暮らしていただけ。パパの娘ってだけで……別に特別じゃない」
「ルーナさん……」
サクヤが呟く。
「私は別に神話の真実を知らなくても良い。もし全てを知って、王国から追われるぐらいなら何も知らないままで良い!! 」
「そんなの……見ないふりをしてるだけや」
「そうだよ、私は見ないふりをしたい。私はサクヤさんみたいに強くもないしお金持ちでもない。力もないただの一般人なんだよ!? 」
「ベルグさんの見つけた真実を……!! 明らかに出来るのはあんただけや!! 」
かなり興奮しているサクヤを俺は慌てて引き留める。
「おいやめろ、サクヤ。そんな急に言っても無理だ。皆が皆、君みたいに覚悟しているわけじゃない」
するとルーナがわなわなと肩を震わせて声を絞り出した。
「私だって好きでパパの娘に生まれたわけじゃない!! こんなの、呪いだよ!! 」
「お、おいルーナ! 」
ルーナが弾丸のように飛び出すと、どこかに去ってしまった。
「あーもう……。サクヤ、俺はルーナを探してくるからシエルをよろしくな」
サクヤは何も言わない。ただ小さく首を縦に振った。
俺はルーナを追って、家を飛び出したのだった。
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