チートなかったからパーティー追い出されたけど、お金無限増殖バグで自由気ままに暮らします

寿司

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第33話 テゼス様の導き

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「タクト……」

「お久しぶりです、ヨリさん」

 彼も昔と違っていた。
 確かに爽やかな好青年であることには変わりない。

 しかし全身についたたくさんの傷痕や、ボサボサの髪型が今までの波乱万丈な出来事を物語っているようだった。

 そして何よりその瞳、ギラギラと充血したその目はもはや普通の高校生のものとは言えない。

「嫌だ……嫌だ……」 

 アズサが涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら俺の背中に隠れようとしていた。しかしタクトは気にすることなく、にこにこと笑っている。

「すいません、アズサが迷惑をかけたみたいで。ほら、アズサ。行こう」

「嫌だ!!! 行きたくないいいいい!!! 」

 あまりにも異様な姿に、さすがの俺も見て見ぬふりも出来なかった。

「お、おいどうしたんだアズサは。さっきも女神様だの悪魔だの、何か口走っていたが」

 だ、だめ! とアズサが顔色を変えた。
 するとタクトの笑顔が消え失せた。

「……悪魔? 」

「違う、違うのタクト。ただの冗談で……!! 」

「本当に?」

「本当……!! 本当よ! ほら、ただの聞き間違いよ。あたしが女神様のことを悪く言う訳ないじゃない……!! 」

 そっかー、すると直ぐに元の好青年顔に戻るタクト。まるで二つの人格が入れ替わっているような、不思議な感覚を得る。

「ごめんねアズサ、俺勘違いしてたみたい」

「い、良いのよ……あたしこそごめんなさい」

 まるで形勢が変わってしまっているようだ。
 前会ったときは、ワガママなアズサに振り回されるタクト、という図式だったような……。

 ほんの数ヶ月でいったい何が……?

 ポカンとしている俺に気が付いたのか、タクトがこちらに声をかけてきた。

「すいませんねヨリさん。」

「いや、それは構わないけど……えっと、その女神様とは誰のことなんだ? 」

 するとタクトはまるで恋する乙女のように、興奮気味にこう答える。

「女神様とはこの世界を守るテゼス様のことですよ。俺たちは彼女の導きのもと、この世界に降り立ったのです!! 」

「テ、テゼス様? 」

 その神が俺たちをここに召喚した存在だとでも言うのだろうか。

「はい!! テゼス様の助けを求める声が聞こえます。俺たちは一刻も早く彼女の元に行かなければならないのです」

「そりゃ大変だな……」

「ヨリさんも心配しないでください。俺たちは必ず魔王を倒し、テゼス様を解放してみせますから! 」

「あ、ああ。頑張ってくれ」

 あまりの剣幕に何も言えなくなる俺。
 なんだかタクトが怖い。まるで何かにとりつかれているような、そんな目をしている。
 
「そうだ、カナちゃんはどうしたんだ? 一緒じゃないのか? 」

 これ以上、そのテゼス様の話を深く知ってはいけない。そう思った俺は話の流れを変えようとそう切り出した。

「カナ? 勿論一緒ですよ。今は多分……お祈りに行っていると思います」

「そうなんだ、流石僧侶だね」

「彼女も素晴らしいテゼス様の信徒なんですよ。俺も見習わなくちゃなと思います」

「へ、へえ……」

 どんな話題を振ってもテゼス様に行き着いてしまう。
 い、一体どうすれば良いんだ……。

「あ、丁度来ましたよ」

 タクトがおーいと手を振る。
 
「タクトー。あら、ヨリさん」

 俺は今のカナの姿を見て絶句してしまった。
 ボロボロのローブに、血らしきものがこびりついている。
 そして黒い闇を映したような黒々した瞳は、何も見ていないようだった。

「ふふ、お久しぶりです。お元気ですか? 」

「久しぶり……カナちゃん、なのか? 」

「そうですよー」

 抑揚のない喋り方がまるでロボットみたいだ。
 ごく普通の女子高校生だった娘が、ここまで変わるとは……。

「血だらけだけど……大丈夫? 」

 ああ、それは大丈夫ですよ。とタクトが代わりに答えた。

「カナは血を流すことで誰かを回復させることが出来るんです」

「え!? 」

「僧侶の能力にふさわしいでしょう? 女神様より授かった奇跡の力なんです」

 にこにこと顔色一つ変えずに喋り続けるタクト。

「え、えっと。カナちゃんは大丈夫なのか? その……痛くはないのかなと」

「大丈夫ですよ。むしろ私嬉しいんです。私が傷付けばそれだけ誰かを救うことが出来る。ああなんて素晴らしい力なんでしょう」

 ローブからちらりと覗いたカナの腕には無数の傷が刻まれていて、俺は思わず目を背けた。

「おっともうこんな時間か。そろそろ行きましょうか」

 タクトが立ち上がると、それに釣られるようにしてカナも立ち上がる。
 そして俺の方に振り替えると、こう言った。

「さようならヨリさん。安心してください、この世界は俺たちがちゃんと守りますから」

 その右手ではしっかりアズサの腕を掴んでいる。
 アズサは絶望的な表情で俺を見つめるが、俺にはどうすることも出来ない。

「ああ、またな」

 三人の姿が見えなくなった後も、そのあとしばらくはアズサの絶望に満ちた表情が焼き付いて消えなかった。

 彼女の運命を思うと、俺は祈ることしか出来ない。
 その得たいの知れないテゼス様がアズサを守ってくれますように、と。

 


 
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