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第39話 全てを倒せ
しおりを挟む「一先ずは大丈夫ですね」
城内に入ることの出来た俺たちは顔を見合わせて頷き合う。
城の中は既にたくさんの人で埋め尽くされていて、皆肩を寄せ合って魔物の恐怖に震えている。
中には怪我をしたものもいるらしく、苦しそうな呻き声も聞こえてきた。
俺も男を近くに寝かせると、シエルを探しに行かなければと踵を返そうとする。
しかし、ソニアに手首を捕まれ、それを阻まれた。
「外に出るのは危ないわ、ここで待ちましょう」
「そういうわけにもいかない、連れが今でも戦ってるかもしれないからな」
「でも……!! 襲われるかもしれないのよ」
「自分のことぐらい自分で何とかするさ」
早くシエルのところに行かなければ。
もし彼女が怪我をしていたらどうしよう、最悪の未来が思い浮かんでしまい、俺は心臓が高鳴るのが分かった。
「でも、でも、受付嬢として見過ごせません。冒険者じゃない人を魔物の群れに放り込もうなんて」
ソニアは心底心配してくれているのだろう、俺の手首をぎゅっと掴み、瞳を潤ませる。
「大丈夫、何とかなるさ」
無理やりソニアの手を振りきると、俺は大広間を飛び出した。
待ちなさい! というソニアの声が聞こえたが、俺は聞こえない振りをした。
どうしよう、どうすれば彼女を見つけられる?
足を必死に動かしながら考える。
「お、おい!! 外に出るな! 危ないぞ! 」
護衛らしい兵士の一人が止めようとするが意にも介さない。
そうだ、高いところだ。
高いところからシエルの姿が見えれば……検討違いに探し回るよりはマシだ。
「すいません! 」
俺は兵士の伸ばした手を華麗に避けると、階段を掛け昇る。
「そっちは立ち入り禁止だぞ!! 」
ごめんなさいごめんなさい。後でどんな罰でも受ける、だから神様、シエルを助けてあげてくれ。
ひたすら長い螺旋階段を、息が切れるのも構わずにただ走り続ける。
そして明るい所に着いたかと思うと、どうやら屋上のようだ。
「ここなら……!! 」
しかし俺は直ぐに絶望した。
上空を埋め尽くすガーゴイルの群れ。
軽く100は越えていそうだ。
リーダーらしき個体は倒したはずなのに?
一体どういうことだ?
そして俺は一つの結論に至った。
リーダーを倒したからこそ、ここまで集まってしまったのかもしれない。そうするとこれは最悪だ。
「シエルーーーーー!!!! 」
彼女の名前を叫んでみたものの、返事はない。
俺の声が反射して聞こえてくるのみだ。
彼女を探そうにもこの数のガーゴイルを相手にしてちゃキリがない。不可能だ。
「使うしかないか……」
俺はあの、禁呪が書かれた本を取り出した。
敵を一掃できる、そんな魔法があれば使うのは今しかない。
何かないか、何かないか、何か……。
ひたすらページを捲っていくと、あるとき1つのページが俺の手を止めた。
「これだ……」
ーー神の雷を喚ぶ禁呪
悪いものを全て打ち倒す魔法らしい。おそらくこれを使えば……。
しかし俺の魔力が耐えられるだろうか?
生命を作り出すときでさえ俺は死にかけた。魔力を回復させれば大丈夫とはいえ、今度はアイテムの方が足りなくなるかもしれない。
「いや……それでも」
シエルを助けるためには、やるしかない。
俺はバッグの中からありったけの妖精羽の雫を取り出すと、全て飲み干していく。
先に飲んでおけばある程度は保険になる。思わず吐き戻しそうになるのを何とかこらえ、俺はひたすらに飲み続ける。
最後の一本を飲み干した俺はビンを捨て、本に書かれていた通りの文章を読み上げる。
「空を守る神々よ 我の前に立ち塞がる全ての穢れを払いたまえ! 悪を滅する裁きの雷!」
全身が引っ張られるような感覚がした。そして一瞬で意識が飛ばされそうになる。
「おえっ……!! 」
何とも言えぬ吐き気に襲われ、思わず口許を抑える。しかし吐くわけにはいかない。
せっかく魔力を回復したのだ。吐いてしまっては意味がない。
足腰がガクガクと震え、立っているのも辛い。しかし俺は彼女を救わなければいけないのだ。
頭上を見ると、見たこともないぐらい真っ黒な雲がどんどん集まっているのが見えた。
大量のガーゴイルたちも流石の異常事態に気がついたのか、おろおろと辺りを警戒している。
「うっ……」
魔力が足りない。
俺は情けなくもひたすら魔力回復アイテムを摂取していく。ぐんぐん魔力が消費されていくのが分かる。
一瞬でも気を抜けば命を持っていかれてしまいそうだ。
「おい!! 貴様!! 」
ようやく追っ手の兵士が俺に追い付いたようだ。
しかし直ぐに空の様子を見て絶句した。
「な、なんだこれは!? 」
黒々と大蛇のように渦を巻く雲。辺りはまるで夜になってしまったかのような暗さに包まれる。
「げほっ……ごほっ……」
口に血の味が広がる。
もしかした吐血してしまったのかもしれない。
「これは君がやったのか!? どういうことだ!? 」
そんな早口で捲し立てられても困る。
何せ喋ろうにも口が回らないのだ。
そのとき、ピシャアアアアアアと鋭い音がしたかと思うと、近くにいたガーゴイルの体を青白い雷が貫いた。
「……やった」
俺は一人ほくそ笑んだ。
魔法は成功したのだ。
次々に天空から落ちてくる雷がガーゴイルたちを貫いていく。ギャッという短い悲鳴を上げて絶命していく魔物の群れ。全滅させるのにそう時間はかからないだろう。
この世のものとは思えない幻想的な光景に、俺ですら驚いている。まさかここまで上手くいくとはね、死にかける価値もあるってものだ。
「こ、これは……」
兵士が目の前の光景を信じられないと言った風に、目を丸くして固まっている。
そして彼がぽつりと俺を見てこう呟いた。
ーー蒼天の大賢者様だ、と。
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